Short Dream



「あああ!!出てこない!これだけ愛しているのにまだ出てこない!!」

 出てきておくれ、出てきてくれたっていいじゃないか愛しているんだよと叫びながら私はスマートフォンの画面を見つめる。出てこない、とは「NARUTO疾風乱舞忍コレクション」、通称「ナルコレ」というアプリのゲーム内のことだ。日常の私生活が大分落ち着いてきたのでついにインストールしてしまったこのゲーム、ガチャで好きなキャラを引き当てることが出来るのだが…ネジが、レア度が低かろうが高かろうがとにかく姿を見せてくれないのだ。
 ガチャを引くボタンを押すたびに「ネジ〜ネジ〜」と手を組んで祈りをささげる。だけどNARUTOの神は無慈悲にも興味のないキャラばかりを私に差し出してくるのだ。ガイ班は幸いにも全員揃ったし従妹のヒナタちゃんも出てきてくれた。外堀は固まっているのだ、外堀は。なのに本命が出てこない。
 課金、という言葉がそろそろ頭から離れなくなってくる。でもお金で得るというのは何かが違う。本当に彼を愛しているのなら、その愛一筋で引き当てるべきなのだ!


 「ああぁ〜…なんでガイ先生ばかり出てくるのかなぁ…いやいいんだよ?別に先生だし。でもそろそろネジが出てきてくれたっていいんじゃないですかねぇ…なんで?こんなにも愛しているんだよ?なんなの?ねぇなんなの?」
 「…お前は一人で大声で人の名前をさっきから叫んでいったい何がしたいんだ」
 「はぅ!本物!!いやあのね?ネジが出てこないの。こんなにも愛しているのに」
 「お前は恥ずかしげもなくよくもまあ本人にそんなことを堂々と言えるな」
 「え、だって…そりゃあずっと言いたかった言葉だもん。惜しみなく言うよ」

 黒を基調にした現代風の服を着たネジが「まったく」と言いながらすとんと私の隣に座った。ネジが突然やってきてから3か月、隣に座られるとやっぱりドキドキして死にそうになる。だって!気配があるんだよ!?夢じゃないし幻覚でもないんだよ信じられない!
 なんて鼻血を吹きだすんじゃないかってくらいテンションが上がっている私のことなんて一切お構いなしに顔をぐっと近づけてスマートフォンの中身を「しかし不気味だ」なんて言いながらネジがのぞき込む。まあ確かにネジにとっては自分の仲間がこんな小さいはこの中に納まってるようなものだもの、奇妙にも思うよね。そうやって訝しげな顔をしているネジも大好きなんですがまあまあ。
 
 「毎回毎回祈りを込めながら引いてるんだよ」
 「下らない。なぜそうも存在しないものに夢中になる」
 「私の心の中には存在してるの。それに、本物のネジは此処にいるでしょ」
 「ならそれでいいじゃないか。何故そうも必死に箱の中のオレを求めるんだ」

 そこのオレは偽物みたいなものだとネジが小さく呟く。そこで私は何事かを閃いて、まさかと思いつつ聞いてみた。

 「…もしかしてネジ、自分に嫉妬しちゃって…」
 「うるさい」
 「わっ」

 それ以上は言わせないというようにネジが私の肩をつかんで腕の中に引き込む。そんなことをされたらもう私は興奮で暴れるを通り越してどうしたらいいかわからなくなって大人しくなってしまう。確信犯だ。私がそうなるって分かっててやってる。温かいネジの身体の奥底で、とくんとくんとネジが生きている印が聞こえてくる。

 「ごめんね、でも好きなんだ。だから全部欲しくなっちゃうの」
 「ここにいるオレだけを見ているだけでは、足りないのか」
 「そうだね、足りなくなかった。ごめんね、ネジがやきもち焼いちゃうなんて思ってなかったよ。それにたぶん、もういくら引いてもきっともうネジは絶対出てこないや」

 だって、あなたはもうすでに私のそばにいてくれるのだから。
 ぎゅっと抱き返す。好き、とかぼそくだけど声が聞こえて、私は「照れちゃうよ」と笑う。「それはこっちの台詞だ。毎度毎度恥ずかしいんだよ」とネジは眉間にしわを寄せたあの顔で私の頭を軽くはたいた。


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