成り代わり | ナノ


今になってどうして『彼』が出てくるのでしょう。
『彼』はもういないというのに。


「……っ、は」

「コーデリア」

後ろから抱きしめるカールハインツ様の声。

「あ……」

「キミは一体、何を抱えているんだい?」

優しく、それでいてどこか温かい。半ヴァンパイアの私は体温が少しだけありますがカールハインツ様は体温の無い、れっきとした純血のヴァンパイアだというのに、です。

「……」

「私は知りたい。キミが何を抱えて、何に苦しんでいるのか。まだ言えなくても良い、少しずつでも良いから、私に話してほしい」


「わ、たし……、本当は……」


貴方に抱いていたのは憧れではなくて、紛れもない恋心だった。

けれども『彼』は、私の恋心を利用して一緒にいるだけに過ぎなかった。私に飽いた『彼』に、私は昔の母のように捨てられた。


「最初から、知っていたんです。……この気持ちを」


でも今は違う。カールハインツ様は『彼』なんかじゃない。きっと、信じても大丈夫。

背をむけたままだった私はカールハインツ様の方へと体を向き直しました。そして、カールハインツ様と視線が合います。

「私は、貴方が好きです」



まだ、言えずに抱えていることはたくさんあります。けれど、これだけは言いたくなりました。




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