リヒター成り代わり
とにかく逃げなければ。私の頭の中はその考えで一杯だった。私を見るあの人の目が妹に向けるそれではないことに気付いたのはいつからだろう。そもそも私は何故この立ち位置に生まれてしまったのか。妹でなく、弟に。女ではなく、男に生まれていたらこんな間違いは起きなかったのに。
前世からあの人の性格を知ってはいたが、まさかそれが自分の身に起きようとは。
誰かに刺されて死んで、目が覚めたら私は私でなくなっていた。私を魅了したあの世界が、今ではこんなに憎らしい。あの人の弟である彼はどこにも存在しておらず、私がその位置に存在していた。彼と同じ深緑の髪に赤い瞳。その事実が私に絶望を与えた。
「っ……、はぁ、はぁっ……」
息は乱れて、足がもつれる。それでもあの人から逃げなければ。逃げなければいけない――
「ユリア」
「っ!?」
耳元で聞こえたのはあの人の声。振り返る暇もなく私は彼に抱き締められた。
「いけない子だ、私から逃げるなんて」
「離してくださいっ!!」
彼の言葉には狂気が含まれている。私はそれが酷く怖い。彼の腕の中でもがくけれど、彼の力は強かった。ヴァンパイアになったからと言っても所詮は男と女だ。力の差は歴然としている。
「ああ、やはりお前は閉じ込めておかなければ」
「!?」
ああほら、私の頭は恐怖に支配されてしまった。
「愛しているよ、ユリア」
その言葉で私は気を失った。
目が覚めると、ベットの上。でもそこは私の部屋ではなかった。手足には枷が付き、ベットの柵に鎖で繋がれ、私はそこから動けなかった。身体は重く、起き上がることさえできない。
「こんなの……」
「目が覚めたようだね、ユリア」
「兄、上」
私の顔は恐怖に歪んでいることだろう。それでも彼はさも嬉しそうに私の髪をひとすくいして口付けた。
「私がこんなに愛しているというのに、何故お前は私から逃げるのだろうな」
「私、と兄上は兄妹なのですよ!? そんなこと許されるはずがっ、ん……っや」
「ああ、愛おしい。お前の全ては私のものだ」
私の言葉を強引に奪った彼は動けない私に覆い被さった。そして首筋へと顔が近づく。
「あ、兄上っ!? な、にを……」
「ふふ……、怖がることはない。ただお前を私のものにするだけだ」
「やっ、……いや、いやぁぁぁぁぁぁーっ」
彼に囲われ、身も心も凌辱された私は、ついに彼の子どもまで身籠ってしまった。
「ユリア、愛しているよ。永久(とわ)に」
「兄、上……、わた、しも」
――アナタヲアイシテル。
逃げられないのなら諦めてしまいましょう。
愛してくれるのなら身を委ねてしまいましょう。
@@後書き@@
・こんな感じになりましたが、リクエストに沿えたでしょうか。
・原作のカールハインツはゲスくて苦手です(^^;)。
・でも頑張って書けました。
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