10.貴方が好きです

少しだけ、戸惑ってるの。

あれ以来、私は兄さんと目を合わせることが出来なくなってしまっていた。
「好き」って言われたことが、頭の中を回り続けて、何を言えばいいのか、どんな顔をしたらいいのかわからなくて。
…ネジ兄さんは、「返事はいつでも構いません。あなたが忘れたいのなら、それはそれで構わない」って言ってたけど…そういうわけにもいかない。

伝えなきゃいけないことがある。
でもそれを伝えるための少しばかりの勇気が、私には無くて。
それでも言わなきゃはじまらないから近づいて、やっぱり駄目だと引き下がる。
なんて意気地なしなんだろう、でも本当に、怖くて怖くてたまらない。

その特別な言葉を、誓いを、すべての罪を踏み倒して、声に出してしまうことが。

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「それは…結構、今更な話じゃねーの?」

里の行く先々に備え付けられているベンチ。
私の隣にキバ君とシノ君。
同じ班員同士、並んでベンチに座って話をしていたとき、キバ君に指摘された言葉がそれだった。

「大体、お前の罪ってなんだよ。ヒナタ」
「それは…私がネジ兄さんを苦しめる原因で…呪印だって…ヒザシおじさまのことも…」
「あのよぉ、ネジはそれを踏まえたうえで、お前のことが好きだって言ったんだろ?迷うことなんてあるのかよ」
「…キバの言うことも一理ある。ヒナタ、少し意固地になってはいないか」

…確かにそうかもしれない。
膝に置かれた手に、自然に力がこもった。

わかってる。
私は結局逃げてばかりなんだ。
過去とか、壁とか、身分とか、向き合ってるようでちゃんと向き合いきれていなくて。
そのままネジ兄さんに、想いを伝えていいの?
覚悟もちゃんと備わっていないのに、私。

「そんなもん、後でネジと一緒につけていけばいいだろ。あいつ、意外にへたれで短気だし、あいつだってそんな覚悟、あまり持ってねーと思うけど。
・・・それに、今ここで何も言わずにいたら、もう次はねーと思う」
「…ネジはヒナタの嫌がることは絶対にしない。ただ、それはあくまでもネジの主観に過ぎない。
ヒナタが嫌ではないと思っていたとしても、ネジは離れていくかもしれない。
…恋愛とはそういうものだ」

キバ君がその瞬間、「お前恋愛なんてしたことあんのかよ」と笑い出す。
でも、私はやっぱり笑うことなんて出来なかった。

──伝えられなかったら、終わり。

それがはっきりと私の頭に浮かんで、消えようとはしない。

きっと優しいネジ兄さんは、また昔と同じ私が望んでいる頼れるお兄さんになってくれるだろう。
でも、でも、そんなのは嫌。
伝えたい、伝えなきゃ──もう怖いなんて言ってられない。
そんなことよりももっと怖いことがあるって、やっと気づいたから。

「キバ君!シノ君!
わ、私…」

だから、私は走るの。
伝えに行くの。


「貴方が好きです」……と。


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イメージソングは「深海のリトルクライ」でした。
シノ君好き。あまり書いてないけど。
だらだらと続きましたが、お付き合いありがとうございました。

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