「おい!惺!」

ティエリアと別れたおれは、自分の名を呼ぶ少々乱暴な声で立ち止まった。
振り向かなくても分かる。久しぶりに会うアイツだ。
「何か用か、ハレルヤ」
「相変わらず無愛想だな。用がなけりゃ話しちゃいけねーのか?」
ついさっきも、そんな科白を言われた――ミハエル・トリニティだ。彼を思い出して眉間に皺を刻んだ。
ハレルヤは絶対おれの嫌がる反応を見て楽しんでいる。
「その顔は失礼だろ。そんなに俺が嫌いか」
「お前の科白で嫌な奴を思い出した」
吐き捨てるように返した。おれの言葉を聞いたハレルヤはニヤリと笑った。ほら、やっぱり楽しんでいる。これは悪い事を考えている顔だ。
「ミハエル・トリニティだな」
「……………………。」
無言のおれ。対して笑みを深くするハレルヤ。
彼と会う時は何時もバトルになる。ただし、口論とかではなく、手が出る方のバトルである。
一方的なストレス発散に付き合わされ、アレルヤから頭を下げられた事も多々ある。武力を行使する事に抵抗があったが、口だけのバトルのこれもこれできついものがある。
ハレルヤは全て見透かしたようにニヤニヤ笑っている。
「アレルヤと一緒に見てたぜー?お前、変なのに好かれるなあ」
「全くもって同感だ」
まだ笑みを絶やさないハレルヤに「はぁ」と溜め息。彼は嫌いじゃないんだが今は会いたくなかった、かも。ミハエル・トリニティのやり取りの直ぐ後と言うのがきつい。疲労感が倍増だ。
すると、ハレルヤはそんなおれに気付いたのか、真面目な顔で話し掛ける。
「お前がそこまでなるなんて…余程疲れてんだな」
「ごめん」
「なんで謝るんだよ」
ハレルヤは頭をガシガシ掻いて「調子狂うな」と呟いた。
「いつものお前はどうした。そんなんで疲れてちゃやってけねーだろ」
「そーだな…」
ハレルヤはきっとおれに突っ掛かってくるのを期待しているのだろう。だけど今は彼の期待に応えられる気がしない。つまらない科白を吐き出すおれ。
ハレルヤに思いっきり睨まれた。
(おれは何も悪くないっつーの…)
そんな事を考えていたら今度は頭をスコーンと叩かれた。
「いったぁ…」
「何だあ、その態度は。俺がせっかく元気付けてやってんのに」
ハレルヤは溜め息をついた。
おれは頭を擦った。
ハレルヤの奴、結構力入れて殴りやがった。
む、と背の高い彼を睨み上げると、「ったく、」と言う声。
そして、
ぎゅう、と抱き締められた。
意外なハレルヤの行動に、おれは目をぱちくりさせながら彼の瞳を見詰めた。睨む事なんかぶっ飛んでしまった。
温もりが包む。
先程のティエリアとは違う。
ぎこちなく、でも力強く。
「ハレルヤ…お前…どうし」
「うるせぇな。なんだかこうしたかったんだよ!少し付き合え!」
強引な科白が降り注ぐ。ハレルヤなりの照れ隠しとして捉えることにした。
そして彼の言う通り、少しの間、そのまま温かさに抱かれていた。
厚い胸板に抱かれ、窒息しそうな程に苦しい。おれが苦しむのにも気付かずに、ただぎゅうぎゅうと。
普段は抱擁など絶対にしないハレルヤが、今日に限ってこんな事した理由は、おれが余りにも疲れ果てていたからなのかも知れない。ポーカーフェイスが得意なおれは、感情を隠すことに自信があったから油断してたんだ。ハレルヤに気付かれてしまう程にボロが出ていたんだな。
(あー…もう、ハレルヤにまで心配させるなんて…)
が、ハレルヤはそんなおれに感付いたのか、抱き締めたままおれを見下ろして言った。
「疲れてるのに隠すのはもっと駄目だ。疲れを溜めたら元気なんて出るわけねぇだろうが」
「珍しいな、お前がそんな事を言うなんて」
ハレルヤはたまに、妙なところでグサッとくる科白を言う。
おれの焦燥が、指先に伝わって震え出す。きっとこれも全て伝わっているんだろうな。
「こんな時だから言うけどよ、…お前は…自分が思っている以上に周りを元気付けて周りから必要とされているんだ」
「…そう、かな…」
妙に渇いた声が出た。
ハレルヤは意地悪く笑う。
「だから、お前が元気無いときは…俺様が……………」
最後まで科白が紡がれることは無かった。が、ハレルヤが何を言いたいのか十分理解できた。
おれは、そのハレルヤの科白で、やっと元気が出た気がした。
「ありがとう。ハレルヤ」
「うっせー、ただの気まぐれだ」
おれは微笑んだ。

知ってるよ。
おれがバグが好きだって分かってて抱き締めてくれたんだろ。
慣れない科白も、寡黙で人付き合いが苦手なおれの為に紡いでくれたこと。


「ありがとう、ハレルヤ」


再び告げた。
ハレルヤだけではない。
皆には、きっと、声が枯れてしまうくらい感謝を述べても、足りない。


「……早く元気出して俺様を構え、ばかやろー」

「うん。」




2011.05.02
2013.01.10修正



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