戦闘開始から十三時間が経過。
私――グラハム・エーカーは上位大尉をはじめとするオーバーフラッグス隊は、空母の甲板に並べられた各愛機に搭乗して出撃命令を待っていた。
ユニオンフラッグカスタムのコックピットシートに深く腰掛け、ゆるく指を組む。
(いよいよ出撃だ)
遠足の前日の園児のように。
眠れない程に焦がれる。
もう直ぐに、欲して止まないガンダムと見[まみ]える。そしてその奥には、惺・夏端月の姿があって欲しい。
心臓が苦しい。早く会いたい。
が、しかし同時に苦い気持ちも襲いかかる。
(…卑怯者と罵られるかもしれない)
ガンダム五機に対して、三国家群は八百三十二機のモビルスーツを投入した。
(集団リンチよりも、質が悪い)
疲れ果てたところを捕獲する。
今回の作戦に乗り気ではなかった。
(だが、)

「…惺、」

愛しい名を囁く。
その嘘つきの瞳に。全てを奪われた。
ポーカーフェイスの下に隠れている本当の彼女を見付けた時、私の愛しさは爆ぜた。
敵ながらに、美しいと。
外見ではない。勿論、外見も美しいが。
彼女の生き方が、悲しい程に美しい、と。
殺人者であり、テロリストであり、嘘つき。
彼女の罪は多い。
だが、そんなものなんかどうでも良い。

一番重いのは、

私の心を奪った、泥棒であると言うこと。

「…障害がある程、燃えるものだな」
私は呟いた。
思い出すのは彼女の泣き顔だった。
こんな私を、責めたって構わない。
君をソレスタルビーイングから引き離して見せる。
そうすれば、
君は傷付く事など、きっと無いのに。

「オーバーフラッグス隊、ミッションを開始する。グラハム・エーカー、出るぞ!」







戦闘開始から十五時間。それは起こった。

『…な、なんだ?砲撃が、止んだ…』
刹那の声が聞こえた。
敵方は、スメラギさんの戦況予測どおり、ガンダムの鹵獲行動に乗り出そうとしている。
『プランX…離脱する』
『りょ、了解』
「…………………」
上から、ティエリア、刹那、おれ。それぞれ交わされる言葉。
長時間の怒濤の攻撃は流石に堪えた。声を出すのすら面倒臭い。
おれは一旦ヘルメットを取り、額に滲んだ汗を拭った。
(おれの予測では、まだ終わらない)
おれなら、終わらせない。
敵方もそれ程馬鹿では無いはずだ。
「来るなら来い」
『惺…?』
ティエリアは、おれが予測している事態に気付いたらしい。
『まさか…ガンダム全機体を同時に鹵獲する程の予備戦力をまだ残していたというのか…!』
回線を通して聞こえる絶望。
おれは操縦桿を握り直した。

「…どうやら、シャワーを浴びれるのはまだらしいな。」

抑揚の無い、自分の声が、虚しいくらい、コックピットに谺した。



2011.04.24
2013.01.07修正



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