「…マクギリスーーーーッッ!!!!」

喉が枯れるかと思うくらい大きな声で叫んだ。
もう大事な人を失いたくないと言う恐怖だけが私を突き動かす。
沈黙するキマリス見て戦慄した私は、モビルスーツのワイヤークローでグリムゲルデの動きを封じた。
マクギリスは急に現れた他のモビルスーツに一瞬驚くが、此方を見て直ぐに「ハハハ」と笑いを漏らした。おそらく、私が来るのは大方予想していたのだろう。

「まさか、私のシュヴァルべで来るとはな、シン」

拘束していたワイヤーをあっさり解いて私に向き直るマクギリス。通信を介して「シン…?」とガエリオの声が聞こえて、「良かった、間に合った」と一先ず安心した。
「君、身長高いから変装するのに手こずったわ」
シュヴァルべを掻っ払って、アインと三日月が戦うであろう地の近くにあらかじめ隠しておいたのだ。アインを三日月に任せた私は、直ぐにこのマクギリスのシュヴァルべ・グレイズでこの地に舞い降りた。
この瞬間の為に、ずっと、ずっと、長い間、戦ってきた。
だから、
(絶対に、負けられない)

「その機体で、このグリムゲルデに勝てるとでも?」
「君なんか、このシュヴァルべで十分!!」
バトルアックスを構える。
「ほう、」と楽しそうに、同じくヴァルキュリアブレードを構えたマクギリス。
「…、」
「……っ、!」
互いの呼吸まで聞こえてきそうな、静寂の中で、
私達の戦いの火蓋は切られた。

「シン…、君は…こんな人間じゃなかった…。誰かの為に…、ガエリオの為に、命を懸けるような人間じゃなかった…」
繰り出される攻撃の合間に飛んでくる彼の言葉。
「君は…っ!私と同じだったのに…、どうして、」
切っ先のような言葉。
責めるその科白が、
深く、心に突き刺さる。

「…、ッ!」
やはり機体の性能の差か。
力いっぱいに操縦しているせいで、開いた傷口が真っ赤に熱を帯びる。
(…っ、く、!!)
痛みを誤魔化すかのように下唇を噛んだ。

(君の言う通りだね、マクギリス)

「そう…!!私たちは同じだった…!!独りで!!何もかも信じられなくて!!許せなくて!!」
グリムゲルデのブレードが私の機体を切り裂く。
嫌な金属音と共に、シュヴァルべの右のアームが飛んで行った。
(同じだったんだよ…っ!!)

「…――私が闇から出る事が出来たのにっ!!私と同じ君がっ、!!どうして闇から出ようとしないの!!!」

こんなにも、何度も何度も、手を伸ばしていると言うのに。
…――届かない。

蹴り飛ばされて、あの日、ナルバエス邸の自室でされた時ように、シュヴァルべの上に馬乗りになるグリムゲルデ。
コックピットから、空を見上げた。
(…ああ、私は…、)

あの時、ブルームーンを見て、絶望に暮れた。
月は永遠と孤独に暗闇に浮かぶ。自分達も同じく、永遠と闇の中に生きるのだと。
でも、違った。
グリムゲルデの向こう側に見える、白夜月を見据えて。

月は、光の中でも輝けるのだと、気付いた。
私も、光のもとで生きていけるのだと、気付いた。

…――全部、全部、ガエリオが気付かせてくれた。

「君が許せない…。ガエリオを殺めた君が…心の底から許せない…」

いっそ、再会して直ぐに、息の根を止めてやろうかと思った事もたくさんあった。
先に君を殺してしまえば、ガエリオが死ぬ事も無い、と。

「だけどっ、だけどぉっ!!!」

どうしても、殺す気にならなかった。
なれなかった。
今、この瞬間だって。
許せないのに、まだ何処かで淡い希望を抱いている。

あの大きな木の上で、二人で話した。
頬に触れた、マクギリスの、冷たい指先が記憶の中に蘇る。

『君と私は似ている。…君も、この世界を恨んで、怒りの中を歩んでいる。』

『君は、そのままでいてくれ』

『…善処するわ』


悲しげなマクギリスの表情。
あの時、“最初の君”に、君を独りしないと約束した。
当時はまだ漠然としていて、ちゃんと考えていなかったけど、今なら分かる。
(君も、本当はそうなんでしょう?)
私と同じで、傍にいてくれる唯一の理解者を、心の拠り所を、失いたくなかった。だから、こんなにも、怒っている。裏切られた、と絶望している。
(でも、私は、)
変わった。
あの頃のマクギリスとの約束を破って。

(だからこそ、)

「ガエリオだけじゃない…っ、!!私は…っ、わたしは…っ、!!」

わたしは――…

「…――君の事だって救いたかった…!!」

同じ闇を抱えていた君を、どうしても救いたかった。
君も、一緒に、光のもとで歩んで欲しかった。

マクギリスが息を呑んだのが通信を介して聞こえる。しかし、直ぐに「お前は…甘い…シン」と切り捨てられた。
機体を持ち上げられて投げ飛ばされる。ゴン!!と大きな衝撃。キマリスにぶつかったのだと理解した。
(視界が霞む…、息が苦しい…)
脇だけでなく、腹部にまで血が侵食して、真っ赤に染まった隊服を見る。
頭がボーっとしてきた。血が足りないのか、身体が動かない。

その様子を見て、ゆっくりとした動作で、近付くグリムゲルデ。
直ぐ傍に止まったかと思ったら、コックピットからマクギリスが出てくる。
「死を司る神にでも成ったつもりか」
「……、っ」
「ガエリオは死ぬ。運命は曲げられない」
冷たく、私とガエリオを見下ろした。

「…残念だな、シン」

カチャリ、と、拳銃を取り出して、動けないガエリオに向ける。
「“今回のガエリオ”は諦めて、また次、頑張ればいい」
言っている事とは真逆に、物凄く優しい声色だった。
(嫌だ…、)
次のガエリオなんて、言わないで。
「私は…、今のガエリオを救いたい…っ」
“最初のガエリオ”と同じ、この指輪をくれた、今のガエリオを。
マクギリスは、微笑んだ。
「友人としてのせめてもの情けだ。ガエリオは、君の前で、直接、私が手を下そう」

意識が遠ざかる。

だんだんと、目の前が暗くなってきて、

音が聞こえなくなる。


ガエリオに向けられた、銃口。

まるで、ノスタルジックな映画でも見ているかのように、

綺麗な余韻で、

マクギリスは、トリガーを引いた。



2016.05.21

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