「みんな言ってたよ。カナデさんとネジ兄さんの子どもはまだかー!って!」

 
 偶々宗家に用があってハナビ様にすれ違った際、そのようなことを一族が気にしているということを知り硬直した。ヒアシ様も「カナデ殿とはどうだ」と口にする。分家ごときのオレの夫婦関係を気にするとはどういうことだと考えたが、答えは冷静になって考えてみれば明白だった。皆、オレの血を引く子供がいかに日向の才に優れた者として生まれてくるかを気にしているのだ。嫡子に出来る子供でもないというのに。
 まあヒナタ様もいつ結婚するのかまだわからない。(思い人がいるのは一族羞恥のことだがいまだにあの二人に進展が見えない。)だから心配なのだろう。果たして日向は存続されるのか。それもまっとうな者に、と。

 しかしまさかこんなに早く、いやまさか急かされるとは思っていなかった。たかが一分家の者の世継ぎについて気にされるとは、考えが足りなかった。
 しかし現状どうこうするつもりはないし、出来ない。小づくり以前の問題から始まっているのだ、オレとカナデは。
 別に望んでいないというわけではない。むしろ望んでいるからこそあの提案をした。心がないと子作りなどしても意味がない。それに、カナデ自身がまだ、オレに触れられることを望んでいないのだから。
 
 (もう少し待ってはもらえないだろうか…)

 さっきヒアシ様に言われた話を思いだす。分家頭。分不相応、十分すぎる役柄をオレに与えてくださるというのだ。待てよ、そうかそういうことか。やっと話が頭の中でつながった。分家頭になるからこそ、分家の中での後継ぎを重視する必要が出てきたのだ。分家頭はちゃんと世継ぎを残す気があるのか、結婚してまだ間もないというのに一族はもはや目を光らせ始めている。

 (カナデ、)

 彼女に、説明するのはまだ早い。
 瞑想をしながら悩み続ける。全く瞑想に身が入らない。伝えるべきか、まだ保留にすべきか。そのことがずっと頭の内を占め続けている。カナデをあまり急かしたくない。彼女はまだオレとの過去に苦しんでいるのだから。しかしいざ急に背後から後継ぎを、と急かされ出した時のことを考えるとどちらがカナデのためになるのかがわからなくなる。
 ふいに何かが顔に触れたような気がして目を開くと、耳を赤くして走り去っていくカナデの姿が見えた。外出用にとカナデが用意した長いスカートが揺れて素足がわずかに見える。…ああ、もう少し早くに目を開くべきだったか。いや、それどころじゃない。今度はどうやら煩悩を払うために瞑想をする必要がありそうだ。

 (ああ、しかし)

 何はともあれこれはつまり「進歩」があったということなのだろう。まだ大丈夫なのかもしれない。これ以上急かして無理をさせなくても、きっとこのペースならいずれはどうにかなるだろう。そうだ、周りが何だというのだ。オレたちはオレたちなりのペースでやればいい。


 熱を出してカナデに「あんな寒いところで瞑想はもうやめてくださいね」とそっぽを向かれながら説かれるまであと一日。



 (趣味が瞑想だということをその日初めて知るのです)
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