記憶の奥底にあるもののせいで、私はカールハインツ様のプロポーズを拒んでいました。 「私は怖いのです。いつかきっと、貴方が私自身を見てくれなくなるのが」 『昔』の父がそうだったように、私が『昔』の母みたいに捨てられてしまう気がして。 心の闇が重くのし掛かり、胸が苦しくなる。 「私がカールハインツ様に抱いていたのは憧れだったのかもしれません」 他の人とは違ったから。 だから、 「わ、たしは……」 けれども、どうして私の頬に涙が伝ったのでしょうか。 「ごめんなさい」 私はカールハインツ様から逃げるように去りました。 泣き顔を見られてしまうのが嫌だったからです。 その後から、カールハインツ様が私を訪ねて来ても、私は会わないようにしたのでした。 あの日の夜会で芽生えたものは一体何だったのでしょう。 その答えは……。 prev back |