Other Dream


三成に盲目的に崇拝される話、鬱、死ネタ



幼いころからずっと慕い続けてきた。
私の大切な美しき人。

「茜様」

声を掛けると、彼女はふわりと柔らかな髪を揺らす。
そして、私にいつも笑いかけてくれる。
茜様のきらきらと輝く瞳に、――嗚呼!私が、私が茜様の瞳の中に!

「三成」

優しい声。
鈴のように穏やかな声。
この声が好きでたまらなかった。この声で呼ばれた私の名も。
そう、茜様の全てが愛おしかった。

「茜様、今日はですね。秀吉様が…」

茜様は、私の話をいつも真剣に聞いてくれる。
私が大好きな笑顔で、聞いてくれる。
時には、これまた大好きな泣き顔で。
そして、私の大好きな声で、相槌をうってくれる。
そんな慈悲深い茜様が愛おしかった。
だが、誰にでも優しい茜様は、同時に憎らしくも感じる存在だった。

「おぉ、茜!こんにちは」
「家康君!久しぶり、こんにちは」

秀吉様の座を揺るがそうとする憎き家康。
茜様は、そんな愚かな存在である憎き家康にまで、私の大好きな笑顔と、声を向ける。

「Hey茜、微分について教えてくれ!得意なんだろ?」
「も〜…政宗ったら、この前教えたばかりじゃない!」

茜様のお手を煩わせる存在、そんな名前を覚える価値のない奴にまで、茜様は慈悲深い態度で接する。

「あのね、三成。私、好きな人がいるの」

私が把握できない存在にも、茜様は慈悲深く笑いかける。
私だけの茜様のはずなのに。
私だけの茜様の笑顔、声、茜様。

「三成、私ね、付き合うことになったんだ。彼と」

…私だけの茜様は、その瞬間崩れ去っていった。

****

…やっと、お部屋の模様替えが終わった。
頑張って、茜様と似た外観の部屋を用意したのだ。
間取りが違うから、クローゼットの位置やドアの位置まではお揃いに出来なかった事が残念でたまらないのだが。
ベッド、カーテン、椅子に机は出来る限りの努力で再現することが出来た部屋。
大事な大事な、茜様と私だけの部屋。

「茜様、今日も私の話を聞いてくださいますか」

私は抱いている人形に眼を向ける。
私がお慕いし続けてきた茜様は、いなくなってしまったのだが、すぐに別の形で私の元に帰ってきてくれた。
最初は「絶対に許さない!」と思っていたのだが…一生懸命に謝る茜様がとてもかわいらしくて。

だから、今はこうして二人きり。
ここに入ることを許可されている者など一人もいない。
外の喧騒も、茜様と私の邪魔をする人も、この空間に入り込むことは出来ない。
ここは、私と茜様の永劫の逢瀬が許可された場所。

「茜様、どうかこの三成を、永劫貴女様のお傍に」

きらきらとした茜様の瞳が、私を見つめた。


人間遊び


「私、三成はいい加減自立すべきだと思うの」

茜が真摯な表情で僕を見る。もっともすぎる妹の言葉に、僕も「そうだね」と頷いた。
三成君は僕の友である秀吉が拾ってきた捨て子だった。拾われた恩と、秀吉にもともと備わっているカリスマ性のおかげか、三成君は秀吉に従順だった。
僕も妹と同じ年の彼を放っておけず、茜も自分に弟が出来たような気持ちで三成君に接していたから、三成君は僕たち兄妹にも従順だった。

『君が茜のことを貰ってくれるなら、僕も安心できるんだけど』

ある日茜が暴漢に襲われていたところを、三成君が助けてくれた。そのときに軽い気持ちで言ったその言葉。それが失言だと気付いた時にはもう手遅れ。茜への執着心は、誰から見ても異常なものへと変わっていた。
三成くんが生き生きしているから、最初は僕たちも気にしなかったのだけれど、最近は一層依存度が増している。それに茜は悪く言えば嫌気がさした、よく言えば心配するようになったのだ。
僕もそう鬼ではない。自分と血を分けた妹が辛い思いをするというのはさすがにつらい。
「根はいい子なんだけどねぇ」
うんうんと茜が同意する。そう、根はいい子なのだ。本当に。ただそのベクトルがどこか他人とはずれていて。

「…私に好きな人が出来たとでも言えば、三成は少し落ち着くかもしれない」
「いるのかい?彼に嘘は通用しないよ」
「…本当よ、本当にいるの」
「それは…じゃあ、誰だい?」
「…三成が嫌いな人」

やれやれ、どうやら妹は最悪な人を好きになってしまったようだ。
全てを知った三成君はどうなってしまうのだろう。狂うのか、怒るのか、裏切りだと叫ぶのだろうか。

「お兄様、私、三成は好きよ。でもね、心の底からお慕いしている人を憎む三成は好きになれないの」

よく似た幼なじみじゃないかと、僕はその言葉に顔を歪める。背を向けている妹は僕の心中に気づかない。ただ、「明日はどうなっちゃうんだろう。ついでに告白もしちゃおうかな」と、少し張りつめた声色で呟いていた。

それから数日後、何処かで見たようなお守りを胸ポケットに入れた首から先が無い死体が茜の通う高校で発見された。
その次の日には首と胴が離れ離れになった彼の嫌いな人がいた。

さて、そんな彼だが――彼は部屋にこもりっぱなし。
何をしても開かないそのドアの向こうからは、昼夜構わず笑い声が聞こえるのだそうだ。



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