何がなんだか解らなかった。
まるで、広くて何も無い海にポカンと独り浮かんでいるような感覚だった。
眩しい日射しが、おれを容赦無く照り付ける。明るすぎる太陽は、影を強くしておれの犯した罪に対する罪悪感を増幅させた。
何度許しを請うても、許されないこの両手。
海水に両手を浸けても、その隅々に染み付いた血液は落ちてはくれない。
異臭を放つ。
私を、僕を、私達を、僕達を、
殺したのはお前だ、と。
頭がぼーっとする。考えたくない。だけど、海の中から這い上がってくる何かがおれをそうさせてはくれない。足が絡め取られる。
「苦しめ」
そう呟いて、太陽と共におれを責め立てる。逃げられなかった。
おれは波に身を任せた。
無表情とか、平常心とか、身体中に貼り付けて何もなく振る舞うのが、つらい。
もう何もかも投げ出して海に沈みたくなった。眠るように息絶えて、苦しみから逃げたかった。
これから登場を控えているであろう夥しい程の彼女――夏端月惺のクローン。直視するなんて、到底出来ない。目を向けられない。合わせられない。
おれに、再び、彼女を殺められるのか。
失ったはずの“   ”が躯に帰ってくる。捨てたはずの“   ”が愛を求めて暴れ狂う。
惺・夏端月という存在は薄っぺらなもので、僅かな衝撃で穴が空く。

本当は、醜いくらい弱い。




『…―――惺・夏端月』

不意に、声が聞こえた。
ロックオン・ストラトスの声が。
あの日の会話が、甦る。

『…―――同情なんかじゃない』

『お前が、愛しいと思ったから…抱き締めたくなったんだ』

『頑張ったな、惺』


(ああ、)
海底に沈んだ。
そう、おれはおれで、彼女は“彼女”ではない彼女。
自問自答、答えはもう既に出ていた。
おれは彼女以外に大切にしたいものを見付けてしまった。何時の間にか其処にあった。
“   ”の大切なものは、大切な人は、戻らない。
だけど、惺・夏端月の大切なものは、大切な人は、まだ、守り抜ける。

此処に、居る。






『…―――ずっと、傍に居るよ。』








おれは、まだ、頑張れる。







2011.2.7
2012.12.21修正



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