「なあ、アンタ。……どっかで会った?」 教室から抜け出して学校の廊下を歩いていたら後ろからそんな声が聞こえた。 もしかしなくても、この鳥海声は絶対に、逆巻家長男であるあの無気力ダル男のものだ。 そのまま無視して行こうとすると、俺の腕を掴んできた。それにしても、動きが速すぎないか? ヴァンパイアだからなのは分かるが、こいつはあのニート野郎だぞ? 自分から近づいてくることをしないはずじゃねーのかよ。 「んだよ、ニート」 そう言って俺は掴まれた腕を動かしてシュウの手を振りほどこうとした。でも無理だった。シュウの握力いくつだよこれ。 「答えろよ」 真剣な顔をしてこちらを見てくるシュウは、いつもの気だるげな雰囲気が嘘のようだ。 「痛ってーよっ!! 離せ!!」 よし、今度は外れた。 ったく。会ったことがあるだぁ? あるに決まってんだろ。学校で。 なんつーアホ発言(一応お馬鹿設定)は置いといて。実はゲーム通りに小さい時の俺はシュウに会っている。 そーいや、あの時可愛かったな。 「お前、エルカだろ」 覚えてない振りで良いのか? 『エルカ』は小さいシュウに名前を聞かれて、とっさに言った名前だ。いや、本家がエドガーって名前だし、どうしようかと思った俺は、そう答えたのだ。エドガーの名前を崩す形になったが、一応女だし『エルカ』にした。本当の名前は今の名前の『トウカ』だ。成り代わりする前と同じ。 「はぁ? 俺の名前は無神トウカだ。そんな名前じゃねぇ」 村が焼けて、大火傷を体に負っても俺は記憶を無くすことは無かった。記憶無くすと色々困るんで、頭は死守した。ガチで。 「……」 「何か文句あんのかよ。ニート野郎」 「ある」 即答しやがった。なんだこいつは。 「理由は?」 「……」 顔そらしてんじゃねーよ。つーか顔が赤くなってんのは気のせいであってるんだよな? 照れ顔を見せるシュウはレアだろ。 「おい」 「……エルカが」 「は?」 「エルカが好きだから」 ――好きなやつのことを覚えてるのは当然だろ。 「……」 今度は俺が無言になる番だった。 ああもう、知らない振りをしようと考えていたのに。そんなことを言われるなんて思ってもいなかった。 「可愛いすぎだろお前っ」 全世界のシュウクラスタにボコられるかもしれないが、俺はシュウにそう言って抱きついた。 「……エルカ、 なのか?」 「ああ。つってもトウカの方が本当の名前だけどな」 「本当に……エルカ」 「なんだよ、お前から言っておいて今更疑うつもりかよ」 「……エルカ」 あーあ。こいつマジで天使か何かだろ。 (鍵っ子とアズサも天使の部類だ) 「お前が忘れなかったように、俺も覚えてるぜ。シュウ」 好きなやつのことを覚えてるのは当然だろ? シュウ→ユーマ成り代わりのつもり |