木陰で昼寝をしているカナトを膝枕しながら、コーデリアは本を読んでいた。アヤトとライトの姿が見えないのは、二人が遊びに行っているからである。 「ん……母、様」 寝言を聞き、コーデリアは自分と同じ髪色のカナトの髪を撫でる。その表情は慈愛に満ちている。 そして、もう一度本のページに目を戻そうとすると、何かが駆けてくる音がした。 「お母さんっ!!」 息を切らせてやって来たのはライトであった。 「ライト? どうしました? アヤトは」 その様子に目を丸くしたコーデリアはライトにそう言った。 「アヤトがっ、アヤトが」 大きな声でアヤトの名前を呼んでいることでカナトは目を覚ました。 「……ライト?」 「お願いっ!! お母さん、早く!」 座っているコーデリアの手を掴んでライトは急かす。カナトはもう起き上がっていた。 ライトの慌てように何かを察したコーデリアは立ち上がってライトについて行った。 ライトの行く先に池があることを思い出したコーデリアはハッとする。 「まさか、池に!?」 「アヤトが池の近くに咲いてた花を採ろうとして」 足早になった二人は、池に近づくにつれてバシャバシャという音を耳にする。 そして、そこにいたのは池に落ちて溺れそうになっているアヤトだった。 「アヤトっ!?」 コーデリアはアヤトの名前を呼ぶ。 「う、げほっ! あ、かあさ、ごぷっ」 もがくアヤトの姿を見てコーデリアはいてもたってもいられなくなり、靴も脱がずにそのまま池に飛び込んだ。 「お母さん!?」 突然のことにライトは驚きの声をあげる。そして後から追い付いたカナトがやって来る。 「母様!?」 「ライトとカナトはそこにいて!!」 コーデリアは二人にそう言うと溺れそうなアヤトの側へ泳ぐ。 水音を立てる水面とアヤトのもがく声がコーデリアの不安を掻き立てる。 「アヤト!!」 近づいて抱きしめようとするも、アヤトが暴れてしまう。 「ごほっ! うわぁぁ、嫌、だ嫌だっ。げほっ」 「アヤト。大丈夫、大丈夫です」 なんとかアヤトを抱きしめることができたコーデリアが安心させるように声をかける。 「か、あさ……。うぇ」 「しっかりなさいアヤト」 コーデリアはアヤトを抱えたままライトとカナトのいる岸へと泳ぐ。水を吸った服が鉛のように重い。 やっとのことで岸に着いたコーデリアは、先にアヤトを岸に上がらせた。ライトに支えられたアヤトは飲んでしまった池の水を吐き出す。 「母様も早く!!」 カナトの声を聞き、コーデリアも池から上がる。 「っはぁ……はぁ」 コーデリアは上がった息を整えるように呼吸をする。 「と、にかく……一安心、ですね」 「母様、怪我は」 「ありませんよ、……それよりアヤトは」 カナトに平気だと告げ、アヤトの様子を聞く。 「げほっ、げほっ……う」 ライトは咳き込むアヤトの背中を擦り、心配そうな顔をする。カナトも同様の顔だ。 「アヤト、大丈夫?」 「……だ、大丈夫」 やっと息の整ったアヤトは弱々しい声を出した。 「命が縮んでしまうかと思いましたよ、アヤト」 コーデリアにはいつもの笑顔は無く、とても泣きそうな顔をしてアヤトの側に行き、抱きついた。 「……お、俺。母さんが好きって言ってた花が咲いてたから、……だから」 「アヤト」 「……」 怒られるのではないかとうつむいたアヤトは寒さもあってか震える。しかし、それより震えていたのはコーデリアの声だった。 「私の為に、危ないことをするのはやめて。そんなことをしても私は嬉しくありません。アヤトやカナト、ライトの身に何かがあったらと思うとわ、たしは……」 涙を溢すコーデリアにカナトとライトが抱きつく。二人も泣きそうだ。 「ごめんなさいっ、ごめんなさい、母さん」 泣きながらアヤトは何度も謝った。 「もう……、こんな危ないことはしませんか?」 「しない。絶対にしないっ!!」 真っ直ぐに見つめる瞳はその決意を表していた。 「母様、僕もしません」 「ボクも」 「約束、ですよ?」 そう言うとコーデリアは、愛おしそうに三つ子を抱きしめたのだった。 |