『―――キュリオス、ヴァーチェ、ベリアル、防戦準備。デュナメスはトレミーで待機』

スメラギさんの声に、操縦桿を強く握り締めた。

「ガンダムベリアル、惺・夏端月、行きます」

コックピットに、虚しく響き渡る自分の声。
射撃用スコープを引っ張り、覗き込みながら外へと飛び出した。
こんな時に不謹慎だが、頭の隅で最後のピースを思い出す。
あれには、続きがある。
雨の中で、傘を片手に丘へと向かったおれ。こっそりと埋めた種は小さな芽を出していた。だけど、草花についてはあまり知識が無い。だから、おれはその芽がどんなに綺麗な花を咲かせるのかを知らない。誕生日のプレゼントに図鑑を貰った事があったが、直ぐに取り上げられた。
汚い大人が取り上げた。
図鑑や絵本は全て無くなった。
代わりに、哲学や心理学のような難しい本を与えられた。
遊んでいたものは全て燃やされ、父さんから貰った異国の楽器も捨てられた。
玩具の代わりに、本物の銃を手渡された。
思い出すだけで指先が震える。小さい頃から戦闘の英才教育を受けて来たんだ。今日だって負ける気がしない。
半ば睨み付けるかのように前を見据える。カチカチ、とボタンを操作してミサイルを乱れ撃つ。
その煙の隙間を縫うように突破してきた機体にGNアローを放つ。
爆発音。
その音に、全く似ても似つかないロックオンの声を思い出す。

『俺と、一緒に、生きよう。この戦いが終わっても、ずっとずっと』

この戦いが、終わったら、今度こそ幸せに成れるのだろうか。
ロックオンと共に。誰も傷付かない世界の真ん中で、彼が笑っていてくれたらもう何も要らない。

(……あ、れ…、?)
刹那的におれの身体は動きを止めた。金縛りにあったかのように、トリガーに手をかけたまま動けなくなる。
「っ、!!!!」
どうして、と思う間も無く頭の中が割れるように痛くなる。釘を打ち付けられているような。激しい痛み。突然現れたそれは止む事なくおれを締め上げる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!いあああああっ!!!!!!」
まるで狂ったかのように叫ぶ。耐え切れなくなって射撃用スコープを叩き付けた。ガンッ、と盛大な音を立てて破片が弾ける。
『どうした惺!!!』と言う誰かの声が通信を介して伝わって来るが、返事どころか、その声が誰のものなのか確認する余裕すら無い。ヘルメットすら痛みを助長させる。脱ぎ捨てて放り投げたいけど、動けば動く程に痛みは増す。
何だこれは。
今まで幾度か頭痛に苦しめられる事はあった。しかし、ここまで酷いのは初めてだ。
痛くて動けない。全身が痙攣を起こしたかのように小刻みに震える。その震えのせいで上手く呼吸も出来ない。
上手く呼吸が出来てないのに、痛みを何かで相殺したくて、取り敢えず大声で叫ぶ。それでも痛みは無くなってはくれない。どうして。どうして。吐き気まで催してきた。

まさか、と、

最悪のシナリオが頭を過る。

その刹那、
――シャッ!!!と、一閃の光がベリアルの真横を駆け抜けた。
死ぬ。おれ、このままじゃ死ぬ。
戦慄く身体を両腕で抱き締めるように包む。小さく縮こまって今この瞬間だけ自分が消え去れば良いのにと願う。
引かない、痛み。
「いやあああああああああああっ!!!!!!」
喉が、張り裂けそうだ。
刹那、

プツン、と音が響いて。

戦場の真ん中で、
おれは意識をぶっ飛ばした。



それが、別れの合図だとも気付かずに。




2012.03.20
2013.01.29修正



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