それは私がテラスで歌を歌い終わって数秒のこと。 部屋に戻ろうとした私を引き留める声がしました。聞いたことのある声です。それでも私は振り向きません。 「コーデリア」 カールハインツ様の声が私を呼びます。 「……」 「……こちらを見なくてもいい。だが、話を聞いてくれ」 振り向かない私にそう言ってカールハインツ様は話をします。 「君に言ったことは本気だ。だから……」 「……ごめんなさい。私は答えられません」 私は、逃げるようにしてテラスから出ようとします。ですが、出来ませんでした。 「行かせない」 私を後ろから抱きしめたカールハインツ様が耳元で言います。 「だ、めです」 だって、私は怖いのです。 「好きなんだ、コーデリア」 『好きなんだよ、***が』 「っ!?」 昔の記憶が、――『彼』の記憶が私の頭を過ります。それも、強い痛みを持って。 「ぃ……、痛い。嫌、い、や……嫌っ!!」 「コーデリア!?」 もがく私にカールハインツ様は驚くものの、その腕を離すことはせずに私を抱きしめたままでした。 next back |