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行かないで、
そばにいて、
先にいかないで、
1人にしないで。
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あれからすぐに、舞衣はネジのところへ向かって走って行った。
別に彼のもとに向かう理由はない。
それでも、駆けつけずにはいられなかった。
部屋の中には既にヒアシがいた。
彼は柔らかな笑みを、舞衣に見せた。
「舞衣殿か…久しいな。ライは元気か?」
ライとは舞衣の伯父であり一族当主、ヒアシの親戚であり友人らしい。
たまに、宗家の門をくぐる彼の姿は、舞衣も目にしていた。
「お久しぶりです。ライ様なら多分お元気かと…ここ数年宗家には行っていないものでして。お取り込み中でしたか?」
「いや、私からの用は済んだので失礼する…ネジを頼む」
「はい」
それからヒアシは出ていき、舞衣はネジの隣に座る。そして、ポツリと呟いた。
「負けたね…」
「あぁ。しかし…これで良かったと思う」
そういうネジの眼は穏やかで、舞衣は少しの悲しみを抑え、言った。
「何かの誤解が晴れたとか?」
「…まぁそんなところだな」
穏やかなネジ、それを見ていると悲しみが吹き飛び、舞衣は少し笑顔になったが、少し厄介なことになったとも思った。
「…まだ、運命は変えられないと思う?」
「いや…それは未だによくわからない。
ただ、自ら選んだ流れに乗ることができるものと選ぶとき、人は目的に向かって頑張れる。そしてそれが、本当に強いのだとようやく分かった気がする・・・」
ネジは静かに額宛を取る。
そして、窓のほうに向かって歩いていき、笑った。
「父上…今日は鳥がよく飛んでいます。とても気持ち良さそうに・・・」
舞衣も空を見て、自分の家族を思う。しかし、また悲しさが襲い、目を伏せた。
羽ばたいていった鳥と、羽ばたくことができない鳥。
2人の運命は、ここで分かれてしまったのだ。
…暫くたちネジは舞衣を見て、あ、と呟いた。
「舞衣、試合を見に行かなくていいのか?」
「うん、そうだね…行こっかな」
確かに、このままここにいるのは辛かった。
今の彼女は、どこかで叫び声でもあげたい気分だった。
静かに舞衣は、扉に向かって歩き出す。しかしそれは、すぐに彼によって妨げられた。
いきなり腕を引き寄せられ、驚いた舞衣は、訝しげな瞳でネジを見た。
「矛盾してるな…さっきからオレの言葉は。…やはり、まだそばにいてくれないか?」
そう小さく震えながら、舞衣を抱きしめ言うネジを、舞衣は切なげに見つめ頷いた。
振り払って、扉の外に出ていくことはできた。
しかし、それをしなかったのは、自分も彼のそばにいたいと考えていたからなのか。
舞衣は、ネジの背に手を回し、自らネジにしがみつく。そして、彼女は静かに目を閉じた。
…それから、すぐに意識は途絶えた。後に言う、木ノ葉崩しが始まったからだ。
――そして、舞衣は本戦で戦うことはできなかった…。
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あれから3日後、半壊した木ノ葉隠れの里が、そこにはあった。
ガイ班で唯一、チャクラの有り余っていた舞衣は、10班とともに、里の復旧作業の手伝いをしている。
そして手伝いのため、舞衣はテンテンと2人で作業をしていたが…突然、彼女ががれきを運び終えた直前に言った。
「ねぇ、舞衣。ちょっと用があるから、一回持ち場を離れていいかしら?」
「?…いいよ。どこ行くの?」
「ん、ちょっとね」
無自覚なんだろうか、舞衣から目をそらしているテンテンから、彼女は何かを悟った。後ろめたげな何かを、彼女からは感じるのだ。が、舞衣はあえて笑ってみせた。
「うん、わかった。行ってらっしゃい。瓦礫に気を付けてね。残りのフォローはあたしがやっておくわ」
「ありがとう」
走り出す空羽を見て、舞衣はまた悲しげな瞳をしたが、再び笑みを作り、作業に戻っていった。
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森に行くとテンテンの会いたかった人はすぐに見つかった。
「やっぱりそこにいたわね」
声をかけると、ネジは顔をあげ驚いた。
「なぜ…わかった?」
「ここはあんたと舞衣が初めて会った場所なんでしょ?舞衣がここを通るたびにつぶやいてたわ。本当にあんたとの思い出が大事なのね、あの子」
そう言いながらテンテンは、ネジが座る岩の前に立つ。そして彼女は、すっと深々と頭を下げた。
「ネジ…お願いよ…舞衣を…舞衣を助けて…!」
「!」
「あたしには出来なかった…!いくら励ましても舞衣は、いつも『あたしは1人じゃないからこれでいい』、『あたしはもういい、ずっと此処にいる』って…救えるのはあんたしかいないわ!
あんたは人が変わることを証明した…。でも舞衣は取り残されたことだけに固執してしまっている!舞衣が壊れていく…」
涙を流しながら彼女は、それからも舞衣について語った。
毎日毎日泣いていた舞衣。
しかし第3班に入ってから、涙は見せなくなったこと。この中忍試験の最中から舞衣は、毎日泣き続けながらあることを言っているということ。
『助けて』
それだけを言い続け、眠る時間も減る一方。
ひどい時には、部屋中のすべてのものを破壊しようとしたりもしているということ。
舞衣はもう、限界まできていたのだ。「あたしと舞衣が出会ったのはね、入学してから一ヶ月くらい後のこと。
この前まで無表情でずーっと本ばかり読んでたこが、いきなり笑い出すなんておかしいじゃない?あたし、隣のクラスだったから詳しくは聞いてないんだけど、興味本位で見に行ったことはあったの。…その3日後よ?違和感大きすぎて吃驚したわ。
だからね、呼び出して聞いて見たのよ。そしたら全部教えてくれた。まだ押さなかったからね、抱え切れなかったんだと思う。…当然よね」
「日向ネジが舞衣の従兄に記憶を操作されてるって言う話も、このとき聞いたわ」
「…!?」
衝撃の真実に顔を上げる。消された?いつ?どこで?
やっぱり知らなかったのね、とテンテンが小さくつぶやいた。
「あんたが舞衣と出会った次の日よ。美瑛宗家に行く途中だったらしいわよ。…舞衣の従兄ははっきり言って危ないのよ。舞衣の首の呪印に、記憶の改竄…あれは舞衣曰く、後ろにいる【人】の入れ知恵らしいわ。それが誰なのかは、舞衣も分からないみたいだけど」
「……」
「…何度もあたしがあんたの代わりにどうにかできないかと思ったけど…だめだったわ」
それくらい舞衣を助けたかった。
幸せそうに笑う舞衣の笑みを取り戻してあげたかった。
でも自分には何も出来ない。できなかった。
舞衣は本当の笑みを取り戻さないまま。
いつも彼女は、ネジの姿を見つけては、背中が見えなくなるまで見つめ続けていた。
縋るように、悲しげに、しかしネジが振り向いた瞬間、笑みを作り笑っていた。
しかし、本当の自分を見せるものほど、怖いものはない。
けれど、早く救い出さないと、彼女は…。
ネジは腕を組み、考え始めた。
「…いつ、切り出したらいいか…。なるべく早いほうがいいだろうが…」
「そうですね…何か特別な行事を、3班でしますか?」
「…毎年、伝統行事である祭りが里にある。普通の縁日だが、それには意味があるらしくてな、明るく振る舞って楽しんで、死者を弔うらしい」
ただ単に祭をやる口実みたいなものなのだが、これは最大のチャンスであると、彼女は聞くだけでわかった。
「あの先生ってイベント好きよね、間違いなく強制参加よ、多分」
「ああ。祭は2日後…ちょうどいいタイミングだ」
現に、今、ドドドドドっと走ってくる音が響いている。それを聞いて2人は、決意の意味を込めて笑った。
その仮面、剥いでやると。
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夢を見た。
暗い部屋、大嫌いなくらい部屋。
目の前には幸せそうに笑う兄さんがいて、その横では呆然と立ち尽くすネジがいる。
あたしは何故だが泣いていて、「こんなはずじゃあなかったのに、もっと早く自分の気持ちに気づいていたら」と、何度も何度も後悔していて。
胸に刺さった刃、あの人にも刺さった刃。
心中。それを自覚して目を覚ましたのが今日の朝のこと。
(文字は震えていたのか、少しゆがんでいる)
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真実の始まり
もうすぐ始まる真実の物語。
(救い出してみせる)(もうやめて、追い詰めないで)
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