「茜と申します。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いいたします」
3つ指を吐いて挨拶をする女。
シミ一つない白い肌。
日の光に照らされて煌めく黒髪。
鈴のようにコロコロとした声。
何処か控えめな印象を感じさせる語調。
媚のない何処までも純真な笑み。
男は、そんな少女には見向きもせず、言葉すら返さない。
それを見て、少女は困ったように「あの…」と呟いた。
「わ…私、もしかして何か知らぬ間に粗相でもしてしまいましたか…?」
不安げな少女の言葉が、男の耳に届いていないことはなかった。
だがしかし、あえて彼は返事をしない。
ただ、冷ややかな氷の粒のような瞳で、彼女を見据えた。
「私では、役不足でしょうか…?」
泣き出しそうな声。
ふにゃりとゆがんだその表情。
それを視界にとらえてもなお、彼は返事をしない。
ただ、自分の言いたい言葉だけは投げつける。
「いい加減、そのような化けの皮を剥がしたら如何か」
そして、その氷の面でにやりと笑った。
聴きたいのはそのような爽やかな声ではない。
欲しいのはそのような控えめな言葉ではない。
見たいのはそのような純真な笑みではない。
我が、我が求めたそなたは。
「あら、さすがは詭計智将様」
ぺりぺりと、女は顔に張り付いた薄い仮面を剥がす。
剥がれ落ちたその先に見えたのは、娼婦のを思わせる妖艶な笑み。
白い肌は光に煌めくものではない、男を誘う蛇の皮膚。
鈴のような声は清純な言葉をささやくものではない、男を落とすための武器。
「ほう、案外短い戯れだったな」
「あら、貴方ならお見通しだったのでしょう?」
性欲の発散のために使った馴染みの女。
尼子の男に身請けされたと聞いた時は、「あの女を狙うとは愚かな」と、飲みなれない酒の肴にしたものだ。
「結構普通の華になれたと思ったのですけど、ねぇ」
嗚呼残念無念と退屈そうに笑う女。
首筋から漂う色香、男はねっとりとした口づけを落として、嗤った。
「そなたは我を狂わす毒草よ。相も変わらず、な」
水面下「なら、あなたは私を掴んで離さない食虫植物だわ」****
腐れ外道とチョコレゐト
某動画を視聴したときに浮かんだ小ネタ。
もっと練ってたけど日にちが経ったせいかよく分からないものになってしまった。
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