微裏。お風呂お風呂。


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二年、二年って長い。

あっという間なようですごく長い。

そうですね、ちょっとお待たせさせました。

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その日のネジは甘えたさんだった。
「舞衣、」
「うんうん、あたしはここにいるよ」
原因は、夕方上忍方に飲まされたらしい、酒。

…こうして見たところ、ネジは酒に弱い人らしい。しかも酔ったら拙いタイプ。
だって甘えたさんになるし、あたし以外の人にべったりしてしまうかもしれない。…と、話した返事は「すぐに舞衣の所に帰る」という一言。可愛い。
しかし困った。あたしは今、ネジに座りながら後ろから抱きかかえられている状態だ。
その状態がもう一時間続いてしまっている。
時刻は8時。夕食は先に食べていろと言われていたから食べた。
何が言いたいって、いい加減お風呂に入ってネジとあたしの部屋の布団を敷きにいきたい。

「えっと…ネジ、あたしそろそろお風呂に入りたいな〜…なんて」
「…風呂だと?」
「え、ええ。あ、ネジ先に入る?やっぱり男の人が先に入るべきよね」
「…舞衣はオレを一人にするのか」
「え?いや、だってそりゃあ…お風呂よ?」

気のせいだろうか、話がまずい方向に向かっていってる気がする。
え、あたし言ってないよね?何か嫌なフラグとかなにも立ててないわよね?
何かあったかしらと少し考えてみると、あたしの服の袖をちっちゃく引くネジ。わー可愛いなぁ、子供のときのネジもこのくらい素直だったらなぁなんて思っていたら「舞衣も一緒に入れ」との一言。

・・・はい?

「ね、ネジ?今なんていったの?」
「舞衣もオレと一緒に風呂に入れといっている」

とてもとても、目の前の男が言う言葉とは思えなかった。
ストイックだの堅物だの、クールだの現実主義だの薄情者だの言われているこの男が、ネジが!
「風呂は広い。大丈夫だ。お前は小柄だし問題ないだろう」
「…ネジ、百歩譲ってお風呂のドアの前で座って待ってるって言うのは?」
「断る。ドアが邪魔だ」
「……」
やっぱり信じられなくて、ネジの顔色をチェック。…赤い。眼も潤んでいる。イコール、まだ酔っ払っている。どんだけ酒に弱いのよ!って言いたい。

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…で、断れるわけも当然なかった。
本人は酔っ払っていて話を聞かないし、断っても無駄だどこまでも着いていく!な気配だし。とりあえず懸念していることはひとつだけだし、思い返してみれば恋人同士だし。…用はアレだ、開き直ることにしたのだ。

「な、何もしないでね」
「どうだかな」
「っ、そういうことは思考が正常なときにしましょうね!」
「そういうこととは何のことだか」

意地悪な笑みを返される。
ずるい、これじゃあそういうことを懸念して注意するあたしが変態みたいじゃないか。
あれよこれよで結局たどり着いてしまった脱衣室。気を使ってくれたのか、ちゃんと後ろを向いてくれる優しさだけは残っているらしい。その優しさがあるならお風呂はやっぱり別々でという発想もできた気がするのは気のせいか。
さくっと脱いで急いで浴槽へダイブ。寄って手つきがおぼつかないらしいネジは後から入ってきて一言、「白い」と呟く。乳白色の入浴剤を買っておいて正解だったようだ。

「早く入って早く寝ましょうねーあ、ネジ、先に体洗ったりなんだりしてもいいよ」
「む…舞衣、髪洗え」
「はいはい、特別だからね。よしよし」

一度開き直ってしまえば人間なんでもできるらしい。
いすに座ったネジの髪を手につけたシャンプーでわしわしする。さらさらした髪、こうしてよく見れば枝毛の一本も見つからない。髪を濡らすと絡まっているところがすぐに分かるはずなのに、ネジの髪からそういう部分は一向に見つからない。
よし、もう少しお手入れ頑張ろう。ネジの髪の扱い方を見習おう。
とりあえずあたしが洗うことでネジの髪質を落とさないようにしよう、まずはそこからだ。酔いから覚めたネジが発狂するかもしれないしね。髪がぁああ!って。
とりあえず念入りにマッサージ。気になるところが無いかを聞いても酔っているせいで無反応なネジのためになるべく念入りに。
よーく流してあげて、リンスも満遍なくやってあげる。
そして最後に背中だけ洗ってあげてタオルをネジにポン。
これ以上はネジがやるべきだ。というか、手を出せない。
ネジもそれは分かっているのだろう、わしわしとまだ覚束無い手つきで身体を洗い始める。その間にあたしは先にまた浴槽で待機。
それにしてもネジの肌って本当に綺麗、肌荒れを知らない肌って羨ましい。
というよりネジって存在自体が綺麗。顔立ちから身体のラインまで整ってて、瞳は宝石みたいで…うわ、あたしって結構相当な人に好かれてるんだ。本当なら絶対に手が届かないような人に。
格好良いし優しいし、真っ直ぐな人。
月のように凛とした人で、それでいてあたしにとっての、太陽。

幸せ者だなぁとしみじみ感じたところでネジとバトンタッチ。
何か横から視線を感じるのでなるべく早くすませる。今更見るなと言っても無駄な話。明日のネジには今日の記憶がないことを願う。

すべてを洗い終わって改めて浴槽へ。
とりあえずネジに背を向け、なるべく距離をとる…はずが背を向けることはできたけれど、そのままネジのひざの上へ。逃げようにもそのまま抱きかかえられてしまっては意味がない。
「…昔みんなで行った旅行のときは、ネジだってあたしから距離をとろうとしてたのに」
「あの時はあの時、今は今だ。それにあの時くっついてきたのはお前…」
「滑ったのよ!くっついたんじゃないわ、滑ったの!」
「…今思えばお前は、忍の癖によく転んでいたな。アカデミー卒業後の時も、」
「やめて思い出させないで」
ばしゃっという水音が響く。ネジの口を塞いでやろうと勢いよく動かした右腕。
それはネジに呆気なく掴まれ、この時を待っていたかのようにネジがあたしの身体をくるりと反転。
向き合う身体、自然なことだと笑うように合わさる唇。
舌まで絡めて行われるそれに溺れそうになった時、ちょっと硬い何かが太ももに……え?

「…ネジ、ちょっと!?」
「…ん、何だ。耳元でいきなり大声を出すな」
「あ、ああごめん…って違う!あの、その、それ、当たって…」
「ああ、……勃った」
「…殴っていい?」
「それは後」
「ひゃっ…!?」

突然掴みあげられた胸。
獣のように息を荒げだしたネジに、抗う術はない。

「恥ずか…っここお風呂場…」
「外よりはマシだと思わないか?」
「そ、だけど…ぁ、だって、だっていきなりこんな…っ」
「舞衣、一つお前は勘違いをしているな。
何もしないなんてオレは一度も言っていない」

ニヤリと不敵に笑う顔。
こいつ絶対酔ってない、そう気づいた頃にはもう意識はお湯に溶けていた。


辛抱たまらないお年頃
「そうよね、二年も耐えていてくれたのよね。その気持ちは嬉しいんだけど、今度はちゃんと布団が良いわ」「…酔った勢いとは恐ろしいな」「途中で醒めてたくせに」「う…」「とにかく、次は布団!溺れ死ぬことだってあるんだから、ね?」

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