小説 | ナノ


ユイちゃん目線






テストが近くなってきてその為の勉強をしようとしていると、ライトくんが『皆ですればいいんじゃない?』と言い出したのがそもそもの始まりだった。

私は今、リビングの机で教科書とノートを開いている。学年が違うシュウさんやレイジさん、それにスバルくんもいる。同じ二年生のライトくんやカナトくんはいるのに、トウカくんだけはいなかった。


「トウカくんはいないんだね」

私はポツリと呟いた。

「な〜に? ビッチちゃんってばトウカくんに気があるのかな〜」

「そんな訳じゃ」

ライトくんの言葉に私は反論した。

「ねぇテディ、この女は僕のトウカに気があるんだって。許せないよね、……うん。そうだね、テディもそう思うよね」

カナトくんはテディに話しかけながら私を睨む。

「全く、あなた達。口を動かすより手を動かしなさい。」

レイジさんがそう言って会話を中断させた。

「トウカの心配より自分のことを考えたらどうですか」

「レイジうるさい」

「っな!! 穀潰しの分際でよくそんなことが言えますね」

シュウさんの言葉にレイジさんが反応して言った。

「当たり前のことを言ったまでだけど」

「また北極送りになっても知りませんからね」

「ていうかさっき言ってたこと忘れてる」
「は?」

「『口を動かすより手を動かせ』だろ」

レイジさんの手はシュウさんとの会話の間、止まっていた。

「っこの、穀潰しが!!」

「うるせぇのはテメエらだろうが!!」

スバルくんはいきなり大声を上げて怒鳴った。


そして彼らの言い合いが始まってしまう。


はぁ。とため息を吐いて私は立ち上がった。そして、喉が渇いたのでキッチンに向かう。

キッチンに着くと、そこにはお湯を沸かして、飲み物を作っているトウカくんの姿があった。

「トウカくん?」

私に声をかけられたトウカくんは顔をこちらに向けた。初めて会った時は酷く嫌な顔をして私を見ていたけど、今はその時より幾分か柔らかい。といっても無表情なのだけれど。

「何か用」

すぐに顔を戻したトウカくんがそう言った。

「あ、えっと喉が渇いてて何か飲もうと思ったの」

私はトウカくんに言う。

「……」

すると無言でトウカくんは私にマグカップを差し出す。中身はココアだった。

「え?」

「これ飲んでさっさと行け」

すぐに追い返さないのはトウカくんなりの優しさなのだろうか。私はそれを受け取った。

「ありがとう」

「……」

トウカくんは答えない。 そしてまた無言になる。

「トウカくんはテスト勉強しないの?」
無言に耐えきれなかった私はそう言った。


「…………しない」

「そう、なんだ……」

空気が重い。私がそう思っていると、トウカくんが口を開いた。

「勉強なんて出来て当たり前、だった」


当たり前が普通。出来なければ普通じゃない。だから嫌いだ。あいつも、勉強も……。
トウカくんの言うあいつが誰なのかは分からないけれど、勉強をしない理由は分かった。

「トウカくんって頭良いの? 二年生ってことは留年とかしてないんだよね」

カナトくんやライトくんもそうだ。
「アンタよりはね」

うっ、ひどい。

「カナトとライトはギリギリだったけど」
「そうなの?」

「……さっさとそれ飲んで」

私の言葉を無視したトウカくんはそう言って自分の分のココアを淹れた。


「あと、俺の部屋に勉強道具持って来れば? 」

勉強しないとは言ったけど、アンタに教えないとは言ってないから。



トウカくんはそう言ってキッチンから出て行ったのだった。








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