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1人だけ、許されなかった。

羽根を折られてしまった。

許して、許して、助けて、ねぇ。

****

集合場所にネジが行くと、リーとテンテンは目を見開いて、ネジに背負われている舞衣を見た。
「舞衣…どうしたのよ!?」
テンテンとリーは慌てて駆け寄り、ゆっくりと、衝撃が加わることのないように舞衣を寝かす手伝いをしながら問いかける。
「わからない。ただ、突然…息が出来なくなったように苦しんで…」
しかし、ネジの答えは二人が望むようなものではなかった。

“額宛を取ることを強く拒み、気を失った。”

それが本当の理由、しかし、ネジはそれを言うことはできなかった。
ネジは静かに、食料を食べるようにと、リーとテンテンに促す。
…今は、彼女のことはどうにもできない。自分にできることは、この混乱した状況を纏めることだ。

「…もう小1時間で空が白むだろう…1日使って食料と水は確保できたし。活動を休止しているチームがほとんどだ…予定通り、この時を狙う。
いったん3人で分かれて各自30分間偵察に行く。
ただし…他のチームを見つけても見つけなくても」
そう言いネジはクナイを地面に刺した。
「この場所へ戻ってくる。いいな!」
「オッケー!」
「ラジャー!!」
「あ、でも舞衣は?」
「オレが背負っていく」
「そっか。りょーかい」
「よし…散!!!」

そうしてそれぞれバラバラになっていく。
残ったネジは、舞衣を背負い、ゆっくりと歩いていく。
それにしても軽い。本当に彼女はきちんと食事をしているのだろうか?

(…まさか)
ネジは静かに、舞衣を落とさないように片手を彼女の裾に持っていく。
捲ると、そこには赤い痣がついていた。
はじめてこの痣を見てからもう一年。これらは絶えることはなく、注意深く彼女の腕を見ていればそれは確認できた。
(虐待か。それとも彼女が隠れて修業をしているだけか。なら、あの時隠す必要はなかった。もしかして、今回のことも・・・ん?)

何かの、気配。
しかも、どこかで感じたことのあるような…。

(…無視するか)
こんな風に気配を垂れ流す奴らから、巻物を奪っても恥ずかしいだけだ。
相手には困らない、強ければ強いほうが奪いがいがある。
…そう思ったが、なにやらこそこそとしていることに気づいた。
まさか自分から巻物を奪うつもりはないだろうが、これはこれで煩わしい。
「こそこそ隠れず出てこい…」
そう言ってから数秒、出てきたそいつらは、アスマ班の三人。
何だ、こいつらか。ため息を吐いてネジは素通りしようとしたが、女があっと呟いた。

「あれ?その人…舞衣さん?なんで気を失って…」
「?…いの、あの人のこと知ってるの?」
「ええ。よく花を買いに来るわ。話したこともないし、同じ下忍だっていうのも一次試験の時に見かけて分かったんだけど。でも、なんで…」
「お前たちには関係ない…去れ」

スタスタと歩くネジに、いのは苛立ちを覚え思わず拳を握り締める。
しかし、ネジにはそれを白眼で見ていたため、お見通しだった。

「オイ…今オレに拳を向けてるってことは、オレとやり合うってことか?」
「!…い、いえ、まっまさか…」
「なら去れ!
お前たちから巻物を奪っても、里の笑い者になるだけだからな…」
その言葉ののち、瞬時に姿を消した3人を見てネジは、まるでゴキブリのようだなと、思いながら、次の場所に向かった。

****

30分が経ち、戻ってみるとテンテンが待っていた。
しかし、そうすんなりと物事が上手く運ばれることも無く。
情報を交換してからさらに5分、10分…班員全員が揃う事はなかった。
「遅いわね〜リーったら…あいつ時間だけは正確なはず…敵に出くわしたのかな…まさか…」
痺れを切らしたのか、テンテンがイライラしているかのような口調でため息を吐き、それからすぐに表情を曇らせた。
無理もない、好意を抱いている人間が帰ってこないのだ。

しかしどうせあいつのことだ。
戻りがてらに修業でもして遅れているに決まっている。
…しかしそう言える状況でもないのが、今だ。
「…とりあえず、リーを探すぞ」
「うん!」
テンテンは率先して前を行く。
焦っている人間がいると、自分まで少し不安になるのはなぜだろう?
(そういえば…)
そのときネジは、なんとなく思い出していた。
リーがある技を習得した日のことを…。

****

『やった──!!
ついに会得できたぞ──!!』
『はしゃぎすぎ。
しかしこの技、結局リーしか体得出来なかったな。おいリー…』

『ウッヒャー!!
やったぞ──!!
やったんだ──!
やっちゃった──!!』
『おい……』

怒りが溜まっていくガイ、そしてついにリーを殴り、言った。

『私の熱いメッセージを聴け!!』
『は…何でしょう?ナウい言葉でお願いします!』
『この技『蓮華』は──これより禁術として扱う』
『!…どういうことですか?』

彼曰く、蓮華は抑制している力を、チャクラで無理矢理解放するものであり、人体の限界に近い力を練り出す危険な術らしい。
だからこの術を使っていいのは…大切な人を守るときだと、ガイは言っていた。


****

それから、どのくらい捜しただろうか?
ネジは白眼で倒れているリーを見つけた。
リーはケガをしているようで、その様を木の上でテンテンと様子を伺う。

音忍とカカシの部隊の少女、先ほど遭遇したアスマ班の奴らが、戦っているようだった。しかしどちらとも、もうやられかけている。
その姿を見て、ネジは見下すように言った。

「フン…気に入らないな。
マイナーの音忍風情が…そんな二戦級をいじめて勝利者気取りか」
「…ワラワラとゴキブリみたいに出てきやがって…」
「・・・そこに倒れているおかっぱ君はオレ達のチームの者なんだが…好き勝手やってくれたな。これ以上やるというのなら、全力でいく」

そういいながら白眼を発動するネジ。
背負われていた舞衣が突然、目を覚ました姿が見えた。
(なんだこのチャクラは…)
それは次に視界に入った者に対しての言葉。
しかし、そう思っていたのもつかの間、突然背中が軽くなった。

下でも、気を失っていたサスケが起き上がっている。
身体中に、不気味な模様を浮かび上がせて。彼は、言った。

「サクラ…誰だ……お前をそんなにした奴は…」

「舞衣!」
ネジはとっさに呼びかけるが、舞衣はその言葉を聞かない。
いつのまにか下に降りていた彼女は無表情で、しかしどこか憎悪を感じさせる瞳で・・・舞衣は、一人を攻撃していた。
それはサスケも同じ。サスケも、もう一人の男を攻撃していた。

****

ただ、父と母に恥じない忍になりたいから努力した。

あたしは天才じゃない…人より努力したの。

それなのにどうして?

何故分家に生まれたからって、あたしを縛りつけたの?

宗家に生まれてたら、こんなことにはならなかったの?

なんでわざわざ…死の森に侵入してネジがいる前で、あれを発動させたの?

ねぇ、そこにいるのなら答えてください。

あなたはあたしの兄さんでしょう?

レン兄さん…どうしてあたしを生きた人形にしたかったの?

許さない…酷い…あなたの所為であたしは…


飛ぶための翼を失ってしまったのよ!!!

****

「あぁああああ!!!!」
「舞衣!」

突然、髪をかきむしり喚き叫ぶ舞衣に、敵は攻撃もせず、ただ呆然としていた。
ただ1人、サスケだけが楽しげに戦っている。
舞衣は喚き泣いている、叫んでいる。
そんな2人を見て、2人の声が重なった。

「やめて!」
「やめろ!」

ネジとサクラだった。
サクラはサスケへ、ネジは舞衣へ向かい止める。
舞衣は暴れながら、叫びながら、そしてただ、泣いていた。

「嫌い…嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!!
レン兄さんなんて大嫌い!!!
酷いよ兄さ……ッ!?ぅ・・・あぁ・・・」


また舞衣の息が乱れ、止まった。
みるみるうちに、舞衣の身体が脱力していく。ネジはとっさに崩れ落ちようとする舞衣を抱きしめた。

「ど……して…」

一筋の涙を流し、舞衣は、再び意識を無くしていく。
サスケはいつの間にか正気に戻っていて、音隠れの者たちも姿を消し去っていた。

****

此処は暗くて冷たいの、ねえお願い助けて…誰か助けてよ。
ねぇ、誰かあたしを見つけてよ。偽物のペテン師の本心を見破ってよ。


ねぇ・・・知ってる?
小さい頃に聞かされてきたあの絵本はね、現実は悲しいものなのよ。
あれはね、大切な人に翼を折られて1人にされたんだよ。

その物語のタイトルは…。


****

それからも、舞衣は気を失ったまま目覚めなかった。
その間に地の書を手に入れてしまい、舞衣が目覚め次第、塔に向かうこととなり、今は森の奥に身を潜めている。
「舞衣…ホントに何があったのかしら…」
テンテンが心配そうに、舞衣を見つめながら言うと、ネジも目を伏せて言った。
「チャクラに乱れが少しあるが、幻術ではなかった。
…先程気を失ったときも、確か息が出来ないようだったからな」

リーはサクラに木ノ葉の蓮華は二度咲く、そして守ると告げた。
そして舞衣の元にサスケが来て、睨み合いという音のない喧嘩をしていたのが、2時間前。
試験終了まではまだ時間があるが、早く行かないと休む時間が少なくなる。
3人は休憩しながら、原因を探り続けていたそのとき、うっすらと舞衣が眼を開けた。

「「「舞衣!」」」
3人が一斉に、舞衣に注目する。
「・・・ネジ…リー…テンテン…あたし…」
その声は、とてもうつろげだった。

「もう大丈夫よ。何があったの?」
安心させるように笑いかけるテンテンを、舞衣は焦点があっていない眼で見つめ言った。
「・・・突然・・・息が出来なくなって・・・」
「息?」
舞衣は静かに頷き、立ち上がったが…すぐに地面に倒れこみ、リーがそれを受け止めた。

「舞衣!大丈夫ですか?」
「リー・・・大丈夫だよ。意識を取り戻した直後だから…」
「仕方ないな・・・」
ひょいとネジはリーから舞衣を奪い取り、担ぎ上げる。
それは所謂お姫様抱っこというものと、同じ体勢だった。

「・・・大丈夫だから降ろしてよ、恥ずかしい・・・」
「今さら恥ずかしがる必要はないわ。
ねぇ知ってる?舞衣みたいな子って、世の中ではツンデレっていうのよ」
「恥ずかしいよぉ…しかもあたしはツンデレじゃない…降ろしてぇ…」
「いいじゃないですか!これもネジの修業になりますよ!」
「…それってあたしの体重が重いってことじゃ…うぇえええん…」
「いや。むしろ軽い。風船でも持っている気分だ」
「じゃあ修業にならないね、降りる」
「あーいえばこういうわね…。
いいからおとなしく王子様に抱かれていなさい!我儘言っちゃだめよ?」
「・・・ネジに、あのふりふりの洋装とマントと王冠は合わない」
「…降ろしたくなってきた」
「あ、ほんと?じゃあ降り」
「待ってください!それなら僕がお姫様抱っこします!」
「いい。オレがやる」
「いや降ろしてよ」
「却下」

顔を赤くして泣きそうな顔をする舞衣の必死の抵抗も虚しく。
ネジとテンテン、リーはまるで、子供をあやすように舞衣を宥めながら、塔に向かって歩いていく。

そしてこの状況は舞衣の意識がはっきりするまでの30分間は続き、そして意識がはっきりしたちょうどに、塔に着いたのであった。

****

塔の中に入ると、文字が描かれている壁が真っ先に目についた。
「・・・何か書いてあるわね」
テンテンの言葉に、すでにネジに降ろしてもらっていた舞衣は、それに近づき目を細め、読み上げた。

「“天無くば智を知り機に備え
地無くば野を駆け利を求めん
天地双書を開かば危道は正道に帰す
これ即ち“ ”の極意導く者なり”
もしかして、ここで巻物を開けってことじゃないかな?
開いたら答えが書いてあるのかも」
ネジは無言で巻物を取りだし、地の書を舞衣に手渡した。
「開く?」
「その為に渡したんだ…いくぞ」
頷き、恐る恐る開いていく。
次第にあらわれていく文字…そこには、大きく“人”が記されていた。

空羽を普段呼び出しているからわかる。その人という文字のまわりに書かれたものの意味は、口寄せの術式だ。
それに気づいた舞衣とネジは、慌てて巻物を離すと、そこからは中忍が現れ、彼は事務的に言った。

「第二の試験合格おめでとう。
私はこの壁紙の内容を説明の伝令にきた。
これは火影様が記した中忍の心得だ」
「心得…ですか?」
「そうだ。天は頭、地は身体を指す。
“天無くば智を知り機に備え”つまり『様々な理を学び任務に備えろ』というもの。
“地無くば野を駆け利を求めん”これは『日々鍛練を怠らないように』というものだ。
天地両方を兼ね備えればどんな任務も安全な任務といえる」

「…じゃあ、あの抜けた文字は、中忍を表しているのか?」
ネジが問いかけると中忍は「頭良いな」とポツリと呟き、頷いた。
「そうだ。中忍…つまり“人”が、あの空欄の中にはいる。
中忍とは部隊長クラス…チームを導く義務がある。
この心得を忘れず次のステップに進んでほしい!
以上が私が仰せつかった伝令の全てだ」
「はい!」
「オス!!」


それから、4人は第二の試験が終わるまで、待機所で休息をとることにした。
リーは、少し休みはしたが、それから先は筋トレに励み、テンテンは忍具を磨いていた。
舞衣は、すぐに医療班のところに運ばれ、2度の呼吸不全の検査を受けることになってしまったが…ネジは、疑問に思った。

何か、自分は忘れてしまっていると。

****

鳥は翼を折られ復讐者になることも許されず、

ただ道化師になることしかできなかった。

羽根をもがれた鳥籠の鳥は、

シヌマデ、ココカラハ、ニゲラレナイ。

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修羅に染まりし人
ああ、もうみんなぶっ壊れちゃえ。

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