With Tenten

「タロットカードを買ったのよ」
どんっと、ある日神秘的な雰囲気を醸し出すカードを、あたしの前に彼女は出した。

「…すごいね、テンテン。占いが趣味っていうのは知っていたけど…ついにここまで…」
「基本よー基本!ホントは水晶とかも欲しいんだから」
にこっと、楽しそうに彼女は笑う。
本当に嬉しいらしい。
でもなんでわざわざ、ネジの家にそれを持ってきたんだろう?
その答えはすぐに出た。

「ね、舞衣の未来、占わせてくれない?」

…断る理由も必要も無かった。

****

今回テンテンがやるのは、ケルト十字法というもの。
10枚のカードを使う最も人気のある占い法らしい。
問題の状況をトータルに見ながら分析し、今後どうなるかを占うそうな。

項目は10つ。
焦点、障害、現状認識、近い過去、潜在意識、近い未来、質問者の姿勢、周囲の状況、願望と不安、最終結果。

大アルカナ(秘密の教えという意味。タロットカードのこと)を、彼女はていねいにシャッフルする。
「さ、引いてって」
言われたとおりに、一枚ずつ引いて、言われたとおりに並べていく。
そのときの彼女の瞳は、極めて真剣なものだった。

そして並べ終わった全てのカードを、テンテンは一枚ずつめくっていった。

「まず、焦点ね。問題の本質は…《運命の輪》の逆位置ね。
意味は不運、悪化、すれ違い、不可避の事態…望んでいない方向にことは進んでいるわ」
あたりだった。
状況が落ち着くことなく、絶え間なく最悪の方向に進んでいる。

「そして障害。これは《悪魔》の正位置ね。
嫉妬、執着、欲望、悪循環…お兄さんのことかしら?」
…それもあるだろう。
でも、悪循環は、多分両親のことだ。
現にあたしは、父上と母上と同じ道を歩もうかと考えているのだから。
…そうしなければ、いけない気がして。

「現状認識ね。《恋人》の逆位置…優柔不断、成り行き任せ、曖昧…ね。
舞衣、ちょっとあたってるんじゃない?」
「…そうみたいね。確かに、そうだわ」
《今このときが幸せでありますように》とばかり考えて、先送りにしてしまったことが沢山あった。
今もまだ、その考えに甘んじ続けているのかもしれない。

「で、次は近い過去か…。《法王》の正位置。
慈愛、親切、ぬくもり…ね。この前の旅行かしら?」
「はは…そうみたい。いろんな人に助けられたもの」
「で、潜在意識は《戦車》…野望の達成、困難の打開か…実は、もう舞衣の中では答えは決まっているのかもね。
まぁ後の質問者の姿勢の項目ではっきりするかしら?」

そういいながら、テンテンは6番目のカードを捲る。
そして…顔を曇らせた。

「《正義》の逆位置…まずいわね。
別れ、別離、均衡の崩壊…」
近い未来の項目は、そんな負の言葉で埋め尽くされていた。
「…占いだから、大丈夫だよ」
都合のいいところだけ信じて、都合の悪いところは信じない。
今だけは、そういう考えを貫いていたくなった。

「そうね…じゃあ次、質問者の姿勢ね。
《魔術師》の逆位置…不安定、優柔不断、保守的…」
…空気が、徐々に重たいものへと変わっていく。
悔しいことに、当たりだ。
何もかもが中途半端で、固まった決意なんてほとんど無い。
それは、紛れも無い事実なのだ。

「…次、行きましょう」
テンテンが、少しくらい声でカードを捲る。
周囲の状況についてのカードだ。

「《月》の正位置…不安定、虫の知らせ、恐怖、幻滅、予感…」

少しでも明るいカードが出ないかと思っていたのに。
空気は、益々重たい色を見せる。
たかが占いだと思って、軽い気持ちで行なっているこの行為を、今はもう軽視することは出来なかった。

「…願望と恐怖は…《力》の逆位置ね。
放棄、無謀、妥協、現実逃避…どういう意味かしら。
恐怖…よね?舞衣」
「…」
答えることは出来なかった。
こんなのが、あたしの願い?
…むしろ、未来のような気がした。

そして、残るタロットカードは最後の一枚となった。
最終結果。全てを決定するカード。
ごくりと、生唾を一つ飲み込む。
そして、二人で同時に、そのカードをひっくり返した。

「…《星》の逆位置…」

結末が、よい方向にいきなり変わるということは無かった。
星の逆位置は、自己完結、盲信。
将来の見通しが立たず、自分に自信を持つことができない…カードの解説書にはそう記されていた。

****

「今日は調子が悪かったみたい。ごめんなさいね、舞衣」

いつもよりも落ち込んだ笑みを見せ、彼女はとぼとぼと帰っていく。

残されたあたしは、小さく呟いた。

「…“運命なんて誰かが決めるもんじゃない”」

だから、きっと大丈夫。

大事なものは目蓋の裏
信じるものは救われるらしい。
でも信じないときも救われたりする気がする。


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実際にタロット引いて頑張ったので、矛盾があるかもしれない。

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