成り代わり | ナノ




私がカールハインツ様に妻がいると知ったのはカールハインツ様にプロポーズを受けた時でした。

「私にはすでに一人、妻がいる」と。


それではその方にとって嫌ではないだろうか、と私は思います。昔の記憶は曖昧で靄がかかっていたのですが、私には、はっきりと覚えている言葉が一つだけありました。

ひどい頭痛がするくらい思い出した記憶の中。
おなじ屋敷に母親が数人、いいえ『母親』ですら無かった気がします。あれは、そう、『愛人』に近い。母はその中の一人。私はその娘。身分の低かった私の『昔』の母は他の愛人達や妻達にいびられ、身も心もズタズタにされ、最後は父にも裏切られて屋敷を追い出された。母の最後の言葉を私は何故かはっきりと思い出せます。

『お前を生まなければ私はあの人に愛されていたのに』


私の名前を呼ぶこともせずに、なじれるだけなじって死んでいった母の言葉が今でも記憶の奥底にあるのです。



いいえ、名前なんてものは私に存在していなかったのです。
私は存在すら否定された存在だった。




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