身体を半分以上失った。
命は繋がっている。だが、なにか大きなものを失った。


見慣れない白い天井。
横に見えるドクター、父さん、アラン、惺。
心配そうな、でも嬉しそうな表情。
腹が立った。
涙が溢れ出た。
皆が笑顔で告げる。
『生きてて良かった』と。
(違う、おれは…)
身体に繋がれた異物を見据えた。涙で徐々に見えなくなる。
ゆっくりと右腕を動かすとギチギチと悲鳴に似た金属音。
温もりも何もかも失った金属が身体に埋め込まれている。
悔しくて、悲しくて、仕方無い。
(くる、しい、)
涙が、止められない。
生きている事を喜ぶべきなのに、生きている事に愕然とした。
こんなに醜い姿にされてまで、生にしがみ付きたくはなかったのに。
醜い姿を晒してまで、生き延びたいなんて、思わなかったのに。
おれは完全なる生身の人間ではなくなった。
管のたくさん繋がれた身体を見る。頭の中ではどうやって死のうかとぐるぐる考えていた。
惺は、ジッ、と管を見ていたおれに気付き『大丈夫、管は後で取れるから』と告げる。違うんだよ、惺。そんな問題じゃないんだよ。
涙目の彼女は、こんな状況ではなかったならば大好物なのに。
今は、ただ、生きているのがつらい。大好物の涙ですら、おれの癇に障る。
白過ぎて気持ち悪いベッドから、ゆっくりと起き上がった。ブチブチ、と管が取れていくのも気にせずに。
ドクターと父さんが『安静にしてろ!』と押さえ付けようとするが、左手をブンブン振り回しながら抵抗する。誰にも触れて欲しくない。今、誰かがおれに触れてしまったら、怒りでぐちゃぐちゃに殺しちゃうかも知れない。
ペタ、ペタ、と、全身が映る大きな鏡の前に歩いて行く。

自分の姿を見て、
消えたくなった。

サイボーグの右半身。縫われた頭。左目は爆発で飛ばされた石か何かで潰れてしまったのか、悲惨な事になっている。もう二度と使い物には成らない。
『うっ…、うぅ…っ、ぇ、』
嗚咽が洩れる。
悲しくて仕方無い。
憎くて仕方無い。
パタパタ、と、惺がおれの後ろにやって来る。鏡越しにおれを見詰めて。肩に手を置いた。
ゾクリ、と戦慄が走る。
頼むから、おれに、触れるな。
大好きな惺でさえ、今のおれに触れて欲しくない。
所詮、誰もおれの気持ちを分かってくれない。
ポタポタ、と涙が床に落ちる。
惺は、おれの涙の理由が“生きてて良かった”と言う喜びと安堵であると勘違いしているようだった。にっこりと優しく微笑んで『大丈夫よナユタ、怖かったわね』なんて言って来た。
ほら、誰も分かってはくれなかった。
おれは彼女の手を振り払った。
突然の拒絶に、驚いて固まる惺。
違うんだよ。皆、皆。勘違いも程々にしてくれ。おれの気持ちを分かってくれているつもりで、何一つ分かってはくれていなかった。
“生きてて良かった”なんて、誰が思うか。
お前達はおれを弄んだんだ。
お前達のせいで、おれは醜いまま生き続けなければならなくなった。
この痛みは、きっとおれが生きている限り消えないんだ。
皆、皆、
分かってくれていなかった。
鏡に背を向け、皆に向き直る。
ギロリ、と隻眼をぎらつかせて。



『どうしてッ!!!!!おれを人間のままで死なせてくれなかったんだぁぁあああッ!!!!!!』



傷付いた皆の顔が目に入る。
それで良い。もっと苦しめば良いよ。

だって、
おれの苦痛に比べたら、
大したこと無いだろう?




2011.11.23
2013.01.23修正


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