8.従兄弟どうし


ある日、オレはヒナタ様に買い物に誘われた。
「ちょっと買いたいものがあるんだけど…私にはよくわからなくて」
そう言われて来たのは小さな小物屋。
ヒナタ様はどうやらリングが欲しいようで、真剣にデザインと値段を見ていた。

「…ネジ兄さんはこっちとこっち…どっちが良いと思う?
この前から決められないままなの」

彼女が差し出したのは、淡い桃色の小さな石が付いたものと、深い蒼色の石が付いたもの。

「こっちのほうが良いんじゃないか?」オレが選んだのは淡い桃色の石の付いたもの。
もしかしたら誰かへの贈り物かもしれないが、「オレが彼女に渡すなら」を考えると、桃色のほうが似合うと思ったのからだ。
「そっか…じゃあこれにしようかな。
あ、あの…!すみません…」

店員を呼び、サイズを確認しようとしどろもどろに説明している。
それを横目に、オレはぼんやりと腕時計を見ていた。
しかし、不意にこんな言葉が耳に届き…思考は明瞭とした現実へ。

「彼氏からのプレゼントですか?
素敵なカップルですね」

耳に入った瞬間、思考が停止する。
素敵なカップル?誰が?オレとヒナタ様が?


「ばっ…馬鹿を言うな!
オレたちはただの従兄妹だ!」

気づけば、そう店員に向けて返してしまっていたこの言葉。
…言ってからすぐにしまったと思った。
ヒナタ様がみるみるうちに悲しそうな顔になっていったのが、視界に入ったからだ。

…オレは何を言えば良かったのだろうか。

ヒナタ様は好きだ。
しかし、それはヒナタ様には迷惑な思い。
だからただの従兄として振る舞ってるというのに。
その努力をどうして、あなたはいとも簡単に踏みにじってしまうのですか──…?

****

買い物を終え、気まずい雰囲気のまま道を歩く。
話すことは何もない。
間にある距離も、いつもより遠い。
不意に、ヒナタ様が目の前にある自分の陰を見つめながら、小さく呟いた。

「ネジ兄さん…今日はありがとう」
「いえ…」
「あのね…恥ずかしいけど聞いてくれるかな……?」
「…はい」
「私…店員さんに恋人って言われて…実は、すごく…すごく嬉しかったんだよ」

「そう思われちゃうくらい、ネジ兄さんと仲良くなれたんだって…」


嗚呼、努力を踏みにじっていたのは、本当はどっちだったのだろうか?
彼女は純粋にオレと仲良くなりたいと思っているのに。
オレは自分の身勝手な恋心で、彼女のそんな優しさを無碍にして…傷つけることしか出来ないのか。

「ヒナタ様」

心優しくて鈍い彼女は、「仲良くなりたくないんじゃないか、避けたほうがいいんじゃないか」と勘違いをするだろう。
どこまでも身勝手な男かもしれないが構わない、そんなのは嫌だ。だから。

「オレ、ヒナタ様が好きです」

目の前にいるヒナタ様が、すこしだけ眼を見開く。
その眼は、少しだけ潤んでいるように見えた。



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