Short Dream



 今までずっと、お前に言いたいと思っていた言葉があった。

 初めは一つ下の後輩だったこともあったせいか、ヒナタ様やハナビ様のような所謂「妹」的存在を見る目で接していたと思う。それがいつしか周りに友達以上恋人未満と揶揄されるようになっていった。そう呼ばれるようになったころにはオレの意識も「妹」を見る目線とは大きく変化していった。
 大きなきっかけは演習場で泣いている歩の姿を見つけた時だった。一人で木の陰でうずくまって肩を揺らす歩に、何があったのかと聞いたが奴は無言だった。だが放って帰るわけにもいかなかったしそのまま何度か話しかけていたのだが、やっと返ってきた歩の言葉は「子ども扱いしないで!!」という怒鳴り声だった。すぐに我に返ったように涙を引っ込めて歩は「ごめん」と口にしたが、オレはそのときにやっと気づいたのだと思う。出会ってもう5年が過ぎようとしていた。歩は、オレが思っていたよりも大人の姿をしていた。
 
 意識が変わるのはあっという間だった。
 だからといって関係性をがらっと変えるための言葉を口にする勇気はまだオレにはなかった。今更恋人、などという関係を持ちだすにはどうしたらいいのか、それすらも知らなかった。同期の女からは「歩ね、ネジのこと好きなのよ」と後押しもされたが、それでもオレは何も言えなかった。
 怖かったのだ。関係性がこれ以上変わり続けることが。歩がオレの唯一の存在になることが恐ろしかった。結局抜け出すことが出来ないでいたのだ。幼少の時の、あの大きな喪失から。これ以上自分の大事なものを作って、それを失うことが。


 もう一度、あの鳥籠に閉じ込められてしまいそうで。


 「…今となってはすべては過去、か」

 いびつにひび割れた写真立て。彼女とオレが不自然に目を見開いた表情をした写真。リーがふざけて撮った写真だ。夜中に写真立てだけが棚から落ちた音を聞いた時、なんとなく感じた不安は的中した。はじめての長期任務に不安そうな顔をする歩に告げた、「戻ってきたら話がしたい」という覚悟の言葉。しかしその覚悟も灰に帰した。歩が空に還ったその瞬間に。
 何が「大切なものを増やしたくない」だろうか。もう、大切なものはそこにあったのだ。手放すことがないように守るべきだったのだ。

 もう遅い。失ったものが戻ってくることはない。
 しかしいつか人は必ず死ぬ。それはオレも例外ではない。この身が朽ち果てる時、そのとききっと、今度こそはお前に、



 背中に翼があったなら
 本当は今すぐにでもお前を抱きしめに向かうというのに。
どうか待っていてもらえないだろうか。言えないままでいた言葉を伝えにオレが会いに行くまで。





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2009年くらいの企画「白哉さまとネジ兄さん」提出作品リメイク。
ちょっとタイトル解釈にミスがあったなぁと振り返る現在です。これたぶん同じ死ネタで挑むならヒロインが死ぬよりネジが死んだ方が圧倒的に書きやすい。管理人は輪廻転生厨です。



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