Short Dream



(男女関係で嫌な思いをした経験がある方は注意)



『榛原って○○好きなんでしょ?俺もなんだよね。話しない?』

小学校の同級生が、突然SNSで友達希望を出してきた。
うわー久しぶりだな。高校もそういえば一緒だっけ。何回か顔を合わせた事はあるけど、まともに話をしたことはないから嬉しいなー一緒の趣味なんだ、と思いつつ話をしてみる。
私のもっている趣味を理解してくれる友人は少ない。『歩ってずれてるよね』、なんてことをよく言われる。だけど、いつか共通の趣味を持ってくれる人が現れるかもしれない、なんて思いつつ、好きなことを私はそれなりに愛してて。

だけど、私は『男性』という存在が苦手だった。
どうして突然、それが恐ろしく思うようになったのかは覚えていない。むしろ、小学校のとき、中学校のときは、私は女子よりも男子と話すことのほうが好きだった。
だけど、それについて『ビ○チ』と暴言を吐かれたこともないし、いじめられたこともない。多分、男子と仲良くはなるけれども、そこから一線を越えてヒトと付き合う、ということをしてこなかったからではないかと思う。
だけど、突然それが駄目になった。
高校にあがって、『性』というものが強く絡むようになったことが原因だと思う。
付き合えばキス、ハグ、セックスという展開が必ず待ち受けるようになった。昔からの私の友達は、カラオケで胸を揉まれたと愚痴るようになったし、私も少し仲良くなった男友達に突然押し倒された、という謎展開に遭遇するようになった。
何かあればすぐに一線越えた関係へ。そう進んでしまう『異性同士の関係』が恐ろしくて仕方なくなった。

そんな私にも、たったひとりだけ、信頼できる相手がいる。
幼馴染み。ずっと前から一緒にいる幼馴染。彼だけは平気だった。…というのはさておき。


なんだかんだで会話は弾んだ。
共通の趣味を持っている人は、やはり向こうも少ないようで、リアルでこの話を出来たのは私がはじめてだったらしい。多分、私がこれを好き、と言う話をどこかで聞いて話しかけてきてくれたのだろう。
そして、会話は持っている本の話になり…私が読みたいと思っている本を向こうが、向こうが読みたいと思っている本をちょうど私が持っているということが分かった。
だからお互いに交換して読みあおう、と言う話になって、同じ学校なんだから学校で交換できたらいいよねー…なんて思っていたら、何故か相手は休日指定。
もしかして彼女がいるのかな?学校で私と会っているのを見られたくないとか…とのんきに解釈した私は、そのまま「いいよ」とOKした。

このときの私は、相手が小学校時代からの知り合いである、と言うことに完全に気を抜いていた。
今はなかなかおしとやかになった私だけど、小学校時代の私はなかなかにやんちゃで、男子に喧嘩を売って勝利していたような男女のような存在だった。
そんな私のことを知っている人と何かが起こるわけがないと思っていたし、そもそも、趣味の話をする為に会うのだから…と、私は油断していた。

****

ぞわぞわする。
お腹の奥底が、気持ち悪い。
ボディソープの香りが、身体中にまとわり付いている。それが、「自分の体はもう綺麗だよ」ということを教えてくれている。だけど、それでも、ぞわぞわが離れない。

震える指先で、携帯の通話ボタンを押す。
数回のコール音がきこえたのち、いつもの無愛想な「もしもし」が聞こえたとき、涙が零れそうになった。

「…ネジ?」
『どうした歩。また何か分からないところでも――…歩?』
「…っ、あ、ごめん…こんな、突然…」
『何故泣いている。何があった』

ああ、聞きなれた声が、耳に染み渡っていく。安心する。
浸っていたら、歩、という強い声が響く。…ああ、私、泣いちゃったのか…。

「…ごめん…電話した瞬間、泣き出しなんか…」
『…少し待っていろ。今は家だな?』

がさごそ、という音が聞こえる。
うん、と頷くと『待っていろ』という声がして、ぷつりと電話が切れた。
しばらくの静寂。ずずっという自分の鼻水をすする音と、息を深く吐く音、嗚咽だけが、空間を支配する。部屋の扉は閉めているから、家族には絶対に聞こえない。

まだぞわぞわする。
自分の身体が、気持ち悪い。嫌だ、嫌だ、たすけてほしい。
ネジ、早く来て…!…そう願った瞬間、こんこんとノックオンが響く。「どうぞ」と呟くと、息を切らしたネジの姿。走ってきてくれたようだった。

「…何があった」

私の前に屈みこむ。
手を頬のほうに伸ばされて、身体が跳ねそうになる。だけど、さっきみたいに後ろに引くことはなかった。

「ネジ…小学校のときの、あいつ覚えてる?あの…」
「…ああ、覚えている。お前と同じ学校だったな」
「あいつと、久しぶりに会ったの。趣味が一緒で、本を貸し合おうって話になって」
「うん」
「雪が降ってたから、本を汚すのも嫌だし駅に行こうって何度も言ったのに、何故か人気のない公園の屋根に行きたいって言われて」
「うん」
「突然手を握られて、そのまま手を引かれて、」

思い出すだけで鳥肌が立つ。
脳がしめつけられるような、不思議な寒気と、こみあげてくる吐き気が苦しい。
だけど、ネジは私の言葉を待っていてくれた。

「こっちみて、って言われて、なんか怖くて、やだって言ったのに、見てって言われて、手で頬をつかまれて、向かされて、顔が近くて」
「……」
「やだっていって離れたの。そしたら、ハグも駄目なの?なんてふざけたこと言われて。とっさにお使いがあるから帰るって嘘ついて、でも結局家に入るまで付いてきて、最後にまた手を握られて、」
「……」
「髪をなでられて、髪フェチだからとか言われて、ずっとそのままされつづけて、何度も付き合おうとか言われて、頑張って逃げて、それで…っ」
「…もう、大丈夫だ」

ふわり、とネジが私の体を抱きしめる。さっきまで外にいたその体は冷たい。
男のヒトの身体、男のヒトの手、男のヒトの声。それでも、その正体が「ネジである」というだけで安心することができて。

「…っ、こわかった…うぇっ…」
「大丈夫。大丈夫だから」

よしよし、とネジが私の髪をなでる。
あいつが、忌まわしい男が撫でた、あの髪を、なでてくれる。
ネジの存在が、体温が、あの忌まわしい存在を消していく。

「ずっと、ここにいるから。…ああ、でも今は泣いておけ。泣いて、嫌な物は吐き出せばいい」

優しい言葉を沢山かけてくれる。
大切な幼馴染み。その存在だけで、

「ありがとう…ネジ」

こころが、いやされていくようなきがした。


Stable
この心が受け入れるのは、あなただけ



****

ちょっと不愉快なことがさっきあって。
まだぞわぞわする。この時期にこんないやな目になんで遭わないといけないの、なんて思いながら、とりあえず行き場のないこの思いを消化。自分のための夢小説、ですみません。
みなさまも出会い系男にはご注意ください。かつての知り合いだから、と安心していたら痛い目見ます。


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