With Lee

「恋歌?」
「はい!教えて下さい!」

ある日の午後、リーに誘われてカレー屋に来た時のことだった。
食べ終わった中からのカレーが入っていた皿を、店員がそそくさと下げる。
目の前にいる彼は、三杯目のカレーをモリモリと食べていた。

「どういう風の吹き回し?この前百人一首で気に入ったものがあったの?
…意味を分かっていたようには見えなかったけど」
「はい。確かによくわからなかったんですが…。
女の子にはオブラートに包んだ愛情表現が効果的だと、カカシ先生が言っていたんです」

なるほど、だから恋歌か。
古文みたいに、今とは意味の違う言葉が使われていたら、確かにオブラートには包まれるだろう。
それに比喩表現も多い。
考えたなとは思った、けど。

「…それ、サクラに言うの?」
「もちろんです!」

…やっぱり。
そういわれると応援する気にはなれない。というか、したくない。
だって、リーのことを本当によくわかっていて、ずっとリーのことを見守り続けてきた女の子を、あたしは知っているのだ。

「…お願いです!舞衣!一つでも二つでもいいので、教えて下さい!」
「…どうしよっかな」
「意地悪を言わないでください!」
…いや、そういう意味の「どうしようか」じゃないんだけど…まぁ、リーがあたしの気持ちを読めるわけがないから、仕方のない話なんだろうけど。

…とはいえ、このまま渋っていてもあきらめの悪い彼だ。
折れることは絶対にないのだろう。
テンテンへの罪悪感を、あたしは胸の奥の引き出しにしまいこもうとする。
とっておきの句が浮かんだのは、その時だった。

「…わかった。じゃあ一つだけね」
「!…ありがとうございます!」

「…あはれども いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな」

それだけを言って、あたしは席を立った。
食券制だから、あらかじめお金は払っている。
「どういう意味ですか!?」と後ろから問いかけてくるリーの声に、あたしは笑った。

「鈍感なリーがこの先どうなるかっていう、予言と警告よ」

兼徳公、小倉百人一首
あなたに見捨てられた今、かわいそうだと言ってくれるはずの人も思い浮かんでこなくて…このままむなしくて死んでしまいそうだよ。
「女なんて、早く気付かないと逃げちゃうこともあるんだからね。リー」
「男も同じ。だからあたしは捕まることにしたの」


****

サクラにふられたとき、もしもテンテンはリーをあきらめていたらという。
失って初めて寄りかかるものが今まであったことに気づくなんてねみたいな。
正式な解釈とは違いますよ。もちろん。

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