もう地球が近い。
鉄華団が地球に降りるのを何とか阻止しなければいけない。
これは最後のチャンスだ。あのカルタにまで頭を下げたのだから、必ず奴らを倒して見せる。
(アインと…シンを…、負傷させられたお返しもしなきゃな…)
俺は、迫り来る決戦を前に、カルタに通信を繋いだ。

「カルタ、」
と、通信を繋いだ瞬間、呼び捨てを咎められた。
何だよ。別によくないか?それくらい。全く、変わらんやつだ。
『ガエリオ!あなた参加させてあげたのだから、我々の足を引っ張らぬよう、それなりの働きをしなさい!』
くそー。腹が立つが参加させて貰ったのは事実だ。
ここは下手にでるしかない。
「ぐ…、分かって…!!…います…」
この敗北感…。しかしこれは、俺達がここに来るまでに奴らを始末出来なかったせいでもある。
今、この瞬間だけ我慢するんだ俺。

カルタは、「それより、」と言葉を続けた。
『あの男はどうしたの?』
「あの男…?」
『あの!金髪の!高慢ちきな!地位の為にションベン臭い子供なんぞと婚約した!!いっつも前髪イジイジしているあの男の事よ!!!』
おお、物凄いマシンガンが返ってきたな。
(カルタも分かりやすい…)
俺は「相変わらずの物言いだ…」と、思わず苦笑を漏らす。
「マクギリスなら休暇中ですよ。地球でその子供と過ごしている」
カルタは「地球に…?!」と、更に不機嫌に突っかかってくる。
『それで私に何の報告も無かったと?』
今、この場にシンが居なくて良かったと心底思った。あいつが居たら、もっと酷い事になっていただろう。何故ガエリオ達と共に居るの!とか、報告もしないで!とか、怒鳴り散らすカルタと、困り果てるシンの姿が容易に浮かぶ。
まあ、今、シンは医務室で安静にしているはずだから、そうなる心配も無いが。
静かに溜息をついた刹那だった。

「ガエリオー…!」
「…はっ?!」
俺の元に寄ってきたその姿に思わず素っ頓狂な声を出した。
(シン!何でここに来た!と言うか、なぜ安静にしていない!?)
「お前!バカか!」
突然の事に、「どうしたのガエリオ」と問い掛けるカルタを無視してシンに向き直る。取り敢えず、カルタから見えないように俺の身体でシンを隠す。
医務室に戻るように、シンの両肩を掴んで追い返そうとするが、「大丈夫だよ〜」と力無く笑って俺の手を払ってしまう。
どう見たって大丈夫には見えない。

『ガエリオ!私との通信中に!見せ付けるように女とベタベタするなんていい度胸ね!!』
カルタの怒号が飛んでくる。うるさい!ちょっと待て!取り敢えず今はこっちの方が重要だ!…なんて俺の心境には御構い無しで、カルタの怒号につられる様に、ひょい、と顔を覗かせて確認するシン。
(おい!バカ!)
俺の抵抗も虚しく、シンとカルタはご対面。互いに声を漏らす。
「あ!」
『その顔…!!』
「カルタ!久しぶりだねえ!」
『あなたやっぱりシンね!?急に私達の前から消えて!!今まで何やってたの!!』
ほら、予想通りの展開だ。
俺は頭を掻いた。
(と言うか、数年振りなのに、シンの再会の仕方は緩すぎないか?)
まるで、もう既に何回か出会っていたかのような。
シンは思い出すかのように視線を上に彷徨わせると、「ちょっと長〜〜い旅をしてた」と苦笑する。
何だそれ。カルタも俺と同じ事を思ったのだろう。声を荒げる。
『何よそれ!意味が分からないわ!!だいたい何故ガエリオなんかと一緒に居るのよ!!戻って来たならちゃんと報告しなさい!!』
(おい、なんかって何だよ)
ムッとした俺は思わずカルタを睨んだ。
『あなた達三人は…っ!!揃いも揃って…!!』
乱暴に頭を掻くカルタ。隣のシンは相変わらず呑気にニコニコ笑っている。本当、何度思ったか分からないが、昔に比べて大人しくなったな…(昔だったら確実に食って掛かってた)。
「マクギリスも、シンも、直属の上司でも無いあなたに、報告する義務が?」
『ガエリオ!!あなたも、我ら地球外縁軌道統制統合艦隊をバカにするつもり!?』
「はあ?…いや、そんなつもりは」
『いい?!成果をあげられなかったら承知しない!!折檻が待ってるわよ!!』
「せ、折檻!?折檻ってなん…!!クソッ!!切りやがった!!」

反応の無くなった画面。俺は大きく溜息を吐いた。

「シン!!お前何で安静にしていない!?」
シンに向き直って咎めると、彼女は「私にはやらなきゃいけない事があるから休んでいられないの」と答えた。
そして、俺の頬に手を添える。

「私も出撃するから」

一瞬、耳を疑った。
「はあ!?お前、その傷で出撃するだと?!バカか?!足手まといになるだけだ!!」
「ガエリオが何と言っても私は出る」
じっと俺を見上げる。逸らさずに、真っ直ぐと俺を見詰めて。
「…っ、!」
その眼差しは、今まで何度か見た事がある。
彼女が、どうしても譲れないものがある時、いつもそんな瞳だった。俺は、この瞳に弱い事を自覚している。
しかし、ここで負けてはいけない。今回は絶対に譲ってはいけない。
「だめだ」
「だめじゃない!!!」
「シン、」
お前がそこまで言うなら仕方ない。こっちも然るべき措置を講じなくてはいけない。
俺は小さく溜息を吐いて心の中で「すまないなシン」と謝った。
そして、一気にシンを担ぎ上げる。
「…――えっ!?ちょ!!なに!!おろして!!」
「無理だ」
バタバタと暴れ出すシンを押さえつけて、俺は急いで自室へと向かった。


「…―――戦いが終わるまでここでジッとしてろ!」
怪我人だが致し方ない。少々乱暴にベッドの上に投げ捨てると、急いで扉を閉じて外からロックする。
ちょっとした監禁状態だ。急激に背徳感に襲われる。
「ちょっと!!ガエリオ!!」と、中から叫び声が聞こえたが、聞こえないふり。
分かってくれシン。怪我をしているお前に出撃して欲しくないんだ。
(まあ、怪我をしてなくても出撃はして欲しくないが…)
「ガエリオってば!!」

「…安心しろ。すぐ戻る」
(許せ、シン)
俺は、キマリスの元へと向かったのだった。




2016.05.14

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