6.綺麗な心


ヒナタ様は綺麗な人だと思う。
外面も確かに整っているが、それだけではない。
彼女は心が綺麗なのだ。
恐らく、この世界の誰よりも。

彼女は、この世界の汚さも、現実の厳しさも受け止めて、それでも強く立っていようとするのだ。
どんな茨の道であろうとも、彼女は歩みを止めない。
その、まっすぐで綺麗な白い瞳で、しっかりと前を見据えながら。

──だが、それがオレは心配なのだ。

オレよりも澄んだ優しい眼で全てを見つめている彼女。
子供が喧嘩をしているところを見れば悲しそうな眼をしていて。
誰かが笑えば穏やかに微笑んで。
オレにも優しく笑ってくれて。

…その彼女の瞳が、いつか曇るときが来るのではないか。

「運命」の一言で諦めることも出来ないほどの大きな壁に、もしも彼女がぶつかってしまったら──…そのとき、彼女はどんな瞳をするのだろうか!

荒れ果てた瓦礫が積み重なる腐臭漂う世界でも、彼女はまっすぐと立っていられるだろうか?
その眼は、何も変わることなく居られるのだろうか?
すべてを受け止めるように、まっすぐとしていられるのだろうか?

…いつ何が起こるかわからない世界だ。
彼女が望むように、オレが望むようにはいかない世界。
それがこの場所だ。
それがこの時代だ。

それでも、彼女は変わらずに綺麗な心のままで居られるのか…?



『否』




心の片隅で、誰かが小さくそう答えた。

…ああ、知っていたさ。
そんなことはよくわかっていた。
優しすぎるあの人は、その世界の瓦礫か何かを抱きしめて泣き崩れてしまうだろう。
戻れない日常の記憶の殻に閉じこもって、そのまま出てこなくなってしまうだろう。
人は、一人では強くなれないのだ。


「なら、お前が支えてやればいいじゃないか。
お前が彼女を阻む壁を取り去ればいい。
お前が彼女の痛みを飲み込めばいい。
お前が彼女を立たせてやればいい。
お前が彼女の涙を拭えばいい。
お前が彼女のそばに居続けて、守ればいい。
彼女の好きな世界も、人も、何もかも、それでお前も救われるのなら」


心の片隅で、また誰かがはっきりと強い語調で呼びかけた。

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Wind/Akeboshi

猫死んでからヒナタ様落ち込んだというのが背景。

失って「なんで何も出来なかった」って後悔する前に動けよ!っていう話。

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