Other Dream






 最近、茜の様子がおかしい。
 我は幼少期から茜とは旧知の仲であり、その関係で高校に上がってもなお昼を共にすることが多いのだが、最近の茜の食事の取り方が変わったように見える。以前は、もう少し何に急いでいるわけでもなく我が「もう少し噛め」と叱るまで栗鼠のように頬を膨らませながら物を詰めていた。しかし最近はゆっくりゆっくりと一口ずつ噛みしめるように物を食すようになった。弁当以外にも以前ならば片倉や猿飛から貰ったという菓子をほおばっていたのだが、最近はそれも断っているらしい。
 なおかつ最近は部活のない時は共にしていた下校も断られるようになった。どういう事情でそうなったのかを調べたところどうやらあやつは長曾我部の家に入り浸るようになったというではないか。部員の一人に探らせてそれを知った直後は思わず我も譜面台を蹴り飛ばしてしまったものだ。…いや、我はそもそも茜が長曾我部とどうなろうが知ったことではないのだが。
 そういった日々が数日続き、今日で恐らく8日が経とうとしている。今日の昼食の時間も相変わらず茜は小さめに口を開けて米を頬張っていた。いつもは後ろで髪をひとまとめに縛っていたはずだったのだが、昨日から茜は髪を下ろし、前髪をヘアピンでとめて登校している。今日は眉が昨日より少し整えられているように見えた。心なしか周りの茜に対する視線が違っているような気もしなくもない。

 「…茜」
 「ん?どうしたの?」

 ごくりと食べていたウィンナーを飲み込んでから茜が首を傾げながら我を見つめる。そのような目で我を見るな。貴様前までは飲み込まずに返事をしていたであろう。いつの間にそのような丁寧な女になったというのだ。

 「…否、なんでもない」
 「へ?何それ。珍しいね」

 「元就が話したいこと忘れるなんてあるんだね」と茜は卵焼きを箸でつまみながら呟く。違う。ただ我が貴様のことを妙に気にした発言をして、それで我が貴様を思っているなどというあらぬ誤解をされても我の迷惑にしかならぬからだ。それを思い至って問いかけるのを止めたまでのこと。そういった弁解を飲み込む。茜もそれで話は終わったのか、もぐもぐと卵焼きを噛み続ける。20回ほど噛んで茜は丁寧にそれを飲み込んだ。そうして今度は茜から「そういえばさ」と話題を振る。箸は止まっていた。

 「元就、今年のクリスマスイブって暇?暇だよね?」
 「は?…まぁ、そうだが」
 
 よかった、と茜がうなずく。茜とクリスマスイブを過ごすのは別段珍しいことではなく、例年通りのことだった。ただ今更ながら確認を取られることならば珍しいと言える。クリスマスイブは基本的に平日ならば放課後に茜に腕を引かれ、平日ならば家に押しかけられてどこかに行くことになっている。そういったことが例年続いたゆえ、我は予定を空けている。暗黙の了解のように約束はあるのだと思っていたのだが。

 「今年は休日だもんね!絶対暇のままにしてね。暇って言ったからには絶対ね!!」
 「…貴様、本当に茜か?」
 
 疑う要素が募るあまり、とうとうそのようなことを口にしてしまうと茜は案の定「は?」ともともと変だった顔がさらに変な顔になった。誤魔化すようにその旨を伝えると「元就が変なこと言うからでしょ!?」とこれまた不機嫌な顔になり顔の造形が悪化する。いや、確かに我が妙なことを口にしたことが原因なのだが。
 「まったくたまに冗談言うと思ったら笑えないんだから」と茜は怒りながら弁当箱を片付け、「とにかくクリスマスね!」といい、がたりと我の机を揺らして立ち上がった。そうして自分の席に弁当袋を戻して…偶々廊下を通り過ぎた長曾我部に体当たりをしに行く。…最近、どうやら長曾我部と仲が良いようだ。ならば長曾我部とクリスマスイブでもクリスマスでもなんでも過ごせばよかろうに。茜は長曾我部に頭を撫でられ、屈託ない笑顔を長曾我部に見せている。
 
 「……」

 気を遣るように机の中にあった本を取り出し、栞を挟んでいた所から読み進めようとした。が、頭に入らず、我は思わず先ほどまで茜が座っていた伊達の机を蹴飛ばした。いつの間にか隣の席に座っていたのか、「あー毛利さん、恋はいいけど八つ当たりはよくないと思うよ」と前だの苦言を呈する声が響く。誰が恋だ馬鹿らしい。苛立ちは予鈴が鳴るまで続いた。



 * * * *



 茜は長曾我部のことが好きなのだろう。疑問が確信に変わった頃にはクリスマスイブ当日を迎えていた。案の定茜は我の家に笑顔で押しかけ、「海沿いの喫茶店がねー今クリスマス仕様ですごいみたいなんだよー」と我を外に引っ張りだす。「貴様、それは長曾我部と見たほうがいいのではないか」と尋ねると「え?なんで?」とあっけらかんとした顔をされるものだから腹立たしい。腹立たしい、のだが。……。

 「不覚…ッ」
 「え?何々、何が不覚なの?」

 そのような目で我を以下略。「変な元就」とけらけら笑いながら茜は「電車でこっから30分もあるんだから早く行こ」と我を引っ張る。ふわりと、コートの裾からかすかに覗くスカートが揺れるのが見えた。思えば私服を見る機会がここ数か月ほどなかった。桃色の系統の服を着ている姿を見るのは数年ぶりになるだろうか。だが茜は我が胸中で不覚にも何を思ってしまったかについては全く気づいていないらしい。我もまた、それに関しては忘れることとした。



 * * * *


 
 喫茶店で茜の目的だったらしいクリスマス限定のケーキと紅茶を食したのちは別段、時折付き合う買い物と何一つ変わらないスケジュールだった。「クリスマスだからって人込みの多いところ行ってもねぇ」というあたり夢のない話である。いや、明日おそらく行くのだろう。長曾我部と。今日思い立ったように店先で購入した赤いカチューシャも、奴のために選んだものに違いない。
 何一つつまらぬ一日だったかというと嘘になるが、今日はふとした合間にそのようなことを浮かべてしまったがゆえか少し疲れた。だが、目の前にいる茜はとっぷりと日が暮れてもまだ笑顔でいるから感心する。明日の下見にでもなったのだろうか。毒づこうとした衝動をまた律する。毒づくほど何故我が茜を気にせねばならないというのだ。

 「あ、そうだ元就。これプレゼント。今日はありがとね」
 「…ああ」

 帰り際になって思いだしたように茜が肩に下げていた鞄から包みを取り出す。「大したものじゃないけど」と言いながら笑っていた茜の頬が赤いのは寒さの所為だったか、それとも。

 「あとね、今日ずっといつ言おうか迷ってたんだけどこの勢いに乗じて言わないと言えないから今言いたいんだけど」
 「…なんだ」
 
 それともこの後に続く言葉を茜のみが知っていたからだろうか。

 「…好き。私と付き合って」
 

 唐突な言葉に今度こそ思考が停止する。また、「不覚」という言葉が湧いた。



 (「可愛い」って思ってくれるかな?)
 「貴様、長曾我部が好きではなかったのか」「は?違うよ!元親にはね、肉体改造の協力とお化粧とか教わってたんだよ。元親の家トレーニングルームあるでしょ?」「……しい、」「え?」「まどろっこしいのだ貴様は!!」「えっなんで怒るの!?」「我がどんな思いをしたと思っている!!」「…えっと、つまりやきも」「言うな!言うでない!!」「えー…じゃあ私のことは結局どう思ってるの?」「……我に言わせる気か」「勿論。だってそれが聞きたかったんだもん」




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三年くらいぶりの更新ですかね?最近BASARA3宴に再燃しております。高校卒業時まではWiiでやりこんでいたのですが、私の現在地にはPS3なのでなかなかやる気になれず…でもやっぱりあれですね、ストーリークリアして三成さえレベルあげて天下統一したらやっぱりまあそれなりに出来る環境が整うのであとはさくさくとプレイしております。前は苦手だったのに今は鶴姫を使うのが楽しい。ちなみにこのネタは中編にしようとしたのですが再燃でいきなり中編は出鼻挫かれそうなのでやめておきました。



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