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分からなかった。

どうして、自分はこんなに慌てているのかなんて、

それでも、走り続ける。

疑問を、捨てて。

ただ、声が聞こえる方向へ。

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それは突然やってきた。
いつものようにあたしが読書を楽しんでいたときに、鳴り響いたチャイム音とともに。
全く…本を読んでいる途中だったのに…。せっかくいい場面だったのにと、残念に思いつつ玄関に行くと、僅かに視界がぐらりと揺らぐ。
ネジだった。
あたしが変わる第一歩のために手を貸してくれた一人、変えると約束してくれた人。大事な人。
落ち着いて、落ち着いて話をしようと、冷静になろうと小さく深呼吸をする。それでも、あたしの眼は無意識のうちにそれていた。

「ネジ…どうしたの?」
「…うちは サスケが、大蛇丸のところに里抜けをしたらしい」
「!」

そんな緊迫したセリフを、誰が予想しただろうか?
うちは サスケ…中忍試験であの我愛羅と戦ったうちは一族の末裔。
友達にもなれた、本当に良い人なのにどうして…しかし、それを考える暇などなかった。――時間が無いことは、明白だったから…。

「それでだが、奪還任務にオレとお前が選抜された」
「…解ったわ。すぐ準備する」

しかし、それでも疑問が残っていた。
あたしは医療忍者ではないし、たとえ使える術が遠近対応でも、役に立つところがあるか全くわからない。
なぜあたしが呼ばれたのだろう?そんな考えごとをしながら、支度をしてから家を出た。

****

「タイムリミットだ。とりあえず6人は揃ったな…」
シカマルがそう言い放った通り、そこにはネジ、舞衣、シカマル、チョウジ、キバそしてナルトがいた。
此処まで連れてくるときに一応いた、先程から一言も話さないリーを、舞衣がちらりと見る。ものすごく、一緒に行きたそうな顔をしていた。だから…ネジと舞衣は、リーに言う。
「リー…お前はお前のやるべき事をやれ」
「手術、成功するといいわね」
「…!ハイ…2人とも…」
ぱぁあっと、リーは丸くて大きな目を輝かせて頷いた。
よかった…すっかり、元気になったんだ。舞衣の頬が、自然とわずかに緩む。それは、今までにはなかった現象。
しかしそのとき、和やかであったムードを台無しにするように、ナルトが唐突に叫び、その表情は無表情にたちまち戻った。

「んじゃさっさと行くってばよ!皆オレについてこーい!」

…白けたな、と全員の気持ちが重なる。
代表して、シカマルが呆れながらナルトに言った。
「あのなぁ…一応小隊長オレだからな」
…しかし、そうはいっても心配な部分が多い。いくら中忍とはいえ、彼はまだ未熟なのだから。そんな舞衣の気持ちを察したのか、それとも自分もそう感じているのか、それはわからない。
「それならそれ相応に作戦や計画を立ててくれ」と、ネジがそう言うと、シカマルは頷き、淡々と作戦を述べだす。
それは、実に的確な作戦かつ、考察だった。


「…とりあえず救出作戦としてこっちが追う立場になる。
敵にも先手をとられやすい…つーことだ。
だからこれからそれにすぐ対応できるフォーメーションを立てる」

そして決まったのは一列縦隊。
先頭は赤丸と二人で効率のいいキバ、次が真後ろからキバに命令をだせるシカマル、中心がナルトで援護の要だ。 4番目がチョウジで追い討ち役、そして舞衣はというと。
「舞衣、アンタはこの縦隊には入っていない。
だがアンタは単独で森と通信し、サスケたちの情報を聞いていてもらう」
つまり舞衣は情報収集のために選ばれたのだ。納得のいく理由に、漸く舞衣は、胸のつかえが取れる感覚を感じた。
「わかったわ」
「…それに、舞衣はネジとの連携もしやすいだろ。
何かあったときとかさ」
そう、最後尾はネジ、白眼で常に盲点がないように確認する役目をもつのだ。
それぞれの能力を分析して立てた完璧な計画に、舞衣は素直に感嘆の息を漏らした。
そしてシカマルが、あと…と呟いた。

「各自持ってる忍具を今、全てチェックさせてくれ…3分で把握する」

****

「何か質問あるか?…ねーなら最後に一番大切なこと言っとく。
サスケはオレにとっちゃ深いダチでもねーし…別に好きでもねぇ。
けどサスケは同じ木ノ葉隠れの忍だ!仲間だ!だから命懸けで助けるこれが木ノ葉流だ。
それにいくらオレでも面倒くさがったりできねーがよぉ…お前らの命預かってんだからよ」

たしかにそうだ。
…小隊長は仲間の命を預かっている。責任も重大だろう。
(頑張ろう、うん)
そう思い、舞衣はきゅっと手を握り締めた。

シカマルの言葉に、キバがニッと笑いながら、「へっ!少しは中忍らしくなってるじゃねーの…」と、シカマルを賞賛する。その気持ちは舞衣も一緒だった。


そして最後に忍具を確認し、出発しようとしたが…聞き覚えのある声が、それを止めた。
「待って!」
「!?サクラちゃん!」
春野 サクラだった。今回、サスケが里を抜けたとすぐに解ったのも、彼女のおかげらしい。
涙ぐむ彼女にシカマルは、時間が無いからというのもあるのだろう、少々冷たく言った。
「話は火影様から聞いてる…お前でもサスケを説得出来なかったんだろ。
あとは力ずくでオレらが説得する…サクラ…お前の出番は終わってる」
するとサクラは、ぶわりと涙を溢れさせ、ナルトに懇願し始めた。

「ナルト…一生のお願い…サスケくんを連れ戻して…!
私にはダメだった!サスケくんを止めることが、救うことが出来るのは…ナルト…アンタだけ…」

そんな彼女にナルトは、笑顔を向けた。
後にもこの約束が、紡がれることも知らずに。
「サスケはぜってーオレが連れて帰る!
一生の約束だってばよ!!!」

(うずまき ナルト…本当に、そんなことができるの?
でもネジは…ナルト君に救われた。
あたしは?あたしはネジに…?……まさか、今はまだ、無理よね)
舞衣はその光景を見ながら、密かに考え、首を小さく振る。
気がつけば会話は終わってた。

「少しばかり時間をロスした…急ぐぞ」

シカマルの言葉と共に二手に別れ、今度こそ里の門を潜り抜ける。
目的は、サスケだ。

****

舞衣は予定通り、シカマル達とは別ルートを通り、回り道をしていた。

『舞衣、そっちは何か異常があるか?』
3分に1回、シカマルと伝心法で意思の疎通をする。
『異常はない。ただ…血だと森が怯えているわ』
『!…キバもそう言っている。
悪いが確認に行ってくれるか?』
『了解』

それからブツッと術が解け…シカマルは溜め息をついた。
「あいつ…あんな性格だったっけ」
「色々あったからな。…どうにかしてやりたいが…」
シカマルの呟きにネジが応えると、シカマルはからかうように笑った。
「まさかお前…舞衣が好きだったりするか?」
…ネジはそれには答えなかった。

****

舞衣が現場に着いたとき、2人の木ノ葉の忍と音忍が戦っていた。
舞衣はそれを木の上で眺めながら気配を消し、景色隠れを使いまたさらに印を結ぶ。
「現象法・風切」
ザクッと、それは女の忍に当たった。
「!…多由也…何処だ…?誰が…」
巨体の男が舞衣を捜すが、舞衣は見つからない。
彼女はただ、ちまちまと風切を不規則に当て、邪魔をすると1人が言った。
「誰だかわかんねーが他にいるみてーだ!オイ、こいつらはほっといて行くぞ」
そうして5人が立ち去り、それを確認してから舞衣は、術を解き近づいた。
「…ゲンマさんとライドウさんか」
呟き舞衣は伝心法でまわりの『声』を捜しはじめた。

『めんどくせーことになったな…』
『血の臭いから5人の臭いが離れてく…舞衣はまだいるか…』
『遅いな…2人共』
「…見つけた」

確認して舞衣は声の主…シズネに向かい、呼びかけはじめた。『今、あたしの目の前に負傷している木ノ葉の特別上忍二名がいますが、あなたのチームですか?えっと…確か、シズネさん』
『!?…あなた…この術美瑛一族の…』
『はい。美瑛 舞衣、只今奈良小隊長と任務中です。
それより怪我が酷い…あたしが指示する方向に向かって来て下さい。
場所は………』


しばらくしてシズネたちが来たとき、彼女は驚愕していた。
「まさか…この2人がやられるなんて…!」
「シズネさん、オレ奴らを追います!」
しかしそれをゲンマが、小さい声だが止めた。
「待てイワシ…あいつらの術…すでに忍の業じゃない…1人で追えば死ぬだけだ…。
オレたちも彼女がいなければ…止めを刺されていた…」
イワシが驚いて舞衣を見るが、舞衣はそれに動じず、ただ淡々と言った。
「後はあたしたちが追いますから」
それを彼らが聞いたときには、もう彼女は姿を消していた。

****

それから一時間程、シカマルとの意思の疎通が不可能になっていたが、しばらくして漸く会話が出来た。

『シカマル?戦闘でもあったの?』
『ああ…で、今度はネジが今闘っている』
『………え?』

ドクンと舞衣の心臓が脈打った。
舞衣は、あまりの苦しさに胸を押さえる。

『今回の奴は今まで以上に強いみてーだ』
足がふるえ出す。

『柔拳がないと太刀打ちは出来ねぇ』
嫌な想像が掻き立てられる。血に塗れた、彼の姿。

『お前はそのまま情報収集を続』
ブツッ!!
舞衣は術を解き、立ち尽くす。そして…小さく呟いた。

「ネジ」

──オレがお前の運命を変えてみせる…!

(もしも死んだら元も子もないじゃない。
あたしは1人になっちゃうじゃない。
結局その言葉は嘘になっちゃうじゃない。
けど、もし…)

この闘いで、何かが変わると証明してくれるなら?


舞衣は走り出した。
行く先はもちろんネジの場所。
確かめたかったのだ。
自分の運命が変わるのかどうか、この闘いで。


そしてついに、舞衣の視界に、敵が動き出した様子が捉えられた。
ネジに糸が絡み付くが、ネジは柔拳で破壊している。
敵はその様子を見て笑っていた。「……こいつやるぜよ…どうやらお前らのなかで一番強いのは、てめーだな。
・・・まずはてめーを3分で遊び殺す!」

ガッ!
ネジと敵の間に割り込むように、まるで牽制をかけるように刺されたクナイ。
投げた本人…舞衣はネジの後ろに立ち、敵に言い放った。

「ならその『遊び』とやらにあたしも混ぜてくれないかしら」
「舞衣!?何故…」

ネジが驚きながら振り返ると、舞衣は真剣な眼差しで、敵を睨みつけながら言った。

「確かめてみようと思ったのよ…。本当にネジが運命を変えられるのか!」
「面白ぇ…なら2人纏めて遊び殺してやるよ!」

敵が蜘蛛糸を放ったとき…ネジは白眼を発動した。

「白眼!!」

****

暗闇の世界、

閉ざされた世界、

ぎゅうっと自分を自分で抱きしめる。

満たされることはない。

仮面の少女は、暗闇の世界で今日も笑う。

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高鳴る鼓動
闘う最中、確かに見えたんだ。
たどり着けない、たどり着けないと何度も嘆く自分の姿が。



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