携帯端末に匿名で連絡が入った時の焦りは、今でも鮮明に覚えている。
惺の携帯端末から発信されたそれ。“sound only”の表示に冷や汗が止まらなかった。
『…――惺・夏端月を預かっています。彼女の故郷にある、彼女のよく行っていた丘に来てください。医療班も連れて来た方が良いです。応急措置は施しましたがこのままでは手遅れになるかも知れません』
やけに澄んだ声だった。
その声に、弾かれたかのように丘に向かう。彼女の故郷にはソレスタルビーイングが武力介入を開始する前に何度か訪れた事があった。だから、彼女のよく行く丘だって、直ぐに分かった。
ミス・スメラギに素早く報告し、急いでデュナメスに乗り込んだ。
怖くて怖くて仕方無かった。
手遅れに、なる前に。
早く彼女を。

丘に着いた俺は、傷付いた彼女を抱き上げ、急いで王留美の隠れ家へと向かった。医療班は既に着いている。早く、彼女を診てもらわなければ。
(どうか、無事で…っ!!!)
冷たい身体。
伏せられた瞼。
綺麗に見えたその光景は、俺の心臓に物凄い恐怖を植え付けた。
(死ぬな…っ!!!惺…っ!!!)

生きて。
また、お前に「愛している」と言わせてくれ。





あの時の恐怖は、出来るならば、もう二度と味わいたくない。












「…―――関係無い事、考えるな…っ!!おれだけを見て…っ!!」

俺の回想は、惺の可愛らしい科白で中断せざるをえなかった。
なに、今の科白。俺を殺す気なのか。
ゆっくりと彼女に覆い被さる。これで何回目だろうか。
彼女の胸元には俺が咲かせた赤い花が咲き乱れている。何処か扇情的なそれは、視界に入っただけで全身を熱くさせる。
逸そ、その熱で溶けてしまえばいいのに。
そうすれば彼女とひとつになって、悲しみも喜びも全て共有出来るのに。
「…は…っ、惺…っ」
営みの最中にも関わらず、そんな事を色々考えてしまう。先程注意されたばかりなのにな。だけど、そこまで俺を狂わせる惺にも罪はあると思う。
「……んっ、ロックオ…!!」
必死で俺の名を呼ぶ彼女が、単純に愛しい。
彼女の身体がびくりと跳ねる。
俺の指先ひとつでこんなにも乱れる。誰も見た事の無い惺。俺だけが知っている惺。
「やめ…っ、激し…っ!」
生理的な涙に埋もれた惺。その姿に妙にソソられて、身体中を幾度目かの熱が駆け巡った。
(ああ…っ、可愛い。)
焦らしてもっと堪能したい。けど、早く繋がって熱を解放したい気もする。
もう既に何回か絶頂を迎えた惺は、随分と前から苦しげに俺に縋り付いている。正直、俺もきつい。何度白濁を吐き出しても、止まる事を知らない。自分の雄に秘められたパワーが此れ程とは思わなかった。恐ろしいな。
でも、こんなに可愛くしがみ付いている惺を目の前に、我慢している方が失礼ってもんさ。なあ、惺。
「は…っ、ロックオン…っ」
彼女の、熱を孕んだ瞳が快感を訴える。
早く、早く、と。
ぎゅっと、腕を掴まれる。
渇望していた惺が、俺の下で善がっているなんて、まだ夢のようにも思う。
愛する惺が、俺だけを求めて、俺だけを愛してくれているんだ。
幸せ過ぎて、怖い。
「、惺…っ、愛してるよ…っ、」
激しく打ち付ければ、彼女は更に俺にしがみ付く。求められているその感覚が、何とも言えない優越感を生み出す。今まで惺に振り回されて来た分、ここで挽回したいところだ。
涙目の惺に口付ける。
その瞳が、
「癖に、なりそ…っ」
思わず呟いた。
刹那、「ロックオン…っ、!」と、切ない声。
「惺…っ、!」
俺も彼女を呼ぶ。此方も余裕が無くなってきた。
卑猥な音が耳までも犯す。
もう、そろそろ限界だ、と意識の端っこで思った。
「ロックオン…っ!おれ、もう…っ!」
惺が縋る。
その愛しい瞳に、
「ああ…っ!いけよ…っ!!!」
「……っ、!!!」

もっと、深く、深く。
繋がりたい。
そして、俺を受け入れてくれ。

その純粋で無垢な欲望を、彼女の中に放つ。
言葉に成らない程の快感。
ジワリジワリ、と身体を支配する痺れに、
全てが、真っ白に、なった。









――心臓が、止まるかと思った。

おれは、情事後特有のだるさの中で目覚めた。
一番最初に視界に飛び込んできたロックオンの寝顔に、一人でびっくりして一人で照れる。
全て、夢じゃなくて良かった、と、うっすらと思った。
「ロックオン…」
未だに眠る彼の前髪を掻き分ける。衣服を纏っていないせいで、彼の白い肌とがっしりした身体が見え隠れする。
その身体に抱かれていたかと思うと、今更ながら少し恥ずかしい。
「ロックオン…」
再び囁いた。
その声に乗って、今までの彼との記憶が甦る。
あの頃は、再び人を信じることなど、絶対に無いと思っていた。
再び人を愛することなど、絶対に無いと思っていた。
“夏端月惺”が、おれの全てだった。
ゆっくりと彼の髪を撫でる。
指に絡めるように掬う。
何時の間にか、ロックオン・ストラトスが、彼女と同じくらい、若しくはそれ以上、愛しく感じていた。
命の危険を孕むソレスタルビーイングのガンダムマイスター。
世界の変革に命を懸けるソレスタルビーイングのガンダムマイスター。
そんなおれ達が、一人の人間に心奪われるなんて。
思いもしなかったな。
なあ、ロックオン。お前はこれを聞いて笑うだろうか。
おれは、この幸せが無くなった時の代償が、怖くて仕方無いんだ。
“惺”の時のように、ある日プツリと無くなりそうで、怖いんだ。

「…――惺、」

不意に、ロックオンが、瞳を開いた。
「あ、ごめん、起こし…」
「…大丈夫。ずっと傍にいるから」
そう囁いて手をおれの頬に滑らせる。
どうして、彼は、何も言わなくても全て分かってしまうのだろうか。
ロックオンの手に自らの手を重ね合わせ、ゆっくりと目を閉じる。
「本当に…?」
「ああ。」
そうして、おれの不安を悉くブチ壊していく。
その科白に確かな保証はない。だが、彼の言葉は魔法が掛かったかのように、おれの心臓に静かに染み渡る。
“絶対”なんて信じていない。だけど、彼の紡ぐ言葉は唯一の“絶対”である気がした。
ゆっくりと見上げる。
ロックオンの瞳と出会った。その瞳に映し出されている自分の表情が、今までに見たこともない表情をしていたから。
きっと、ロックオンに染められたんだ―――そう、思った。

彼は、そんなおれの心境に気付いているのか否か、ゆっくりと微笑んだ。



「惺、愛してるよ」



そうして、魔法の言葉でおれを縛るんだ。


ロックオンは再び微笑んだ。
おれも、思わずつられて微笑むと、



「ごめん、惺」

「え?」

「我慢、出来ねー…っ」

「ちょっ、ロックオ…っ!!」




おれ達は、再び激しい熱に包まれた。




2011.07.15
2013.01.14修正



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