ロックオンは接近し続ける敵輸送艦を捉えていた。しかし、あまりにも接近速度が速い。
前で待機しているベリアルを見据える。
(惺は感じているのか?この違和感を…)
オーバーホールを終えて自由に動けるのは、この場ではベリアルしかない。
どうしても彼女に頼ってしまう事になる。
しかし、嫌な予感が消えない。彼女の様子がおかしいと思うのは俺だけだろうか。
先程のミス・スメラギの合図にも、僅かに遅れて攻撃を開始したベリアル。何時もなら、自ら率先して戦いに行く事はあれども、出遅れるなんてミスはしない。
(…?)
俺は再び敵艦を見た。
その時、漸く気付いた。
(こいつは――無人船による特攻じゃないか!)
「やらせるか!」
ロックオンは叫んだ。
回線を繋ぎ、惺に合図する。
「惺!あれだ!」
『………っ!』
しかし、惺はビクンと肩を揺らすだけだった。
俺は思わず声を荒げる。
「惺!!」
『……っ!分かってる!!』
惺が強気に返すが、その指はトリガーにかけたまま、一向に動かない。
『…………っ!!』
「もういい!俺がやる!」
何時まで経っても動かない惺に苛々し、俺は無人船に向けてGNミサイルを放った。
(どうして、動かないんだ…!!)
この緊急事態に。惺は死にたいのか。
俺の放ったGNミサイルは弧を描いて次々と接近する敵輸送艦の装甲を貫く。
そして爆発し、宇宙空間に破片が飛び散る。それが大量にプトレマイオスに襲い掛かった。
『GNフィールド再展開!』
ミス・スメラギの指示が聞こえる。
惺は、大丈夫か。
俺は再び彼女を確認する。
「……惺…?」
問うた先に見えたのは、身体を震わせ、必死にトリガーを引こうとしている彼女の姿。

『大丈夫。おれは強い。おれは強い。おれは強い…っ』

自己暗示のように、唇がその言葉を呟く。
(俺は、)
途端に罪悪感に包まれた。
俺は、また彼女を独りにしていたんだ。
(まだ、完全に立ち直っていないのに…)
彼女は、無理をしていたのだ。
「惺…!」
叫んでも、俺の声は届かない。

ただ、
『おれは強い』
と言う言葉が、戦場に気持ち悪い程に、響いた。







『敵モビルスーツ部隊を確認した!』
ロックオンの声が響き渡った。おれは泣きたくなった。
(震えが…っ)
止まらない。
接近するティエレン宇宙型をガンダムベリアルのコックピットから捉えた。刹那がガンダムエクシアで敵を切り裂いている。
『輸送艦の後方にモビルスーツ隊が隠れて…っ』
確認する限り敵総数は三十六機。
おれは震える手を握りしめ、操縦桿を掴んだ。
(怖くない…怖くない…)
「……おれは…っ、強い…っ、」
でも、動けない。
(動けよ…っ!)
つぅと冷や汗が滴る。
どうしても、あの日と重ね合わせてしまう。
(誰か――…おれを――…)

ぐちゃぐちゃに壊して。

その刹那、コックピット内に回線を通して声が聞こえた。


『…――惺!お前は悪くない!だから戦え!過去と!』


(刹那…っ)
彼の声に、おれは、
――ぷつん、と、
何かが弾けた。
再び操縦桿を握りしめ、射撃用スコープを乱暴に仕舞った。
ビームサーベルを取り出す。


「おれは、もう、逃げない」


命を懸ける。
“惺”を殺した罪を、この命を捧げる事で、償うから。


何時だって、逃げ道を探していたおれに、終止符を。




2010.10.09
2012.12.05修正



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