『勝って嬉しい花一匁』

『負けて悔しい花一匁』

『隣のおばちゃんちょっと来ておくれ』

『鬼が怖くて行かれません』

『座布団かぶってちょっと来ておくれ』

『座布団びりびり行かれません』

『煙突かぶってちょっと来ておくれ』

『煙突もくもく行かれません』

『あの子が欲しい』

『あの子じゃ分からん』

『その子が欲しい』

『その子じゃ分からん』

『相談しましょ』

『そうしましょ』





懐かしい故郷での風景。
枯れた草花と砂が目立つ荒れた地で、何故か花一匁をやっているおれ達。
“おれ”
“惺”
“三人目”
三人で花一匁なんて出来ないよ。どうしようか、最低でも四人は欲しいよね。なんて話をするが、おれ達は何時も三人。こんなに荒れた時期に、直ぐに信用出来る友人など出来るはずがない。
すると、“惺”と“三人目”はおれから離れて行く。
そして、
不敵な笑みで。
おれを見下した。



『こっちの方では“   ”ちゃんが欲しい』



男の唇が、囁いた。











プトレマイオス内に嫌な雰囲気が充満していた。それはブリーフィングルームに集まっていたスメラギと五人のガンダムマイスターも気付いていた。
「…あいつらが米軍の基地を襲ったって?」
ロックオンがスメラギに訊いた。その科白に惺は眉を顰める。
あいつら――トリニティ達のことである。そして奇襲された米軍基地は、
「…グラハム…」
彼がいたのかも知れない。
静かに囁いた名前は、誰にも気付かれる事も無く空気へと消えた。
ピリピリとした雰囲気は止まない。眉間に皺を寄せながら唸る一同。惺は正直そのような雰囲気が好きではなかった。

MSWAD基地が強襲されたというニュースは、怪我から復活したばかりの彼女の心を不安定にさせるのに十分過ぎた。
(…無事、なのか…?)
金髪の爽やかな笑みが脳裏に過った。彼とは“例の事件”以来会っていない。否、会えない。会えるはずがない。
ロックオンや他のマイスター達には、あの事件の発端がグラハムであるとは言っていない。ただ、「スメラギさんのお使いの途中でクロロホルムを嗅がされて、気が付いたら大変な事になっていた」とだけ告げた。
本当の事を告げてしまっても良かったのだが、一度「敵に正体を晒したのか!」と怒られた手前、「実は内緒で会っていました」なんてカミングアウト出来なかった。
敵であることを了承済みで交流を続けていたのは自分だ。
故にグラハムだけが責められるのもお門違い。惺はそう考えている。
彼も“惺”と同じだったのだ。
素直に愛を囁く事を許されなかった。その末の行動だった。
惺にはその気持ちが痛い程に分かる。
だから彼を憎みも恨みもしない。
「惺、」
ロックオンの鋭い声が惺の思考を切り裂いた。
惺の心臓は一瞬だけ跳ねた。彼は、どうして自分の名を呼んだのか。集中していない事を責めていたのか、はたまた敵の無事を心配していたことがばれたのか。
「悪かった」と言う代わりに右手を軽く上げて目を閉じた。
今度こそ真面目に聞こう、と聴覚だけに集中。
「…目的は?」
「不明よ。ヴェーダにも情報は来てないみたいね」
「勝手なことを」
「おーおー、俺らへの風当たりが強くなるようなことしてくれちゃって」
惺は静かに頭を傾げた。
トリニティ兄妹は、一体何を考えているのだろうか。何の為に、ガンダムに乗っているのだろうか。
ただ、そんな疑問が浮かんでは消える。

「…マイスターなのか?」

不意に落とされた科白に、惺を含め、一同が刹那に振り返る。
スメラギ、ロックオン、アレルヤは驚いたような顔をしていた。
惺とティエリアは流石と言うべきか。
刹那は、驚く皆を余所に、再び先程の科白を口にした。

「トリニティは――奴らは本当にガンダムマイスターなのか?」

しかし、求めていた答えは誰からも返ってこない。
彷徨う瞳。刹那の納得出来る答えなど誰もが持ち得ていない。
顔を見合わせたその時、
「…なあ、刹那」
凛とした声が響いて一同の鼓膜を通り抜ける。
刹那に向けられていた視線が、その声の主である惺に集まった。
意外な人物の声に、先程まで漂っていたピリピリとした空気は無に帰す。
ただ、彼女の声だけが、この空間の支配者。


「マイスターか否か、おれ達が見極めるんだ」


その言葉は、彼女にしては意外すぎる言葉だった。
「惺…、」
刹那が、更に訊ねようと開いた唇は、「刹那」と言う彼女の声で遮られた。
きっと、彼女には全てお見通しなのだ、と、刹那は思った。
惺は珍しく、ポーカーフェイスを崩し、「ふっ」と鼻で笑った。

「きっと大丈夫だ。」

その言葉は、じわり、と刹那の心臓に染みた。




2011.08.20
2013.01.16修正



- 73 -


[*前] | [次#]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -