何か、凄く不思議な夢を見た。


目の前は惺の故郷。
荒れた野に俺は立っていた。
しかし“俺は”と言うには、少々語弊があるかも知れない。今の俺はロックオン・ストラトスではなく誰か別の女性だった。
十代半ばだろうか。腰まで届く緩やかなウェーブがかかった金髪。
身体が勝手に動く。喋る事も出来ない。
身体はゆっくりとあるポイントまで歩いた。大きな枯れ木の隣。
そこには、何かの基地でもあるのだろうか、入り口のようなものがあった。周りを確認しながら恐る恐る入る。
すると、広い空間に出た。

既にそこに居た人物達の視線を一斉に浴びる俺。ぞわ、と、嫌な感覚が走る。何か嫌な予感がする。
『遅いぞ、惺。約束より一時間遅刻だ』
『…すみません』
俺の唇は勝手に言葉を紡いだ。
そして、その男の科白で、この女性は“夏端月惺”だと気が付いた。だとすれば、きっと此処は革新派の集会所なのだろう。
男達は、俺が座るのを見届けると、会話を再開した。
『…保守派の総長なんかより厄介なのは娘だ』
『あの若さで戦いの才能を開花させた』
うんうん、と周りも頷く。保守派の総長の娘、とは、言わずもがな現在の惺・夏端月の事だろう。彼女が保守派だったのは知っている。長の娘だった事も、本人から直接聞いた。
俺は、自由に動かない身体で、じっと会話に耳を澄ます。
すると、ある男が此方を向いた。
鋭い眼差しで、射抜くかのように。

『…――彼奴は、必ず、殺せ。』
『親父諸共、な』
『出来るな、惺――…?』

残酷な、科白が降り注いだ。
『わ、たし……っ』
唇からは情けなく、言葉にすらならない声が出てくる。
その刹那、ジワリと胸の奥底からある思いが沸き上がる。
(私には、出来ない。)
『まさか情が移ったのか、』
『……っ、いえ、』
(情が移った、なんて)
『ならば殺せ、お前にしか、できないのだよ』
(あの子を、愛しているのに、)
『わ、私は――――…』





(あの子を傷付けるくらいなら、私は命なんか、要らないわ。)







刹那、場面は変わって、俺は真っ白な空間に――…

何が何だか分からなくて、ただその場に立ち尽くしていた。
さっき見たものは、何だったのだろうか。
凄く、切ない光景だった。
愛しさの狭間で揺れ動く、切ない想い。
(あれは、きっと…)
その刹那、俺の前に現れた漆黒と紺碧。
その二色に、惹かれるように近付く。
惺の色。俺の、大好きな色。
その漆黒と紺碧は重なりあって、その混じり合った部分から、まるでイリュージョンのように先程の女性が現れた。
『“夏端月惺”…っ』
唇からは勝手に言葉が出てきた。
『…――ロックオン・ストラトス、』
紺碧が、俺を突き刺す。
睨み付ける。

『…――貴方に、惺・夏端月を、幸せに出来るの――…?』

俺の愛しい女性が、全力で愛した人間は、俺を問い詰めた。
紺碧の瞳。その瞳から放たれる鋭利な光が、物凄く怖い。
彼女は怒っているように見えた。
“夏端月惺”はきっと惺・夏端月を愛しているのだ。身体朽ち果てて全てを失ってもなお、こうして俺の夢にまで現れてしまう程に、愛しているのだ。
彼女は俺を睨み付けた。
『あの子を愛するならば、命を捨てる覚悟が必要よ』
命を捨てる覚悟、か。
彼女は、惺の父親は手にかけることが出来た、だが、惺は出来なかった。だから、自らあの道を選んだのだ、と。
愛が在ったからこそ、愛していたからこそ、愛する惺からの銃弾を受け止める決意をしたのだと。
でも、
それは少し違う気がする。
だって、命を捨てて、惺が喜ぶのか?
これ以上、彼女を悲しませたくないのならば、答えはひとつしかないだろう?
『あの子の傷は深い。そんなあの子を幸せに出来るの?命懸けで愛せるの?』
彼女が訊ねる。真っ直ぐで鋭利な紺碧を携えて。
『俺は………、』
微笑んで、



『ヤだね。』



『俺は死なない。彼女を――惺を――独りにしないと、決めたんだ』
彼女が、もう、独りぼっちに成らないように。
その柔らかな笑顔を失わないように。
もう、独りで傷付き悲しまないように。
世界の変革を望んだと同時に願ったはずだから。

争いの無い世界で、彼女が幸せに笑っていたら――…
そしてその横に立っているのが、自分であったら――…


“夏端月惺”は笑った。



『あの子が、貴方を選んだ理由が、分かった気がするわ――…』



俺も、笑った。







「……ん、」
奇妙な夢から目が覚めた。
目の前には、激しい情事で疲れ果てて眠っている惺の顔。
やっと両想いになれて嬉しかった俺は、沸き上がる彼女への想いを自制出来ずに、ただ彼女へぶちまけた。しかし、彼女はそんな俺の愛を全て受け止めて見せた。
(可愛かったなぁ…)
俺は彼女を起こさないように、静かに瞼にキスを落とした。
きっと、惺以上に好きになる女性なんて、この先現れない。
最初で最後の女性なんだ。
「…惺…」
小さく囁く。彼女は起きない。
俺の腕の中で、すやすや、と眠る彼女。こんな穏やかな惺は初めて見たかも知れない。

「お前が嫌だって言っても、離れるつもりは無いからな。」

俺は、再びキスを落とすと、
静かに瞼を閉じた。




2011.07.26
2013.01.14修正



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