Short Dream



ほら、またその眼。
どうしていつもあなたはそんな目をしているのかしら。
だから、なんとなく聞いてみたんだ。
「ねぇ、ネジってどうしていつもそんなにうんざりしたような顔をしているの?」と。
案の定、そう聞いた途端に彼はまたあの眼になった。

「…いきなりなんなんだ。お前は」
「いや、だって気になったから」
「オレがどんな表情でいようが、お前には関係のない話だろう?」
「確かに!そうだけど…そうだけど…」

だって、気になるんだもん。なんとなく。
あなたはどうしてそうやって不機嫌そうにしているんだろうって。
本当は馬鹿騒ぎしたいとか、実は思っているのかなとか。
本当は人間なんて皆大嫌いなのかなとか。

ほんとう、は。


「ねぇネジ。人間って、心が読めるわけじゃないから、顔で判断するしかないのよ?
あまり不機嫌そうにされたら、私…」


“あなたに、嫌われているんじゃないかって、すごく、すごく不安になるの。”


そのたった一言の弱音を、どうにかして私は飲み込んだ。

馬鹿みたい。私達、別に付き合ってるとかそういうわけじゃないのに。
たまたま幼馴染で、同じ日向で、同じ『籠の中の鳥』だっただけ。
赤い糸だとか、そんな大それたもので巡り会った関係でもないわけで。

何が言いたいかって、そう。
こんな『うんざりそうな眼をした男』に、避けられていないだけマシな存在なのだ。私は。


それを再認識した瞬間、ぽたりぽたりと、手のひらに何かが落ちる。
雨?ううん、違う。だってここはネジの家の、いつもあたしが占領しているソファーの右隣だもの。
いつか、あたし以外の誰かが座るかもしれない、右隣。
そう思った瞬間、雨に似たそれはさらに激しさを増しだして。


台風でも起こっちゃうんじゃないかと、笑ってしまいそうになったとき――涙の原因が、はぁっと大きくため息を吐いて、その大きな冷たい手で、私のあごを無理やり上に押し上げた。
何するの、と言う私のささやかな抗議も、許してくれないほど近い距離に彼は居て、あのうんざりした眼で言うのだ。

「…もともと、オレは素直に感情が表に出ないんだ。
お前もそれを分かっているとばかり思っていたんだが…どうやら、鈍感なお前には分からなかったようだな」
「だがオレはお前も知ってのとおり、口下手だ。それならば、」


その言葉を理解するよりも早く、奪われた私のはじめてのキス。
上手く感情が表に出ないといったのは何処の誰だったか、彼は意地悪く笑っていた。


「態度で、示したら伝わるだろうか?」


私が本当の彼を知るのは、きっとこれから。


ポーカーフェイス
オレがそんなに冷たい人間だと思ったか。



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