ガンダムマイスターになって、色々あった。仲間と出逢って、惺と結ばれて。だけど、その中でも、忘れられない思いが確かに存在していたんだ。
惺にとって、“夏端月惺”が忘れられなかったように。俺は俺の家族を奪った奴らを忘れられなかった。心の隅で燻っていたその思いを、断ち切る事が出来なかった。
惺に言ったら、彼女は何と言うだろうか、と幾度も思った。
復讐してやりたい、なんて言ってしまったら、彼女はどんな顔をするのだろうか。
俺は意地悪だ。
復讐を遂げた彼女に、「復讐をしてもいいのか?」なんて。
彼女が答えられないと分かっていながら問い掛けようとする。
でも、復讐を果たしたいと言う思いが強まったのは、惺の存在があったからなんだ。
勿論、惺のせいで、と言う意味では全く無い。
ある日、すっ、と身体の中で違和感を覚えたんだ。本当に。ごく自然に見付けたその違和感。
何だろうか、と追究した果てには、無垢で純粋なものだけがあった。

この心を、惺への愛で満たしたいんだ。
惺だけの愛で埋め尽くしたいんだ。
心臓から溢れ出す程に、愛して愛されたいんだ。

でも、この隅に在る憎悪が邪魔なんだ。
この欠片が、俺を締め上げる。
惺だけの事を考えて生きていたい。だけど、復讐をしなければ俺はきっとずっと前には進めない侭だ。

なあ、惺、
復讐は良い事だろうか。それとも、悪い事だろうか。

優しい彼女は、そんな俺の心まで全て見透かしているから、きっと答えないんだ。
ただ、困ったように笑う。
お前の好きにすれば良い、と。

結局は、彼女に甘えているだけなんだ。







「オリジナルの太陽炉のみに与えられたシステム…」
「トランザムシステム…」
「へっ、イオリアのじいさんもたいそうな置き土産を遺してくれたもんだぁ」
そんな会話を漠然と聞いていた。
トランザム―――機体内部に蓄積されていた高濃度圧縮粒子を全面開放することで、一定時間スペックを三倍以上に上げる。
しかし、その分の代償が大きい。
使った分だけ機能が低下してしまう。
きっと実践で使うには要になる。これからトランザムのお世話になるであろうと思いながら、ロックオンの姿を見た。
自分は大丈夫なんだ。ただ、心配なのは向こうで余裕そうに立っている彼だ。
隻眼でガンダムに乗るなど、危険極まりない。
片目だけになる不安と不便さは自分が一番理解している。
「絶対に…」
ぼそっ、と呟く。
「助けてやるから」
彼も、皆も、
もう誰も失いたくない。
おれは皆から顔を逸らした。
たとえ、この命尽きようとも。
皆の笑顔は、おれが守りたい。

「刹那からの暗号通信…」
どうしたのだろうか。スメラギさんの「開いて」という声で、刹那の声が響き渡る。
その内容は酷いものだった。
「アリー・アル・サーシェス…」
ガンダムスローネの一機が奴に渡ってしまった。
ロックオンの表情が曇る。
おれは、その表情を悲しげに見詰めた。
彼の瞳はおれのよく知った瞳だった。闇の中で渦巻く憎悪。裏切り、陰謀。飼い慣らしてしまった其れは、見破るには容易かった。
だけど、
復讐を望む彼に、何と声をかければいい?
憎しみや恨みの全てを知り尽くしたおれには言葉が見つからない。
復讐を果たさねばこの胸を掻き毟る憎悪に支配されてしまい、復讐を果たせば果たしたで後に襲い掛かる多大なる罪と喪失感。
こんな事をしたって、誰も戻って来ない。そんなこと自分が一番分かっている。分かっていた。
(ロックオン…)
…――おれは、どうすればいい?
おれを闇から引き上げてくれた彼。その彼を闇から引き上げる術をおれは持ち合わせていない。

その瞳が、ただ悲しかった。




2012.03.08
2013.01.28修正



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