カプセルの中で目が覚めた。
頭には長い包帯が巻かれ、腕には湿布が何枚も貼られていた。
「刹那…?」
ここでおれは隣でずっと座り込んでいる影の存在に気付き、声を掛けた。カプセルから出て、じっと見詰める。刹那は呆然と宙を見据えていたが、おれの意識が戻った事に気付き、「惺…っ!」と近寄って来た。
「良かった…」と一言。しかし、その瞳が悲しそうに揺らめいているのをおれは見逃さない。
そして、おれはその理由に薄々気付いている。
「刹那…」と囁けば、彼は耐え切れずに「惺…っ!」とおれを抱き締めた。ぎゅうぎゅう、と強く回される腕。身長はあまり変わらないと言うのに、自分のものとは全然違う逞しい腕。
おれは優しく彼の背中に腕を回した。
「惺……っ、ロックオンが……っ、ロックオンが…っ!!」


―――亡くなった。



その、残酷な真実を、出来る事ならば聞きたく無かった。そして、「そうだと…思った……」と小さく呟く。
夢で会った彼は、幻ではなくきっと彼自身だったんだ。
おれに別れを告げに来た、彼自身。
「刹那……っ!」
嘘だと、言って欲しかった。
「冗談だって〜」と笑いながら影から現れるロックオンを期待した。
でも、もう、叶わない。
涙がボロボロ溢れ出てくる。止められない。
一緒にいると誓ったのに、
彼は此の手で触れられない程遠くに去ってしまった。
おれは一生笑えなくていい。苦しくても構わない。ただ、彼に笑っていて欲しかったのに。
何時だって、それだけを願っていたのに。
「どうして…!!!!世界は…!!!」
おれの大切な人ばかり奪っていくのですか。

「俺の、せいだ…っ!助け、られなかった…っ」
肩が濡れる。刹那も泣いているんだと今更ながら気付いた。背中に回していた腕の力が強くなる。
涙が止まらないおれ達。慰める事が出来るのはロックオンだけなのに、ロックオンはもう居ない。
「刹那は悪くないよ…っ、おれが…っ、気絶さえしなかったら…っ」
復讐したがっていた彼の気持ちに気付いていたんだ。なのに、どうして、彼を失わなければならないんだ。
涙が止まらない。

『俺が居なくなっても…笑ってくれよ…』

あの時のロックオンの声を思い出す。
彼は馬鹿だ。
お前が居たからおれは笑顔を思い出したんだ。お前が居なければ、笑う事なんて出来ないんだよ。
涙だけが頬を伝う。
拭ってくれる優しい指先も、抱き締めてくれる大好きな温もりも、
もう、此処には無いんだ。

「こんなにも…っ、愛しているのに…っ、!」

なあ、ロックオン。
おれは、どうやって、笑っていたかな。

今は涙しか浮かばないよ。









『敵部隊を捕捉しました――…』
包帯を外してヘルメットを被る。
瞼にはロックオンの笑顔。
「おれは、戦うんだ」
呪文の様に。囁き続けなければやっていられない。
泣き腫らした瞳に気付かない振りをして、何時ものように操縦桿を握り締める。
「おれは、」
戦わなければならない。
ロックオンが望んだ世界を作る為に。
「おれは、戦う…!!!!」
ぎゅっ、と両手を握り締めた。
お前が望んだ世界を、必ず実現させる。
だから、宇宙[そら]で見守っていて欲しい。


ヴァーチェとキュリオスと共にプトレマイオスから出る。
射撃用スコープを手に取って引き寄せる。
アレルヤ、ティエリアの間を通り抜け、GNアローを放つ。
いけると思っていた。
刹那、
「粒子ビーム!!!!?」
プトレマイオスに向かう、一閃の雷。
何故か、鼻腔に血の匂いが広がった。
「やめろォォォォ!!!!!!」
トランザムを展開させ、これでもかと言う程GN粒子を振り撒く。
操縦桿を強く引いてプトレマイオスに翔る。

『愛してる、惺』

耳許で、そんな声が聞こえた。
もう、誰も、失いたくない。
その為には、おれの全てを懸ける。

「うああああああああああっ!!!!!」

散ったのは涙か。
それとも鮮血か。


…――――ロックオン。

おれは、

お前を失っただけで、

こんなにも、弱い。



(さようなら、なんて、言いたくない)




2012.03.21
2012.10.08修正
2013.01.29修正



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