****

──よく、こんな夢を見ていた。

その夢は、オレ達が歩んで来た道と同じようで、全く違う夢。

そこに現れる少女は、眼をえぐり取られた状態で、鎖で繋がれていた。

そして、言うのだ。

『もう、手遅れよ』

パタンと、一冊の本を閉じ、オレはベッドに腰掛けた。

「…間違ってなど、なかったんだな」

…返事は、無かった。

****

「白眼!」
ネジが白眼を発動すると、敵は蜘蛛の巣を口からたくさん出しはじめた。
それにしても数が多すぎる。
舞衣は木で自分の前に壁をつくり、なんとか免れる。しかし、ネジは…手を押さえられて捕まってしまった。
「ネジ!」
舞衣がネジの名を呼ぶが、ネジは動じない。
敵は淡々と語る…それぞれの反応はバラバラだった。
「てめーはチャクラの扱いにかなり長けてる。
それに鋭い眼をもってるぜよ…ただ、そこの女はその眼がない。代わりに神に近し血継限界をもってる…大蛇丸様に聞いたことがある。これが柔拳と心現象ってやつか…。
だが柔拳は手さえ使えなければ糸は切られないぜよ…死ね!」
──ネジは、最初からそのつもりだったのだろう。
口から出した武器の攻撃を、受ける直前に糸を切り脱出し、舞衣に目配せをした。もちろん舞衣には、その意味がわかっている。

「特別に教えてやる。
オレは手だけじゃない…全身のチャクラ穴からチャクラを放出できる。
それと…」
舞衣はすぐネジの隣でかまえた。
「ゲームオーバーだ…」

「現象法・木縛!」
「柔拳法・八卦六十四掌!!」
「八卦二掌!!」
「ぐあ!」
「四掌!!八掌!!十六掌!!三十二掌!!」
「六十四掌!!!」

激しい爆発音が響き渡る。木を突き破り、敵は地面に落下していく。
その姿を見て、舞衣は「呆気ないわね」と呟いた。が、まだ終わりでは無かった。
「……どういうことだ!?」
むくりと、点穴を突いたはずの敵が立ち上がる。
敵の身体は、金色の体表に覆われていた。色的に、さっきネジに向けて吐いた武器と同じものだろう。ネジは敵を睨んだ。
「化け物か…口からだけじゃないようだな」
「オレの蜘蛛粘金は体外にでると瞬時に硬質化する金属でな…しかもチャクラは通さない。しかも身体中の汗腺からも分泌できる」
つまり…点穴からの攻撃は効かない。
それは、こちらが圧倒的不利だということを明らかに示した事実だった。

そしていつの間にか、敵の姿は何処かに消えていて・・・突然、どこからか起爆札つきのクナイが落ちてきた。しかし、いつまで経っても爆発…しない。
ネジがそのトラップに気づいたのか、叫んだ。
「!…舞衣、罠だ!八卦掌回天!!」
彼女は驚き、振り向く。
背後からは、クナイが飛んできていた。
「木壁!」
慌てて防御し、なんとか舞衣は身を守る。それを確認してから、ネジはクナイを投げた。
「そこにいるのは分かっている。出てこい」
どこにいるのか探しても、舞衣には見えなかったが…暫くして敵は、何かを口寄せしたのが確認できた。デカイ…蜘蛛。

その大蜘蛛は、上から蜘蛛をばらまいていく。
蜘蛛は、ネジの回天を止め、木壁を越えて降りだした。
そこに、クナイが向かっているのに、舞衣は気づかないまま。彼女は、木壁が通用しない事実に呆然としていたのだ。
「舞衣!」
ネジはクナイを避けたが、舞衣にはグサグサとクナイが刺さる。
「っ…」
そしてまたクナイがくる。
回天も木壁も駄目ならかわすしかない。しかしクナイをかわすと、上からまた無数の蜘蛛。

かまえて八卦六十四掌や柔拳をして、それでもかわしきれなくて、だからといって回天や木壁は使えなくて。
景色隠れを使ったとしても、ネジにターゲットが集中してしまう。悩んでいたそのとき、ネジの後ろからクナイがきて、ネジは即座にかわしきった。・・・はずだった。

「痛っ…」

360度全方位を把握できるはずの彼の体にクナイが突き刺さる。そして舞衣にも、何本かクナイが刺さっていく。
どこから攻撃をしてるのか、全く検討がつかない。しかもネジにクナイがあたるなんて…舞衣は明らかに動揺していた。
だがそんなことはお構いなしに、無情にもクナイと蜘蛛がきて、舞衣とネジはかわしていく。
そしてネジの髪止めが切れたあと、今度は二本、ネジに刺さった。
「ネジ!」
彼女の叫びも虚しく、ネジは崩れ落ちる。
「ネジ?しっかりして!ネジ!」
舞衣がなりふり構わず駆け寄り、揺さぶると、ネジはなんとか起き上がった。
しかしまた、ヒュンッと飛来するクナイ、目標はネジ。その光景が、舞衣には非常にゆっくりとしたものに映った。

──死なせたくない…!この人はあたしと違う、生きる価値がある…!

舞衣は、瞬間であるはずの長い時間に、決意し、両手をネジの前に…広げた。

****

気がつくと目の前には、吐血する舞衣がいた。
いつも綺麗にまとめあげられた髪も、無残にほどけ、散らばっている。
「舞衣!」
「大丈夫…?ネジ…」
「…何故オレを庇ったりしたんだ…!」
「…知らない、わかんないわ…よ」

答えはそれだけだった。
そのまま、舞衣は崩れおち、動かなくなる。
敵はそんなオレたちを見て、あざ笑っていた。

「何を懸命に…もうゲームクリアぜよ!
簡単なゲームのザコキャラはすぐにやられる【運命】だ!
お前はオレには勝てない!!」
(運…命…)

そして今度は上から大蜘蛛が、丸ごと落ちてきて、柔拳を使った途端、クナイが襲う。
そしてそれらはまたオレに刺さる。
…しかし、まだ立つことはどうにか出来る。足はガクガクと震えていて、本当に「やっと」と、いうところなのだが。肩で息をするのも苦しい、痛みで意識が朦朧とする。
その時、強い殺意と、何かが飛来してくる音が、耳に届いた。それを把握した瞬間、矢が地面に刺さり、煙が舞い上がる。

ギリギリだ…今のは危なかった…だがずらせた…。
やはり間違いない、奴はもう白眼の秘密に気づいている…!
急所から15センチの差、チャクラを常に放出しておいて良かった。おかげで矢を感知して軌道をずらし、狙いを外すことができたのだから。

…さっきの矢は一切目では見えなかった。
無駄な攻撃は仕掛けてこない…そしてその結果からきちんと情報をくみとる…。
そして…この眼の欠点にも気づいている…流石だ…。

今まで戦った【敵】のなかでこいつは一番強い!

横では、動かない舞衣が、絶望的な表情を浮かべていた。

****

ネジはふらふらの足取りで走りだす。今度は死角を固定させないようにするためだ。
それを敵…鬼童丸は、さっきと姿を変えた状態で笑っていた。ネジの考えを見抜いているのだ。
(…あがこうがあがくまいがどちらにせよ、お前もあの女の二の舞だ…。
チャクラも残り少ないようだしな)
すべてが敵に読まれている状況。ネジは今、踊らされているようなもの。

──それは、まさに絶望だった。

****

「ぐっ…」

…これが走馬灯というものだろうか?
ふと、様々な記憶がよみがえる。

《ネジ…お前は生きろ…お前は一族の誰よりも日向の才に愛された男だ……》
父上…。

《ネジがあたしを救ってくれるの?》
舞衣…!

また、どこからか矢が飛来してくるのを感じる。
そして、額宛が舞う。 遠くのほうで、微かに音がした。
しかしオレ自身は無事だった。今度は木で軌道がずれたおかげで、なんとか助かったのだ。あるものに気づいたと、共に。
「!」
…糸。そうか、この糸で・・・思考を巡らせようとしたが、また痛みで崩れおちるのを自覚する。もうチャクラがほとんどないからだろう。それ以前に受けた攻撃も原因だ。

ふと、今度はナルトの声が脳裏に浮かぶ。
《ぜってー勝つ!》
…ナルト…お前ならどうするかな…ああ、そうか。
答えが、見えた。

「フフ…もういい…どうせ避けられはしないのだからな…」

覚悟を決めたと同時に再び向かってくる矢。
きっと先ほどよりも威力があるだろう。
そこまでわかっていながらも、矢をオレは・・・受け止めた。

「ぐっ!!」

痛みが走る、血肉が飛び散る、木に身体が叩きつけられる。
だが、やっと、見つけた。ここだ…!!
チャクラを手に集中させ、柔拳で糸から、チャクラを流し込む。

「…ネジ」

そのとき、よろよろと舞衣が歩いてきた。
ひとまずは無事らしい…が、安心はできない。やはり、限界なのだろう。
舞衣は、オレの隣にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返しはじめる。

何となく、空を見上げてみる。
鳥が一羽…二羽…何となく白眼で数えてみる。いつも行っている修業の一つ。
六羽…七羽・・・八羽…また一羽見えなかった…。

こんなときだからだろうか?またアイツの声が、よみがえった。
暗闇に投げ出された少女の姿も、同時に。

****

暗闇の世界、投げ出されたあたし、何もない世界。

きっとこのまま任務は失敗する。
実力を考えていなかったからこうなるんだ。
やっぱり…運命は…

「本当に、本当にそう考えているの?」

後ろから聞こえた声に振り向く。
少女は、あたしの顔を覆う仮面を睨み付けていた。

「馬鹿みたい、自分のことをどうしてわざわざ偽るの?
あなたは何が怖いの?」
「…関係ないでしょ」
「逃げるんだ。へー…弱いね。やっぱりあなた弱いよ。
運命?違う、変えられないんじゃない。あなたが変えようとしないから、何も変わらないのよ!泣き虫!!」
「うるさい!!」

カキンッとクナイがぶつかりあい、押し合いになる。
しかし、相手の力は強く、そのまま押し倒されてしまった。

「っ…!なんなの、どうして!?」
「あなたがその仮面を壊さないと、何も変わらないわ。
ほら、見てみなさい。彼…彼も自分と戦ってる」

暗闇の向こうにある光、彼はもがきながらも…籠から抜け出して、走り出す。
それを見た瞬間、あたしの身体は脱力した。

「よく耐えたわね。ありがとう。あたし…変わりたいんだ」

優しく、もう一人のあたしが笑う。

“さようなら、強がりなあたし”

その言葉と共に、あたしはあたしの仮面を砕いた。



「ナルト…舞衣…」

ネジが決意したかのように呟く声が聞こえる。
あたしも閉じていた瞳を開け、静かに頷いた。

****

「これでオレ達、3人になっちまったな…」
「そんなこと気にすんなよ。
チョウジもネジも舞衣もすぐに追い付くしそれに…ネジは一度中忍試験で戦ったし、わかんだってばよ」
「「?」」

「アイツは…ホントの天才だってばよ」

走りながらナルトは微笑を浮かべて言った。

****

その頃、頷きあったオレは柔拳で糸を絶ちきり、舞衣と走り出していた。

負けるわけにはいかない…オレよりも遥かに強い敵だろうと…この身が朽ちようとも…。
負けるわけにはいかない。

「ぐっ!」
「ネジ…頑張って…!」

負けられない理由が、オレにはある!

敵の前にたどり着き、すぐさまオレと舞衣は柔拳を放つ。敵はゴロゴロ転がり、元の姿に戻り動かなくなった。そして…戸惑いながら問いかけてくる。

「何故だ?何故生きてる!?」
「…どうせ避けきれはしないのだからな…だから…わざと受ける覚悟が決まった…。
そしてオレは、お前よりもずっとオレの弱点を知っていた」

《また一羽見えなかったか…》

さっきも思っていた自分の弱点。
最初からこいつの思惑など、お見通しだった。
「この白眼には死角がある。
だがお前の攻撃がそこからしかこないのなら、その死角にだけチャクラを放出して攻撃を感知…。狙いを僅か数センチ外すのはさほど難しくない。
…重症は負うが即死は避けられる」

「お前は今まで戦った敵のなかで一番強い…。だがオレには負けられない理由がある…。
オレが今までに戦った【全ての者】のなかで、一番強い奴がオレにこう言った…。
《お前はオレと違って落ちこぼれなんかじゃない》とな」

あの中忍試験…ナルト君のあの言葉が、ネジを変えたのよね…。
何でかな、この状況を見ていると、次第に、自分の中の何かが溶けていくような気がする。
絶望的だったあの状況が逆転したこの未来を、運命だからこうなんだとは、何故か言うことができなくて。

「オレは常に天才と呼ばれてきた…だから負けるわけにはいかない…。凡小なオレを天才と信じているあいつらの為にも、こいつの為にもな…」
「えっ…?」
突然話を振られて驚きながら彼を見る。ネジは柔らかな笑みを浮かべていた。
「オレは…お前の運命を変えて見せると約束したからな…。それを果たさなければならない」

──ネジがあたしを救ってくれるの?
──当たり前だ。


約束…あの、絶対に無理だと決めつけたあの、約束…。
何かが、じわじわと溶けだしていく。
そしてネジは、敵に、あたしに言い放った。
「フッ…ザコキャラはすぐにやられる運命だ…運命は変えられない…お前は、そう言ったな。
この状況を見ろ」


「運命なんて誰かが決めるもんじゃない」


その言葉と共に、この心を縛り付けていた冷たい鎖は、完全に溶けて消えていった。


───ねぇネジ、あたし諦めてた。
運命は変えられないものなんだって。

でもネジが、今、気づかせてくれた。
はっきりと、あたしに教えてくれた。

運命は、変わるんだって。
それは決して諦めないという、心次第なんだって…。

やっと…わかった…。
やっと、取り戻した…。
やっと…絶望以外の涙が溢れだす。
それは、ぽたりぽたりと地面に、そして…心に染みていった。


しかし敵は、ネジの言葉を、嘲笑しながら否定していた。

「へっ…どうだかな…おめーも死にそうじゃねーかよ…」

ネジの脳裏に蘇ったのは…父と、自分の言葉。
《ネジ…お前は生きろ…お前は一族の誰よりも日向の才に愛された男だ…》
《オレがお前の運命を変えてみせる…!》
「オレは…そう簡単には死ねないんだよ…」
死んだら舞衣を救えない。
父の命を背負って生きることも出来ない。
だから…死ぬわけにはいかない。

「……強がってももう流れを止めることは出来やしねーぜよ…。
サスケ様は…己から望んで音へ走った」
「………」

《サスケは今、闇の中にいる》

「いや…」
1人、いる。
《ナルト…お前はオレよりいい眼を持ってる》
「サスケを闇から見つけ出し…救い出せる奴がいる」
「フッ…サスケ様は大蛇丸様のものだ…たとえ誰であっても救いだせは」
「出せるさ…」
「!?」


何故なら…
ナルト…お前は…
オレを闇の中から救いだした。


「……!」
無力と化した敵は、見た。
空から降り注ぐ光を浴びて、きらきらと輝く傷だらけの鳥の姿を。
しかし、それはあまりの激痛により、視界から消え失せた。


意識が、朦朧とする…力が抜ける…。
そのとき、ふわりと、誰かがその身体を受け止めた。
「ネジ…!」
舞衣だった。
しかし、それは今までの舞衣とは違っていた。
「舞衣…お前…」
舞衣は、今まで見せたことのない笑顔で、涙を流していた。

「ぐぁ…!」
敵が倒れる声が響く。
ああ、終わりだ。瞼が、自然と下りていく。
…最後に見たのは、舞衣の涙と、本当の笑顔だった。

──…あとは頼んだぞ…みんな………。

****

残ったチャクラで敵の心を読んでみたら予想通り、聞こえた。

「どうせこの女は長くないぜよ」

…それはあたしが、選んだことだから、別にいい話。
みんなには悪いけど、これがあたしの選んだ末路、敵は勝手に誤解していたらいい。

それより、ネジだ。


****

「ネジ!ネジ!」
ネジの顔に生気がない…それが怖くて、必死で呼びかける。
すると…空から羽根が落ちていくのが見えた。
ネジの手のひらに、それは着陸する。

「羽……」

何でかな、こんなときなのに、昔のことを思い出す。
はじめて会ったときのことを。

****

『…どうした?泣いてるのか?』
従兄に呪印をつけられた次の日、あたしたちは出会った。

『…だれ?』
『こっちが聞きたいのだが』
『…あたしは舞衣…あなたは…?』
『ネジだ。何があった?』
あなたの額の包帯を覚えてる。

『宗家の…兄さんに…恨まれて…呪印を…つけられた…の…』
まさか同じ過去をもってたなんて、この時はまだ知らなかった。
『そうか…』

『運命は…変えられないのよね…どうして分家に生まれたんだろう…』
泣くあたしに彼は、何かを落とした。
『?』
『…受け取ってくれ。もらいものだし、捨てるに捨てられなくてな』
ピンクの羽のキーホルダー、その少年には似つかわしくなくて、心の中で笑ってしまった覚えがある。

『ありがとう…あの、また会えるかな?』
『………多分な』

…その何年後かに、あなたと同じ班になった。
でもあなたは、あたしがこの数年で、明るくなったと勘違いして、呪印について忘れてしまっていたんだ。
和解したんだな…と。

そんなネジが本当に、あたしを変えてくれるだなんて、思わなかった…。
でもさすがにこの運命だけは、ネジも無理だろう。
あたしの呪印が、あるかぎり。

でも、ネジなら、それも可能なのではないか?
それに、ネジは、一つ取り戻してくれたから。

「……大切な心を置いていってたのね、あたし。
それを取り戻してくれたのは…ネジ…ありがとう……現象法・風竜!」
風の竜にネジを乗せ、残り少ないチャクラで、あたしは森を駆け巡る。
途中倒れている敵とチョウジを見つけたから一緒に乗せて、あたしたちは木ノ葉病院に向かった。

(言うことも聞かずにごめんなさいシカマル、そしてみんな、あとは頼むわ…!)

そして、3人は帰還した。

****

病院に着くと綱手様が、驚きながらも治療をしながら、里の状況を教えてくれた。

「今、砂のテマリ、カンクロウ、我愛羅を援護に向かわせている。
お前たちは治療に専念しろ」
「すみません…あたしが無力だから…ネジを守れなかった…」
「気にするんじゃない。あとは、シカマルに任せろ!
それに、あいつらなら大丈夫さ。特にナルトはな…」
ナルト…たしかにそうかもしれない。不思議と、納得がいった。

「そうですね…」
ちょっとだけ笑うと、綱手様はびっくりしたように目を瞬かせた。
「…どうなされたんですか?」
「いや…笑顔が、変わったな。・・・ネジか?」
「えっ?なんでネジって…」

綱手様は伝心法を使えるのだろうか?ネジは確かにあたしを変えてくれたけど…それは綱手様には話していない。
すると綱手様は呆れたように溜め息をついて、笑った。
「私にはお見通しだよ。本人が気づいていないんじゃ…あれだけどね。
…今、チョウジとネジは集中治療室にいるから、落ち着いたら呼ぶ。お前も重症だししっかり休め」
「はい」

綱手様がいなくなった途端、身体の力はすっと抜けていった。
(ネジ、ありがとう)
そう思いながら、あたしは瞼を閉じた。

****

暗闇で一人、あたしは泣いていた。

偽りを演じる仮面も砕かれて、途方に暮れていて…。

けれど、誰かがずっと、あたしの肩に手を置いていることに気づいた。

顔をあげると、その人は笑って、あたしに手を伸ばす。

彼より向こうには、たくさんの人が手を振っていて、

「行こう」

「…うん」

闇が、開けた気がした。

****

伸ばされた光
籠の中の鳥は、ようやく外へ羽ばたく決意をした。

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