まだ19歳になったばかりだというのに私に縁談がやってきた。

 「ふざけてる」

 それしか言えない。あまりにも突然すぎる話に、私自身どうしたらいいかわからなくて、思いつく感情なんてそれしかない。
 確かに木ノ葉…否、忍世界ではアカデミーを卒業した段階で大人扱いされる。つまり結婚だって許されるのだ。
 死という恐怖ばかりを抱いて戦う忍よりは愛する人がいる忍のほうが任務成功率は当然高い。だからむしろ結婚は奨励されている。
 でも、まさか私が選ばれるとは思わなかった。私の家は秘伝の忍術があるわけでもまして血継限界があるわけでもない。本当に対したことのない小さな家だ。そんな家の一人娘である私にそんな浮いた話がやってくるなんてあり得ない話だと思っていた。

 「どうしよう」

 お母さん曰く、縁談を申し込んできた相手は上忍らしい。基本的にこういった縁談は自分よりも高い地位、身分である法に従う形となる。私は中忍だ。相手は上忍。もうこの時点でアウト。断ることはありえない。
 私だってもう立派な大人だ。割り切ることは出来る。誰かと結婚して、それに尽くす。そういう仕事、任務を与えられたと思えばいいと思っている。…幸い、好きな人なんて「あの時から」もういないのだから。
 だけどやっぱりちょっと…ううん、結構不安だ。相手は優しい人だろうか、怖い人だろうか。どんな人なんだろう。どうせだったら少しはカッコいい人がいいし、年も近いほうがいい。実は知ってる友達が私のことを…なんて展開でもいい。なるべくなら、分かり合えそうな人。そういう人がいい。
 そんなことを悶々と考えながら私はついに見合いという名の結婚についての相談日を迎えたのだ。

 「消えたい…」

 実はもう、「上忍」と聞いただけで穏便な結婚生活はもうないと覚悟していた。まわりの友達にも上忍側しかいなかったから、知人の可能性も限りなく低いだろうと。
 上忍という奴らは頭がおかしいとよく聞いている。いや、よく知っている。私の担当上忍だった先生はかなりの変人だった。これはもう事実以外の何者でもない、変人だった。
 たまにまともなことを言うことだってあったし、無駄にかっこいい時だってあったけれど…やっぱり変人には変わりは無かった。
 何が変だったかって、ご趣味か素晴らしかった。道端にいるカエルを捕まえて解剖し始めたりするんだもん。奥さんいるのに遊郭潜入任務では普通に女郎と素で愉しんでたし(あ、これは変とかじゃなくて只の最低男か)…よく集合時間に遅れてきたし、日常においては良いところなんてない人だったっけ。
 なんとなく嫌な予感がするんだよね。そういう人を身近に見てきたものだから。なんとなく今日現れる上忍も変人のような気がする。第六感がそう言ってるもん。

 きれいな着物を着せられることは夢だったけど流石に今回は溜め息しか出ない、嬉しくない。
 もう逃げちゃおうかな。別に嫁が飛び出したって進行に支障はないよね。本人がいなくたってどうせ縁談は進むよね。そんなバカげたあり得ないことを思いながらちらりと縁側の向こうにある垣根に目をやる。大丈夫、こうやってチャクラを足に集中させて……。

 「今だ!!」
 「縁談を申し込んだ者だが」

 出鼻をくじかれ私はそのままバランスを崩して畳に頭をぶつけた。聞き覚えのある声。遠い昔を最後に、聞くことはなくなった声。聞くことをやめた、聞くことを避けたあの声。

 「話したことはあまり無かったな」

 凛とした綺麗な声に、私は顔を上げられなかった。

 「日向 ネジだ。貴女を我が妻にしたく本日は参った」
 (お前のような堕ちこぼれ等、相手にする暇はない)


 ドクンと、胸が嫌な意味で高鳴った。


 (思い出したくない)
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