…―――ねえ、嘘だと言って。

動かないキマリスに、力なく近寄る。

『がえ、りお…?』

遠くからでも分かる。
酷い有様。
誰がやったのか、想像すらしたくない。

『…うそ、だよね…ガエリオ…』

大きく抉られた胸部。あそこ、コックピットだよね…?違う…?
ねえ、お願い、お願いだから…っ。

『ガエリオ…っ、』

コックピットまで必死で登る。
ねえ、こんなの、やだよ、ガエリオ。

真っ暗なコックピットに入る。
びっくりするくらい血まみれのガエリオがそこに横たわっていた。
『…いやだ…、冗談はよして…』
ゆっくりと彼に近寄る。
すると、私の気配を感じたのか、彼はピクリと動いた。
『…シン、か…』
ふっと微笑む。力なく手招きされて、私は急いで彼に駆け寄る。
よかった、生きてる…っ

『ねえ…っ、ガエリオ…っ、私…、わたし…っ、!』

『言うな、シン…』
謝ろうとした私に、そう言って。

『あの時…お前の気持ちを考えずに…怒鳴って悪かった…。俺は…間違っていたんだな…』

『ねえ、待って…、そんなのいいから…っ、早く手当てを…っ、!』

私の言葉を遮って、首を横に振る。
そんな、遺言みたいなこと、聞きたくない。


『…―――シン、これ…、わすれもの、だ…』


ぬる…、と、私の左手の薬指に生温かい何かが触れる。

血がべっとりついた、シルバーリング。

腹が立つくらい、キラキラと光っている。

『…これ、…っ、』

刹那、びっくりするくらいの力で引き寄せられた。
勢いあまって彼の膝の上に座る。ガエリオに「ふ、」と笑われる。

『…シン、ずっと…、お前に言えなかったことがあるんだ…』

『…ガエリオ…っ、そんな事より手当てを…っ、ん…っ、!!』

優しくキスされる。

初めて交わしたガエリオとの口付けは、

血の匂いと、

血の味がした。

ゆっくりと瞳を閉じるガエリオ。




『…―――お前を…、愛している…。シン…。』




『…―――いやっ…!いかないで…っ、!ガエリオ…っ!!!』

ねえ、待って、ガエリオ。

君も、忘れてるよ。

だから、
まだ、
眠らないで、
お願い。



まだ、
私は、
君に、
君を…、



『…―――ねえ、ガエリオ…っ、私にも…、愛してるって…っ、!ちゃんと…っ、言わせて…っ!!!』


お願い。

お願いだから。




…―――ねえ、ガエリオ…っ、





「…―――私にも…、愛してるって…っ、ちゃんと…っ、言わせて―――…」



つう、と頬に涙が伝った感触がした。
(…―――あ、れ…?)

「…―――シン!!!」

急に、辺りが明るくなる。

「シンが目を覚ました!!!医師を呼んで来い!!!」

そして、誰かに、ぎゅうぅう、と、きつく、きつく、抱き締められる。

「…ガエ、リオ…?」
「そうだ…俺だ…!!シン…」
ジンジンと脇腹が痛い。

「わたし…、生きてた…」

「お前はバカか!!なんであんなことを…!!」
必死な彼に、不謹慎にも、思わず笑ってしまう。
炎から連れ出してくれた、あの時のガエリオとおんなじこと言ってる。
「なに笑ってんだ!!こっちはな!!本当に必死で…!!!」
「うん、ごめんね…、ガエリオ…」
ぎゅうぎゅう、と、私も彼を抱き締める。
髪に触れ、指先に絡ませて。温もりを確かめる。
ああ、本当に、まだ、生きている。
彼は「ばかやろー…!!」と吐き出した。
「シン、お前が…、死ぬかもしれないと思ったら…物凄く…怖かった…」
「は、ははは…っ、」
「だからなんで笑うんだよ!!」
「ごめん…気にしないで…」
ガエリオの鎖骨のところに、顔を埋める。
大きく息を吸い込んだ。
死を覚悟した癖に、生きていたことに心底ほっとした自分がいた。
じんわりと、涙が浮かんでくる。
(私は、まだ、やれる…)
(また、ガエリオを救うチャンスを与えられたんだ…)

小さい声で、聞こえないように。

(…あいしてるよ、ガエリオ…)

「なんだ?声がくぐもって聞こえない」

「ううん、いいの。気にしないで。」

今は、言わないよ。
もう、二度と、こんな失敗はしない。
今度こそ、君の生を最後まで見届けるから。

その時まで、
ちゃんと、言える日まで、
君を、救う日が来るまで、

その言葉は取っておくの。

私は、彼の腕の中で、静かに目を閉じた。




2016.05.08

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