Short Dream



私の人生がもし小説としてどこかのサイトの片隅に書かれているとすれば、きっとタイトルの横には「死ネタ・メタ要素あり」なんて地雷を警告されているに違いない。



私は前世、とあるキャラクターのオタクだった。どこか陰を背負っている少年で、主人公サイド的には一個上の先輩ポジションに当たる。バトル系の漫画だったし主人公と戦ったこともあったし、そこで主人公に心を救われるポジションでもあった。
多分最初はいけ好かない男だなとか、こいつちょっとやな奴だと思いながら、彼の人生を追っていたと思う。でも運命という陰を乗り越えて主人公のために戦ったり、漫画の主軸の見えないところで前向きに頑張っている彼の姿は、どこか私には眩しくも見えた。
ネットでかっこいい彼の画像を検索していたら検索候補に「夢小説」という言葉が出てきた時が私の人生の転機だったと思う。この人と恋愛をしたいと思う人がこの世界には沢山いるんだ、と共感した。色んな人が書く想像の彼と何度となく恋をした。まだ「推す」という言葉がない時代の話だったから、この思いの表現方法は専ら「好き」とか「恋」だった。彼に恋をしていた。彼のことが好きだった。

彼が漫画の中で死んでしまったのはもう何年も昔になる。

映画やアニメ、ゲームをプレイしていて泣いてもいないのに「泣いた」と言うのはよくあることだったけれど、架空の人物の死に本気で涙を流し、絶望をしたのは後にも先にもそれがはじめてだった。
仕方ない。バトル漫画とはいえ戦争要素が絡む話だった。刃物でやり合うよりも怪獣大決戦みたいなハイスケールな術やら技やらが飛び交う世界で、メインキャラクターが死なないというのも都合が良すぎる。彼は読者の中でも人気だったし、尚更インパクトがあっただろう。
それに、彼はあの場で自分が生き残って、代わりに自分の仲間が死んでいたらきっと死ぬよりも辛い思いをしたと思う。分かっている。彼にとって最善の選択だった。彼は自分の意思で死を選んだのだ。敬愛する彼の父のように。分かっている。それでも。
何年も経ったけれど、彼の死に私が折り合いを付けられることはなかった。



さて、なんやかんやあって私は死んだ。
そしてこの世に生を受けたと思えば大好きなNARUTOの世界だった。何を言っているか分からないと思うけれど、多分まだ死後の世界にいるんだろう。じゃないとこんなご都合主義が許されるわけがない。
ご都合主義の癖に私は平々凡々の一般家庭に生まれた。父も母も忍びとは関係のない職業だ。アカデミーに入れなかった時点で何かを察した。多分私はあの怪獣大決戦みたいな第四次忍界大戦までには確実に死ぬ。それどころか忍者になる素養もないから歴代の夢小説の主人公みたいにもなれない。
いやいやいや。
ご都合主義は多分ここからだ。一般人の私と街角でこう、ぶつかってそこから知り合って恋がはじまるに違いない。だってこんなにもNARUTOの世界の知識がある。きっとトリップ主人公みたいな展開が待っているに違いない。
そう思って私は両親が営んでいる食堂の手伝いをしながら、来る日も来る日も道の往来に彼が通りかかる日を待った。使えるようになりたい忍術は?という公式のアンケートに「白眼」と書いたことは何度となくあったけれど、本当に欲しいと思ったのは転生してからが初めてだった。

かくしてその日はやってきた。下忍なりたてなのであろう彼が、仲間とじゃれ合いながら(じゃれ付かれながら?)歩いてくる。私は彼の前に躍り出た。お団子頭のあの子が私の存在に気付いたのか視線をこちらに向ける。うわぁお目目丸いチャイナ服かわいいとか、言いたいことはそっちにもあったけど私は彼にどんな言葉をかけるかで頭がいっぱいだった。会ったらなんて言おう、何を言おう。ずっとそればかり考えてはいた。実際に何を言うかは決めていなかった。
邪魔な通行人をすいっと彼が避けていく。長い髪がゆらりと揺れる。このままだと私も路傍の石のひとつだ。終わってしまう、ダメだ、なんも言ってない。そう思って、咄嗟にでてきた言葉は最悪だった。

「好きです、付き合ってください!」

いや、何言ってるんだ私は。頭を直角に曲げながら、血の気が引いていく。それでも勝手に動く口を止められなかったのは、長年抱え続けた欲望のせいだった。

「日向ネジさん!好きです!!」

怪訝そうに目の前で足が止まる。サンダルから覗く爪の先は土で少しだけ汚れていた。わぁ頑張ってて偉いなぁ、とお花畑さながら思考が逸れる。明らかに「変な女」として認識されただろう現実から少しでも目を逸らしたかった。
いやでもちょっと待って欲しい。私はNARUTOの世界に転生した。原作のNARUTOだったら「ない話」だけど仮にもしここが夢小説展開が少しでも許容されうる世界ならワンチャン、ワンチャンここから面白い女として交流が生まれたり、

「…悪いが、興味無い」

そんなことは無かった。あれ?もしかしてこれって多分アニメオリジナル展開さえ許されない。純度100%の原作日向ネジなんじゃない?確かにここで面白い女扱いで絆されて何かはじまるのはちょっと軽すぎて違うかも...って、思いはした。思いはしたけれども。

「…おかしい、絶対ここからなにか始まるはずだったのに」

さっさと通り過ぎていく背中は小さくも勇ましい。そうだよね日向ネジってそういう人だよねと頷きつつも、ここが仮に二次創作の世界ならこんな始まりどうなの、と私は少し不満を漏らした。



季節がひとつ巡った。その間、ご都合主義があれ以上起こることはなく私は好きな人とびっくりするほど顔を合わせることが出来なかった。多分変な女が居るということで私のいる道は避けられたに違いない。
ショックはなかった。冷静に考えなくても日向ネジはそういう男だと知っていたからだ。嘘、流石にあの晩は枕を涙でぐしょぐしょにした。でもこれが正しかったのだと思う。彼には色恋よりももっと大切なものがある。そう思うと、変にご都合主義が起きて私のために時間を裂かれる方がちょっとだけ怖かった。別に強がってない、強がっては。
かくしてこのご都合主義を生かして私がやった事といえば中忍試験本戦の観戦チケットの入手である。木ノ葉崩しが怖すぎて途中で帰ってしまったけれど、そりゃあリアル観戦が出来るならするに決まっている。
勿論見ていて楽しいものではなかった。ひどく号泣しながらの観戦になったし、直後の木ノ葉崩しで三代目が亡くなってしまった。分かっていてもただのモブには何かを変えることが出来るわけもなく。気分は4DXで映画を見ているだけの観客のままだ。そんな私があの日向ネジとこれ以上お近づきになるなんて、はっきりいって烏滸がましいにも程があるだろう。
なのに。

「お久しぶりです!!」

それでも好きな人を前にすると言ってることとやってることが変わってしまう。私のことなんてきっと忘れていたから通りがかったのだろう、彼の眉間に皺が寄る。そういうクールなくせに意外と感情が露骨に出るところも嫌いじゃないから、きっと私は質が悪い。

「そろそろ付き合う気になりませんか!?私と!!」

なんとなく彼の同期の熱さをイメージしながら私は無駄にドヤ顔を決める。いや、付き合うわけがない。でももう初対面の時から私は変な女なのだ。今更しおらしくするほうが逆に恥ずかしかった。
案の定、彼は私を素通りしていく。無反応。お姉さん流石に心が痛いよ。見た目は今は同じでも、享年はこれでも君よりずっと上なのだ。いや、そうなると私はショタを誑かしている悪い大人ってことになる。やめようやめよう、実年齢の話は。
ああ、でもちょっとでも姿を見ることが出来て良かった。きっと私はこの一瞬のために生きているに違いない。
緩む頬を抑えながら、道の掃除をしていたことを思い出して放り投げていた箒を手に取る。アンタキモいよ、と一部始終を見ていた家族に突っ込まれたけれど、私はこんな今でさえも幸せだった。


「……」

だって、好きな人が元気に生きているって、とても大切なことだから。
木ノ葉病院の受付の前で私はぼんやりと立ち尽くす。綱手様が五代目に就任したあたりから、ずっとこの時が来ることを予感していた。重症の下忍たちが運び込まれて里へ戻ってきた、という噂は一般人にも小さく小さく広まっていた。出過ぎたことは出来ない、私はただの傍観者だ。それでも、此処に来ずにはいられなかった。
金髪の可愛くて強いあの子がいる花屋に行くか迷って、そんな気分にもなれなくて花を摘んだ。今どきその辺で摘んできた花って逆に失礼なんじゃ、と思ったけれど、たまたま見かけたその花は私のお気に入りだ。お気に入り「だった」が正しい。ある時を境に私は大好きだったその花言葉が嫌いになってしまった。そんな複雑な感情を敢えて摘んできたのは、心の中で小さな決意が芽生え始めたからだった。

「すみません、これ、日向ネジさんに」

重症患者をほかの誰かを差し置いて見舞うなんて度胸は流石にない。受付に花を差し出す。額宛をつけていない一般人の私の申し出に首を傾げつつも、受付の女性はそれを受け取ってくれた。「かしこまりました。本人に伝えておきますのでお名前を伺えますか」。そう言って。名前。そういえば名乗っていない。伝えたところできっとピンと来ないだろう。困らせたいわけじゃない、だってこれはただの私の独り善がりだ。「ただのファンです」。だから、そう返した。
きっと彼は自分の誕生花なんて知らないし、まして花言葉なんて興味がないだろう。花の名前も分からなければ、差出人が誰かもわからないまま終わるに違いない。それでよかった。それでいいと、本能が理性に追いつこうとしていた。



忍になりたい、と言った。周囲の反応は「何を今更」に尽きた。突拍子もないことを言った自覚はあったけれど、それを押しのけて忍の勉強をはじめた。
ご都合主義の影響か、書かれていないだけなのか私と同じようにあとから忍になりたいという層はそれなりに居たようで、そういう人たち向けの専門学校があると知った。幸い私にも一般の下忍になれる程度のチャクラがあったらしく、入学試験はなんとか合格することが出来た。今更うちみたいな一般家庭から忍者になってどうするのよ、と家族は言う。まさか自殺志願者まがいのことを言うわけにもいかず、私は「好きな人と同じ職業になりたくて…」とギリギリの本心で場を濁した。
昼は家のこと、夜は学校。前世より下手をしたら忙しいかもしれない日々を過ごしているうちに二年が過ぎた。その間も彼のことは遠くから追いかけ続けた。上忍に就任したと聞いた時は意味もなくショートケーキを買って帰った。もう会えないかもしれない。会えないのはちょっと困るかも。そんな不安と焦燥の中を反復横跳びしながら日々を過ごしていた。

「お久しぶりです」

発した声は震え気味になってしまった。ちょっと前までまっすぐ見ることができたはずなのに、いつの間にか身長差が生まれている。相手は私を覚えているようで、少し目を怪訝そうに細めていた。素通りせずに立ち止まってくれるようになったところに上忍の余裕を感じてしまう。大人になったね〜って言いたい、いやその前に上忍おめでとうございますかな。迷って、そういえば私は変な女って設定で行くつもりだったと思い出す。久しぶりに引っ張り出してきたその設定を口に出すのは簡単だった。

「あれから私と付き合う気になりましたか?」
「…前から思っていたんだが」

わ、喋った。いや相手も人間だもの、喋るに決まっている。それでも会話が1ラリー成立したことに感動しながら私は「はい」と言葉を打ち返す。日向ネジが私を見ている。真っ白な瞳は昔クラスメイトに白目じゃんと詰られたけど、私からすれば綺麗な真珠の瞳だ。

「お前は名前も知らない男に突然告白されて付き合いたいと思うか?」
「いいえ、キモいと思います」
「それが答えだ」

なんてキモいことを考えていたら、暗に「お前キモいぞ」と言われてしまう。いや、分かる。実際キモいと思う。私は気持ち悪い。全然会ったこともない知り合い以下の存在、きっと彼の中の私への好感度は地を這い続けているに違いない。

「でも、それでいいと思います」

口に出した言葉は道化ではなく、私の「素」だった。変なことを言ってしまった、災いの元を手で抑えながら私はすぐ後ろの自宅へと引っ込む。店内を掃除していた母が、「何やっていたの」と怪訝そうに私を見てくる。「早く強くなりたくて」と色々と誤魔化す。まさか好きな人に自分は嫌われたままでいいと言ったなんて、そんな面倒なことは口が裂けても言えそうになかった。



卒業試験には無事に合格した。こんな私でも変わり身の術くらいはちゃんと使えるようになれたらしい。運動神経にはそこまで自信が無い人生だったけれども、最低限の「要件」をクリア出来たのは何よりだったと思う。それで稼げやしないくせに、という家族からの声には聞こえないふりをした。
スリーマンセルは同世代の男二人と一緒になった。二人とも彼女持ちというところが私の一番の幸運だっただろう。民間人の堅実な仕事ではなく忍者になってバチバチ目立ちたいそうだ。なんというか、付き合っている彼女が苦労しそうなタイプの男二人だと思う。最低限チームメイトとしてはうまくやって行けそうなのは確かだ。モブ同士の人間関係には私はすこぶる恵まれていると思う。

(もしかしてこのままモブとして埋もれちゃうのが私の幸せだったりして)

「家の中の任務をこなせ」という母からの命で店先を掃く。家族からすれば私が下忍になったというのも、Dランク任務に出るようになったというのも部活かバイトをやっている程度の認識でしかないのだろう。
そりゃあ、そうだ。
「彼ら」みたいに同い年で忍者をやっているタイプと、しがない町食堂の娘の私ではスタートラインがあまりに違いすぎる。母は今でも飽きたら家の仕事に戻ると考えているに違いない。

私も、私の幸せを思うならそっちのほうが間違いはないと思う。正しさと間違いの話だけをするならば。
でも「彼」の前ではそんな善悪の話なんて意味がないに等しくて。

ネジさん、と声をかける。名前で呼ぶとちょっと馴れ馴れしい気がしたけれど、声に出した以上は取り戻せない。
振り返った彼は少し神経の張りつめたような顔をしていた。私を目に留めた途端、「何だ、お前か」と呟く。「どうも私です」とお辞儀をした。背中にはあの柔道部が背負っていそうな鞄がある。きっとこの後も任務に行くのだろう。忙しかったかも。やっぱり話しかけたことを後悔した。
何か適当に挨拶をして解放してあげよう。そう思ったところで不意にネジさんの視線が私の額に向いていることに気づく。ああ、と思い当たったのは額宛だ。そういえば紛失が怖くて巻いてたんだった。「私そういえば忍になったんですよ」と白状する。微妙そうな顔をしたネジさんに内心で私は苦笑いする。多分ストーカーもここまで来たかと思われているんだろう。ストーカーらしく「これで戦争が始まったら一緒に戦えますね」と余計な言葉で私は恐怖を煽った。好かれたいのか嫌われたいのか、ホント、もうよくわからない。案の定ネジさんは不快そうに眉をひそめた。

「…道の往来で物騒なことを言うな」
「やだな、忍者でなくともみんな暁のことは存じてますから。案じて言ってるだけですよ」
「起こったとして、お前のような下忍は戦力にならん。任されたとして精々知り合いの奴らの避難誘導ぐらいだろう」
「そうでしょうねぇ、でも、そうもいかなくなるでしょう。ほら、【名前のある人】を守るためなら何が起こってもおかしくないでしょうし…」

たとえばあなたの大切な彼とか、彼女とか。そんな言葉を飲み込んで私は少しだけ下を向いた。駄目だ。笑っていなきゃ。彼はもしかしたらその目で私のことを見抜いてしまうかもしれない。見抜かれるほど、彼は私を知らないというのに。

「…戦争、起きなきゃいいですね」

全てを濁した私をどう思ったのか、彼は「そうだな」と肯いた。はじめて否定されなかった気がする。



あのマンガが好きだった。たまたま木曜の夕方にアニメを流していて、初めて見た時は血も出るし悲鳴も上がるし女の子は泣いているし口からヘビは出てくるしとにかく色々と怖かった。でもなんとなくその話の続きが気になって、きっと「面白い」と思って私は続きを頑張って見たのだと思う。
彼のどこが好きなの、と何度か友達に聞かれたことがある。私も実のところは分からなくて、うまく答えることが出来なかった。強いて言うなら多分すべてだ。私は彼の全部が好きなのだ。あの作品の見方の全部をいい意味でも悪い意味でも歪めてしまうほどに、私にとっては彼がすべてで、彼が第一だったのだ。

「やっぱりネジは天才だってばよ!」

彼と恋をしてみたいと思った。恋をすることを夢見た。私の夢が、願いが変わっていったのはいつからだっただろうか。

読み返したくなくて目を背け続けてきた光景が、まもなく迫ろうとしている。避難誘導の列を抜けてここまでたどり着いた足は震えていた。三代目が逝去した時やペインが襲来してきた時以上に、人の死と戦いの轟音はリアルに迫ってきていた。
飛来してくる凶器と化した樹木の先へ飛び込む。瞬間、襲ってきたのは「熱さ」だった。ああ刺さったんだなと気づいた時には私は地面に倒れこんでいて。

「おい、死ぬな、おい」

あなたの声が聞こえて、血の気を失って寒くなっていく私は、やっと少しだけ安心できた。
ああ、よかった。やっとまもれた。
きっとあなたはこういうのがすごく嫌いだって分かっていて、私はもう本当に嫌われることしかないんだろうなって分かってたんだけど。君が生きていれば、本当に私はそれだけで良かったんだよ。

「おい、死ぬな。説明しろ、どういうことなんだ。おい!」

土埃の匂いが、手先の感覚が遠くなる。暗くて何も見えない。彼が何か叫んでいる声だけが聞こえる。
そういえば、名前を呼ばれないままだった。名乗ってなかったっけ、と最期に気が付く。おい、とお前、じゃわかんない。ごめんなさい、忘れてました。

私の名前は、


「名前を入力してください」


「あの子ねぇ、あなたのことが好きだったみたいで。色々とご迷惑をおかけしたと思うんだけど、あの子は幸せだったと思うんです」

戦争は終わった。荒れ果てた里は、世界は少しずつ復興に向かって動いている。稀に通っていた商店街も建物は崩れてしまったが僅かに無事なところから補修工事をはじめ、少しずつ営業を再開したのだと言う。
告げられなかった名前は、女の母だという女性から簡単に知らされた。相当ご迷惑をおかけしたでしょう、と言われたところではじめてそうでもなかったと気が付いた。迷惑ではなかった。不可解だったというだけで。

「どうかあの子のことは忘れて幸せになって下さいね」と、女性は眉を下げて笑った。あの女と同じ取り繕った表情、しかし、そこには確かに娘を喪った悲しみがあった。勝手なことを。そう思った瞬間、反論の言葉が飛び出た。

「…そういうわけには参りません」

あいつには言ってやらないといけないことがある。
まず勝手にしてやられた分、これからはこっちが勝手にやるということ。無謀と偽善的な行為に本当に怒りを感じているということ。
まずは名乗れと脅しかけて、それから最後に言ってやるのだ。

最初で最後になる愛の言葉というものを。



END







back

- ナノ -