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ねぇお願い追いつめないで、

ねぇお願い気づかせないで。

あなたは何がしたいのですか?

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「待たせたな…『中忍選抜第一の試験』試験官の森乃 イビキだ…」

その傷だらけの風貌や威圧感に、ほとんどの人が身震いする。
しかし、そんなことは構わないというように、イビキは音忍を指差す。
彼らはバツの悪そうな顔をして笑っていた。

「音隠れのお前ら!試験前に好き勝手やってんじゃねーぞこら!いきなり失格にされてーのか」
「すみませんねぇ…なんせ初めての受験で、舞い上がってしまってつい…」
「…試験官の許可なく対戦や争いはありえない。許可がでたとしても死に至らしめるような行為は許されん。オレ様に逆らうようなブタ共は即失格だ。わかったな」

その言葉にほとんどの人が黙り込み、イビキは漸く試験開始の言葉を告げた。

「ではこれから中忍選抜第一の試験を始める…志願書を提出して代わりにこの座席番号の札を受け取りその指定通りの席に着け!その後、筆記試験の用紙を配る」

その言葉の後に、たった1つだけ、ナルトの叫び声が響いた。
「ペッペーパーテストォォォオ!!」

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指定された席の後ろにはサスケがいた。
「!…舞衣さんか」
「あははっごめんなさいね。あたしで…サスケ君?」
「…呼び捨てでいいです」
「そう?分かったよ。じゃあ改めてよろしく!サスケ」
「…はい」


「試験用紙はまだ裏のままだ。そしてオレの言うことをよく聞くんだ。
この第一の試験にはルールがいくつかある。黒板に書いて説明してやるが、質問は一切受け付けんからよーく聞いとけ」

「一つ、最初から受験者には満点の10点が与えられている。問題は全部で10問、不正解だった問題数だけ持ち点から引かれる減点方式となっている」
「二つ、試験はチーム戦。つまり3人1組の合計点…ちなみに30点満点で競われる。
但し4人1組の班は持ち点が7点となる。つまり28点満点だ」
「三つ、カンニング及びそれに準ずる行為を行った際、その行為1回につき持ち点から2点減点される。そして最後に…試験終了時までに(カンニングにより)持ち点を失った者、及び正解数が0だった者は失格とする。また失格者が所属する班は全員道連れ不合格とする!」

「・・・無様なカンニングを行った者は自滅していくと心得てもらおう。
仮にも中忍を目指す忍なら……立派な忍らしくすることだ」

「試験時間は1時間、よし…始めろ!!」
そう言われた瞬間、舞衣は用紙を表にした。

****

ネジやテンテン、リーは解けるかなと思いながら、舞衣は1問目を気合で解き終え、2問目を見た。
(・・・無理。不確定条件と力学的エネルギーの解析を応用した融合問題なんて無理。
応用でさらに融合問題なんて無理。3問目の相対性理論の説明も…無理。
あ、5問目はモル計算の応用か…ならいけるかも)
しかし、これでは点を確実には取れない。
舞衣は先ほどのイビキの言葉を思い出す。そこにヒントはあるはずなのだ。

『無様なカンニングを行った者は自滅していくと心得てもらおう。
仮にも中忍を目指す忍なら……立派な忍らしくすることだ』

無様なカンニングをする者は失格、立派な忍らしく…ということは…!
舞衣は顔をあげた。ネジやテンテン、リーはもう動き出していた。
ネジは白眼を発動し、テンテンはリーと協力しながら解いている。
…やはりそうだ。これは知力をみるのではない。
カンニング公認の偽装、隠ぺい術を駆使した情報収集能力を見る試験…。舞衣はそう答えを出し、印を結んだ。

(一番確実なのはネジかな…伝心法!)

****

ネジは白眼で全て解き終え、暇を持て余していた。
突然、頭に舞衣の声が響いたのはそのときだ。
ネジは意識をそちらに集中させる。これが舞衣の…伝心法だと気づいていたからだ。
天真爛漫な舞衣の声が、脳に響く。

『ネージ!今からネジの身体借りるねぇ』

意外な発言に、驚いてる間もなくネジの意識は途絶える。
そして気づけば、舞衣の座っている席に、自分はいた。
以前、舞衣から聞いたことがある。これは、精神を入れ替える伝心法・心身転身の術だ。

そして今、自分の前に自分がいる。…あまり良いものではないなと思いつつ、舞衣の用紙を見た。
(なっ…こいつ1問目と5問目は自力で解けている…やはり、凄いな)
その間にも、脱落者はたくさん出ていた。

****

それからしばらくして舞衣は術を解き、心身転身中に記憶した答えを書いていった。

「では説明しよう。これは…絶望的なルールだ」
舞衣は答えを書き終えたのは、この言葉とほぼ同時。
話は既に、10問目の話に入っていたのだ。

「まずこの10問目を受けるか受けないか、選んでもらう」
「え…選ぶって…!もし10問目の問題を受けなかったどうなるの!?」
「受けないを選べばその時点でその者の持ち点は0になる…つまり失格!
同班の者も道連れ不合格だ…そしてもう一つのルール。
受けるを選び正解出来なかった場合──その者については、今後永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!!」
「そ…そんなバカなルールがあるかぁ!!
現にここには中忍試験を何度か受験している奴だっているはずだ!!」
必死な言葉もイビキは嘲笑し、冷たく返す。
「運が悪いんだよお前らは…今年はこのオレがルールだ。
引き返す道も与えてるじゃねーか…自信の無い奴は受けないを選んで、来年も再来年も受験したらいい」

どちらに転んでも分が悪い、これでは拷問だ。
舞衣はキッとイビキを睨みつける。だが、舞衣当人の気持ちは、もう決まっていた。

「では始めよう。この10問目……受けない者は手をあげろ」

しばらくして、イビキがそう呼びかける。
それから再び、沈黙が訪れる。
…しかし、それも長くは続かなかった。誰も何も言葉を出さないその世界の中、ついに手を上げるものが一人。
「オ…オレは……やめる!受けない!」
それが引き金を引いたかのように、手を挙げる者が増えていく。
そのなかに、舞衣の見知った者がいた。

ナルトだ。
震えているその手のひらは、確かに天井に向かって突きあがっている。
しかしナルトは、その手を下ろす。
やめるのかと思ったが――違った。

鈍い音が、教室中に響く。
ナルトのその手が奏で上げた音だ。
そして、彼は舞衣の目の前で、高らかに叫びだす。

「なめんじゃね──!!オレは逃げねーぞ!!」
「受けてやる!!
もし一生下忍になったって…意地でも火影になってやるから、別にいいってばよ!!!」

…馬鹿な子。
しかし舞衣の口元は、なぜか緩みきっていた。
舞衣はくるりと、辺りを見回す。
自信に満ちた顔、自分と同じく笑っている顔、呆れたように、しかしそれでも安心しきった顔…。緊迫した空気が、明らかに柔らかいものに変わっている様に見えた。


「もう一度聞く。人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ」
イビキが再び問いかける。
しかし、ナルトの気持ちは変わらない。
「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ…オレの忍道だ!!」
ナルトの後ろの席に座る舞衣には、ナルトがどんな表情をしているのかは分からない。
(でも、多分自信に満ち溢れているんだろうな)
もう一度、あたりを見渡す。…さっきよりも自信に満ちた表情をしていた。

そして、イビキは「締め切り」を出した。
「いい決意だ。では…ここに残った全員に…
第一の試験合格を申し渡す!!!」

「ちょっとどういうことですか!?いきなり合格だなんて!10問目の問題は!?」
砂隠れの女が反論すると、イビキは先ほどとは別人のような笑顔で言った。
「そんなものは初めからないよ。言ってみればさっきの2択が10問目だな」
「じゃあ今までの9問は何だったんだ…!?まるでムダじゃない!」
「ムダじゃないぞ。9問目までの問題はもうすでにその目的を遂げていたんだからな」

「君達個人個人の情報収集能力を見るという目的をな!
このテストのポイントは最初に提示した【常に3人または4人1組で合否を判定する】というシステムにある。
それらによって君らにプレッシャーを与えたわけだ」

なるほど、なんとなくわかった。
一つ一つのパズルのピースが次々と嵌っていく。
そのとき、ナルトの声が響いた。
「なんとなくそんな気がしてたんだってばよこのテスト!」
…うそつけ。
舞衣は心の中でその言葉を呟いた。

「しかしこの問題は君達下忍で解けるものじゃない。
…当然会場のほとんどはこう結論した、カンニングするしかないと。つまりこの試験はカンニングを前提としていた!そのためカンニングのターゲットとして回答を知る中忍を2名、あらかじめ潜り込ませておいた」
(そうだったんだ…じゃあネジはそいつから…)
「しかしだ…愚かなカンニングをした者は…当然失格だ」

そしてイビキが額宛を取る。そこには火傷にネジ穴、切り傷…拷問の跡が大量にあった。

「何故なら、情報とはその時々において命よりも重い価値を発し、任務や戦場では常に命懸けで奪い合われるものだからだ…。
これだけは覚えておいてほしい!誤った情報は里や仲間に壊滅的打撃を与える!その意味で我々は君らに情報収集を余儀なくさせ、それが劣る者を選別したわけだ」

「受けるを選んだ君達は難解な10問目の正解者だと言っていい!
入り口は突破した…中忍選抜第一の試験は終了だ。
君達の検討を祈る!」

どよどよと、少し周りがざわめいた。
自分たちが合格したと言うことで、安堵の息を漏らす者、喜び合う者が時間を追うにつれ増えていく。
しかし、それが長く続くことは無かった。 突然、窓ガラスが割れ何かが転がってきたのだ。
転がってきた何かは布を広げる。そして立ち上がる…女。
布には「中忍選抜試験第2試験官みたらしアンコ」と書かれている。
空気が、徐々に冷えていった。

「アンタ達喜んでる場合じゃないわよ!
私は第2試験官!みたらし アンコ!!
次いくわよ次ぃ!!!
ついてらっしゃい!!!」

空気は完全に冷え切った。
しかし、アンコは周りの空気を気にしない性格なのか、のんきに、此処にいる受験者の人数は数えはじめている。
「79人?26チームも残したの!?
まあいいわ…次の第二の試験で半分以下にしてやるわ!
詳しい説明は場所を移してやるからついてらっしゃい!!」

…嗚呼、どうやらため息を吐く暇も無いらしい。
舞衣は一人、諦めたように笑った。

****

試験官に案内されたどり着いた場所は、立ち入り禁止区域第44演習場。
通称『死の森』だ。

「説明を始めるわ。早い話ここでは───極限のサバイバルに挑んでもらうわ」
ここは44の入り口に円状に囲まれてて、中央には塔がある。
その塔からゲートまでは10キロ。
「この限られた地域内であるサバイバルプログラムをこなしてもらう。
その内容は…各々の武具や忍術を駆使した…なんでもアリアリの――巻物争奪戦よ。天の書と地の書…この2つの巻物を巡って戦う」

ここには26チームいる。
半分には天の書、もう半分には地の書それぞれ1班に1つ渡される。
合格条件は天地両方の巻物を持ち、中央の塔まで班員全員でくること。
「ただし時間内にね。この第二試験期限は120時間。
ちょうど5日間でやるわ!」
「5日間!!」
「ご飯はどーすんのぉ!?」
この二人の質問の解答は、勿論自給自足である。

失格条件は2つ。
時間内に天地両方の巻物を塔まで全員で持ってこなかった班。
そして、班員を失った班及び、再起不能者を出した班。
ルールとしてギブアップは不可能、そして巻物は塔まで開かない。

「最後にアドバイスを一言───死ぬな!」

的確なアドバイスだった。
試験よりも何よりも、命が関わるこの場所で、優先されるのは自分の命。
それがサバイバルというもの…舞衣はすぐに理解した。

それから最初に配られていた同意書にサインし、巻物と交換する。
「何だった?」
舞衣がネジに聞くと、ネジは巻物を舞衣に見せた。
「天の書だ。誰が持つ?」
「ネジか舞衣じゃない?」
「賛成です!」
「じゃあネジ!」
舞衣がネジを指名すると、ネジは頷いて話を進めた。
「今日は夜の活動を休止しているチームがほとんどの筈だ…夜に偵察に行くぞ。
まず、リーとテンテンは食料、オレは水、舞衣は薬草の確保をしろ」
「「「了解!」」」

試験は始まった。
それと同時に4人はある程度進んだところで集合場所を決め、それぞれ散らばっていった。

****

……まだ足りないだろうか?
薬草はずいぶん集まった。
ほかの受験生たちが薬草を全く探していないため、わりと沢山見つかった。

薬草と言うものを甘く見てはいけない。
サバイバルなどでは、わりと大活躍するものなのだ。

「…どうしようかな」

まだ集めようか?
…いいや、一応集めておこう。
こういうときに限ってリーが暴走したりするんだし。
テンテンは前に自分の忍具で指を切っていたし。
ネジは前に回天とかいう新しい術を習得しようとしてるときにこれが出来るまでしばらく防御が大変だって呟いていた。

うん、集めておこう…あたしは再び草木に目を向けた。


****

それぞれが分かれて暫く経った。
そろそろ集合する時間が近づいてきた時、偶然にもネジは舞衣を見つけた。
薬草が見つからないらしい。彼女はきょろきょろと草木に眼を向け続けている。

しかし、何かがおかしい。
凛と儚げな、冷たさを纏ったその雰囲気は、明らかに普段とは違う。
いつもの、朗らかな彼女の空気とは違う。
敵?幻術?…しかし白眼で見てみたところ、彼女のチャクラに間違いはない。

そして彼女が、薬草を摘んで、次の場所へ行こうとしたとき…ネジは、声をかけてみた。
「おい」
「!」
…彼女が振り向いた瞬間の眼に、ネジは凍った。
…違う、これは舞衣じゃない!
直感でネジはそう思い、クナイに手を伸ばそうとしたが…。

「・・・ネジ?」
聞き慣れた声に名前を呼ばれ、顔をあげると、いつもの舞衣がそこにいた。
「どうしたの?なんかあった?」
ネジらしくないと、けたけた笑う舞衣が、目の前にいる。
気配も、雰囲気も、いつもの舞衣。

…白昼夢、だったのだろうか?
そう考えると、少し恥ずかしくなり、ネジは慌てて平静さを装った。
「あ、ああ。そろそろ集合場所に戻ったほうがいいかと思ってな」
「ん、わかった。じゃああたしはお先に・・・!?」
突然、舞衣が視界から消えた。
その瞬間、どさっと倒れる鈍い音が下から響く。
うずくまり、倒れている舞衣が、そこにはいた。

「舞衣!?」

ネジは慌ててしゃがみこみ、苦しんでいる彼女を抱き起こす。
息が出来ないらしい、呼吸をしようと喘いでいる。
意識を無くしかけている彼女の額宛が、そのときとっさに眼に入った。
苦しいかと思い、ネジはそれに手を伸ばす。しかし弱々しい手が、それを妨げた。

「と…らな…いで…」

なんでそんなことを言うのか、ネジには分からなかった。
しかし、彼女は必死に、気を失いそうになりながらも、呼吸がままならない状態で額宛を取らせないかのように、手で覆う。
もう1度、言った。
「お願……とら…ないで………!!」
…そこまで言われては、舞衣に従うしかない。
ネジが頷くと、舞衣は、「良かった・・・」と呟き、眼を閉じる。息は、もう落ち着いていた。

過呼吸だろうか?
…しかし過呼吸はいきなり落ち着くものではない。
紙袋などで、呼吸を制限しない限り、なかなか落ち着くことは無いのだ。

なら、何故?
舞衣に聞きたかったが、すっかり彼女は気を失ってしまっている。
仕方ないと、ネジは舞衣を背負いこむ。チラリと見えた腕には、やはり赤い痣が沢山あった。
ネジは、黙って集合場所に向かって歩いていく。
リアルな人の重みが、これが現実であることを、確かにネジに示していた。

****

何故、どうしてあなたがここにいるのですか?

あなたはそんなに醜いあたしを晒したいのですか?

だとしたらあなたは、悪魔だ。

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違和感の確信
気を失う寸前、いないはずの人が木の上で笑っているのを見たんだ。

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