Short Dream



“眠りなさい 私の坊や
ひらりひらりと ふわりふわりと
天に揺れる羽のように 心地良き眠りにおつきなさい

日の下に召す神様よ この子にひとつ小さな恵みを
小さな愛しき私の子 みんなにひとつ小さな恵みを
与えて下さい 与えなさい
優しく暖かな愛の恵みを”


あれから二年の歳月が過ぎ、二人は上忍となっていた。
そして、今では隠れて交際もしている。
許されない恋、それでも良かった。
たとえ不毛な恋だと分かっていたとしても。

隣にその人がいるというだけで、どこまでも飛べる気がした。
隣でその人が笑うだけで、世界の理が変わっていくような気がした。
どこまでも強くなれると、そう信じて疑わなかった。

それなのに。


「縁・・・談・・・?」
「うん…」

突然決まった歩の縁談、その言葉を聞いたネジは呆然とした。

「あのね、ネジ…バレちゃったみたいなの」
「まさか…」
「うん、私たちが交際していること」

ドクンと…ネジの心臓の拍動が強く打たれた。
何故、二人がともにいることが許されないのか。
分家に生まれたことがそんなに悪いことなのだろうか、ここに立つことがそんなに赦されざる罪なのだろうか。

…この縁談、おそらく歩に断る権利はないだろう。
交際がバレている以上、二人はこのまま一緒にはいられないのだ。

それならば。

「歩…二人で…逃げないか?」

賭けだった。
彼女は着いてきてくれるだろうか?
初めて本気で好きになれた人。
引き離されるくらいなら、上忍の肩書きや一族の名前を捨てて逃げよう。
何処までも、彼女の傍にいられるのなら、罪を着せられても構わない。

彼女はしばらくしてから、小さくこくりと頷いた。
「ネジが一緒にいてくれるなら」という、ささやかな笑みとともに。

互いの体の体温を共有しあう。
離れない、離さないと叫ぶように。
「ここにいる」ことを感じあうために。


それは、その決断は、間違いだったのだろうか?


その日の深夜、オレの目の前にいるのは、暗闇の中で紅い血を流す歩。
刀を持つ人の影、逃げる男を追う余裕などなかった。

「歩!」

抱きかかえたその身体。
歩が、歩が冷たい。
さっきはあんなにも暖かったその身体が、何故、今はこんなにも。

「ネジ………わ、たし……」
「喋るな、傷が開く…!」

歩は首を振るだけだった。
その意味が、ネジに判らないわけがない。
他人事のように、歩は静かに自分の限界を告げた。
それでも、判っていたとしても、ネジに「諦める」という選択肢は浮かばなかった。
今まで運命を諦め続けてきた、この男が。

「助けるから、まだ里を抜けていない。此処はまだ木ノ葉の中だ間に合───…」
「もういいの…助かって、ネジ以外の誰かとなんて結婚したくないの・・・ねぇわかって・・・?」
「わかりたくない」
「お願い」

どこまでも透明なその瞳。
その奥底には、かすかにネジが映っている。
「…ねぇ、ネジ」
なんとか絞り出したその声。
ひゅうっと、のどの隙間から掠れた音がした。

“子守歌を、私に歌ってくれないかな?”
“そうしたら、思い出だけは此処に残せる気がするの”

カハッ…と吐血した歩。
もう限界である彼女を見たネジは、泣きそうになりながら頷き…静かに、永久の眠りへの子守歌を歌い出した。



こぼれ落ちたのは涙じゃなくて
後にそれは『子守歌の悲劇』として語り付かれるようになった。
身分違いの恋をした二人の、悲しい思い出を歌い紡ぐもう一つの『子守歌』の意味として。



****

入りきらなかった言葉
「ああ、運命を変える力とは何なんだ。あの男ならば答えてくれたのだろうか?オレは彼女に何が出来たのだろう?」



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