全てを告げてしまった。
「お前の頭の中にチップが在るんだ」と。
正確には、はっきりとそう言っていない。だが、惺は俺が全てを言い切る前に察して遮った。
悲しいだろうに。苦しいだろうに。
涙を耐えて「こんなおれを愛してくれてありがとう」なんて囁いた。
泣きたい。声をあげて。
何時も彼女は傷を覆い隠すんだ。まるで、同じ面しか見せてくれない月のように。
そんな強がりな彼女を知っていながらも、俺は助ける事が出来ないんだ。
ティエリアには「惺を救えるのは貴方だけだ」なんて言われたけれど、本当は俺には出来ないかも知れない。
ただ、彼女の傍に寄り添い、愛する。
それしか出来ない。

惺を完全に苦しみから救い出すスーパーヒーローには成れない。
だけど、せめて彼女の処方箋に成れるように。
たくさんの愛を携えて。







「ロックオン」
「ん?ああ、フェルトか」
片目だけになった彼が振り向く。にっこり、と私を見詰めた。
彼は誰にでも優しい。平等に優しい。私に対する思いも、その彼の振り撒く優しさの一部であることは理解していた。だけどもやっぱり認めたくなかったのも事実だった。
だって大好きだったんだから。
「身体…平気?」
「ああ。心配かけてすまなかったな」
「ううん…ロックオンが無事なら…」
「優しいな、フェルトは」
静かに微笑む。しかし頭に浮かぶのはそれとは反対の負の感情。
『もう…お前しか愛せねーよ…』
その言葉を確かに聞いてしまったから。その腕に小さく収まる惺の姿を見てしまったから。
――彼は誰にでも平等に優しい。
だけど、彼女――惺だけは特別。それも薄々気が付いてはいた。
諦めきれなかった。他人に無関心そうな惺より、彼を好きな自信があった。
ロックオンは微笑む。そして私の頭をポンポンと撫でた。
「ありがとな」
「…うん」
だけど、私の頭の中がぐちゃぐちゃに混乱しているのは、それだけが理由ではない。
――惺の頭のチップの事。
ロックオンの科白を聞いてしまった、と言うことは必然的にその前後の会話も聞いてしまったことになる。不可抗力とはいえ、こんなにも重大なことを聞いてしまった事に動揺が隠せないの。
「…ロックオン………私……」
唇が震える。
「惺の…っ、チップが…っ」
涙が出そう。
左肺に無いから安心していたのに、頭の中にチップが在ったなんて。誰も思わない。
惺は大丈夫なの?死んだりしないよね?
私は惺を失いたくないよ。
ロックオンは私の言おうとしていることを察したみたいだった。苦笑いを浮かべると口元に人差し指を近付けて「シーッ」と言った。
「惺のことは…誰にも言うな」
「でも…」
「大丈夫。」
その言葉は、力強かった。
根拠も何も無いけど、信じられるような。
「惺は、乗り越える」
強い信頼を灯した瞳。
それは、愛が無ければ成せない。
(…ああ、やっぱり私は…)
「そうだね…惺なら…きっと大丈夫だよね。」

彼女には勝てなかった。

何時だって、彼女には勝てない。
そして、きっと、これからも彼女には勝てない。

だから、
この気持ちはひっそりと胸の内に仕舞って置こう。

それに、
私は、ロックオンが好きだけど、
惺だって同じくらい好きなんだから。




2012.03.08
2013.01.28修正



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