With Teacher
「…先生、職権乱用って言葉知ってますか?」
「食券乱用?おいおい…いかんなぁ舞衣!食券を無駄に買いすぎたら、周りの人にもお店の人にも迷惑だからな!」
その漢字じゃない。
…なんなんだ、この人は。ちょっと前の旅行のときに、少し見直したあたしが馬鹿みたいじゃないか。
いつものようにはぁっとため息。
そして、頼まれていた鍋の材料を、少し乱暴に床に置いた。
「…で?通りすがりのあたしを捕まえて、きりたんぽ鍋の材料をあたしのお金で買わせ、そしてわざわざガイ先生の家にまでもってこさせた理由は何ですか?」
「うむ。お使いのお金は後でちゃんと渡そう!
…今日、わざわざ舞衣を此処につれてきた理由はな…」
「・・・理由は?」
聞き返した瞬間、じっとガイ先生があたしの顔を見つめた。
…凄い真剣そうな表情だ。
これは、いつになく大事な話をする予感がする。
あたしは身構え、次の言葉を待った。
「…実はな」
「…はい」
「…隣の部屋にだな」
「はい」
「…酔いつぶれたカカシがいるんだ」
「は?」
予想外の返答に、思考が停止した。
開いた口が塞がらないというのはまさにこのことだろう。
なにを言っているのだ、この人は。
「それで、なぜかお前を呼んで来いといわれたから連れてきたんだが」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんであたしなのかぜんぜん意味が分からないんですけど」
「酔っ払いの話を聞く!それが任務だ、任務!」
「このきりたんぽは何のためにあるのよ!」
「気紛れだ!」
…だめだこいつ、早く何とかしないと。
でもまぁ仕方ないんだろう。定めだ。そういうことにしよう。
縋ってくるガイ先生を手で制し、がらっと扉を開ける。
瞬間、強い酒の臭いが鼻腔に届いた。
「あ〜舞衣ちゃん本当に来てくれたんだネ」
手を振るカカシ先生、その隣には「ああ、舞衣ごめん…」と頭を抱えるイルカ先生も居た。
「上忍命令と言われたらそりゃあ来ますよ」
「ふ〜ん…なら…上忍命令だからオレとキスしてくれる?」
ガタンとイルカが赤面した。カカシ先生!あなたって人は!と怒鳴りつけている。
…冗談だって解ってるんだけどな。
「まっさか、あたしはネジ以外認めませんよ」
とりあえず手を振って首を横に振って否定してみる。
「つまんなーい」とカカシ先生は一言言ってから、ずいっと何かを差し出した。
「じゃあ代わりにこれ飲んで」
…これは、選択肢なんだろうか。
また怒り出すイルカ先生の横で考える。
飲むか、キスするか?つまりそういうこと?
「…毒とかじゃないですよね?」
「ジュースだよー」
「…見るからにそうは見えないんですけど…まぁいいや、これ飲んだらあたし帰りますね」
茶色い液体の入ったコップを受け取り、臭いをかがないように息を止めて飲む。
(!…あ、これ、まさか)
瞬間、舞衣の意識が飛んだ。
****
今日の修業のノルマをこなしたオレは帰路を歩く。
近いうちに私闘をする必要があることを想定すると、今まで以上に修業メニューをふやす必要がある。
舞衣は心配するだろうから、彼女に隠れてだが。
とりあえず、疲れた。
歩くのも疲れた。
しかしどこかで休んでしまえば、それまでなのだろう。
歩いていくうちに目の前に、ぼんやりと背負われている少女と背負っている男の姿が見えた。
疲れているので少し羨ましい。
だんだん、ぼんやりとした影がはっきりとしていく。
オレが目を見開いたのと、「やーネジ君」と声をかけられたのはほぼ同時だった。
「…舞衣?」
背負われているのは舞衣。
背負っているのはカカシ先生。
…何故この二人が一緒に居るのだろう?
疲れている成果、怒りが海の底から沸きあがってくる。
そんなオレの怒りを察したのか、カカシ先生は「怒らないでよー」と目を細めた。
「ごめんね、ネジ君。
オレが酔っ払ってたときに、彼女に酒を飲ませちゃったんだよ。
あ、悪いことにはなってないヨ?
それで、酔いが醒めてきたからつれてきたってわけ」
「何故わざわざ舞衣を…」
胸の中を蹂躙する真っ黒な嫉妬の炎が火花を散らす。
それと、無責任に未成年に酒を飲ませたことへの怒りも。
オレはそれを抑えながらあくまで冷静に、問い詰めた。
「ガイの愚痴。と、彼女の本音…かな。
酔った子って素直だよね、いろいろと聞かせてくれたよ。
…なんで美瑛一族の宗家嫡男さんに尾行されていたのかも、ネ」
カカシ先生の眼が惚けた感じから本物の忍の眼になった。
…ちょっと待て。
尾行?いつから、オレがいないときに、か?
「ガイ、外に出て舞衣を呼ぶ振りをしている最中に本当に見つけちゃったらしいんだよ。尾行している男も同時にね。
それで、適当に鍋の材料買わせた隙に、嫡男君の後を追ったってわけ。
ま、逃げられたらしいけどね」
カカシ先生は背負っていた舞衣を、オレの腕に乗せる。
「で、分かった事」
そして、いつものおどけた表情で、笑った。
「舞衣は、ネジ君以外の男は恋愛感情としては眼中に無かったみたいだヨ。
あまりオレに嫉妬しても意味ないんじゃないかな?」
じゃあ〜ね、とカカシさんはひらひら手を振り、夕焼け空の下を悠々と歩いていく。
それを見送ったオレは、爆睡する舞衣の頬を少し抓った。
…赤い跡も残らない程度の、見えない跡を残して。
人間ってそんなものね
「うーん…父上ぇ…」(…またか)
****
何も考えてないようでちゃんと考えてるのが拙宅の上忍方です。
(4/5)
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