(あ、惺)
闇の中、よく知った後ろ姿を見付けた。展望室に向かって行く後ろ姿を半ばストーカーのように追い掛けた。
何も言わずに静かに追い掛けていたが、流石気配に敏感な惺。展望室に入るなり「眠れないのか?ロックオン」と振り向いた。ふわり、と黒髪が綺麗に靡いた。一瞬だけ見蕩れたが、直ぐににっこり笑って彼女に近付く。
「ああ。惺も?」
展望室から見える星々が俺達を包んだ。邪魔するものは何も無い。
その中心に粛然と立っている惺の姿は、まるで空の星々を統治している長のようにも見えた。
「おれは…眠れないというか…考え事」
そう答え、俺から視線を反らして再び星を見上げる。俺はそんな惺の横に並ぶと彼女と同じように星を見詰めた。
「考え事って何だ?」
「未来のこと」
「未来…?」
惺の唇から彼女にしては珍しい単語が出た。意外だった。何時も過去ばかり追っていた彼女の唇から、これから先の事が出るなんて思わなかった。
「ああ…。」
彼女は星を見上げたまま、端的に答える。
この宇宙に散りばめられた星は、彼女の瞳と同じだ。煌々と輝くそれは、何時も俺の道標だった。
「なあ、ロックオン」
「なんだ?」
「この戦いが終わったら…おれは…」
「………。」
「死のうと思うんだ。」
「…っ!!!!」
思ったよりも重い内容に、俺は言葉を一瞬失った。
やっぱり、彼女は馬鹿な事を考えていたのか。チップの事を彼女に言うべきではなかった。こうなる事は目に見えていたと言うのに。
「おれは……、」
下を向く。
「背負っている罪が大きすぎる。多くの人間を殺めてしまった…。おれは、本当は死ぬべき人間だったんた」
不意に言葉を切った。
そして、にかっ、と苦笑いのような、嘲笑のような、よく分からない笑みを俺に見せる。
漆黒と紺碧に出会った。
「おれの命は…っ、」
彼女が何を言わんとしているのか直ぐに理解出来た。優しく抱き締めて耳許で囁く。
「死ぬなんて言うな。ばか惺」
俺は、お前にそんな事を考えさせる為に真実を告げたんじゃない。

「死なないで、一緒に罰を受けよう…。そして、一緒に許してもらって…、一緒に生きよう」

「……生きる………?」
その言葉が意外だったらしい。
俺の目を見詰めたまま動かない。
「そう…。“彼女”達の気持ちを無駄にしない為にも…」
「……“惺”達の…?」
「ああ。…なあ、惺。どうして“彼女”達は死んだのだと思う?」
「…わからない。」
「お前に生きて欲しかったんだよ。自分が死んでしまっても、お前が生きてくれるならそれでいい…そう思う程、お前を愛していたんだ…」
「………っ、」
「だから、命を捨てて、罪を償おうと思うな。彼女達が、必死で繋いだお前の命を…簡単に捨てるな…」
「…ロックオン……」
「俺と、一緒に、生きよう。この戦いが終わっても、ずっとずっと」
「………プロポーズ?」
俺は目を見開いた。
い、意識はしていなかったが、今の科白はそうとも取れる。いや、確実にプロポーズだこれは。
気付いてしまったらだんだん照れてきた。視線を僅かに逸らして考える。
でも、これは寧ろチャンスかも知れない。
逸らしていた瞳を再び惺に向ける。
惺は微笑んだ。
そして、さらり、と彼女の左手が俺の少しクセのある髪を愛しそうに目を細めながら梳く。
永遠のようにも感じたその瞬間の中で。
「…俺は、お前を愛してる。だから、ずっと俺の傍に居てくれ」
静かに告げる。
指先が頬に触れた。サラリ、と落ちてきた髪の毛を耳に掛けると、静かに唇を近付けた。
お互いの吐息が掛かる程の距離で、見詰め合う。
「…惺は…?」
「……おれは…、」
「誓ってくれないのか?」
「……誓う。ロックオンと共にいる…お前をずっと愛してる」
「お前、可愛すぎ…っ」
ちゅ、と、甘い接吻。
「まるで結婚式みたいだな」
にこ、と笑う。
幸せ過ぎる。
「じゃあ今日が俺達の結婚記念日だな」
「結婚記念日…はは…っ」
笑う惺。
そしてどちらともなくまた接吻を交わした。
「さーて、今夜は新婚初夜だー」
惺の腰を引き寄せて、抱き上げた。
苦笑いの彼女の唇に再び口付けをすると、諦めたかのように「仕方無いな」と言う声が返って来た。

その愛しい声に、
俺は、決意を固めた。




2012.03.12
2012.03.19修正
2013.01.28修正



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