チアリーディングの練習が長引いて帰りが遅くなってしまった。
明日から新一年生も登校してくる。
今、各部では新入部員の争奪戦の為、念入りに作戦を立てている真っ最中だ。必然的に帰りも遅くなる。
私達の所属しているチア部は、今年で創立二年目。実は歴史が浅い。一年生の時に私とあっちゃんが中心になって創立した部活だ。今ではメンバーが増えて、八人。ギリギリ大会に出られるくらいにはなっている。
因みにチア部の最大の宿敵は吹奏楽部だったりする。今年は負けん。
バッグを抱えながらゆっくりと歩く。普段は遥と真琴と三人で帰っているのだけれども、今日だけ私の帰りが遅くて一人で下校。悲しい。寂しい。
家に帰っても両親は居ない。遥と同じで、父親の転勤に母親がついていったのだ。「帝もついてこい」と最初のうちは言われていた。何せ当時はまだ中学一年生になったばかりだったから。でも、遙と真琴と離れたくなかったし、この地元が大好きだから、強引に両親を納得させて私一人だけで此処に住んでいる。
両親は「遙くんと真琴くんがいるなら…」と最終的には折れてくれた。
「コンビニ寄ろうかな…」
ぼそり、と呟く。
一人で家に帰るのはつらい。どうせ家に帰っても一人なんだから、せめて帰り道までは誰かと一緒にいたい、なんて思う。
(今日は我慢我慢…)
ぐっ、と両手を握りしめ、コンビニへと歩く。現在地からそう遠くない。そこの角を曲がれば、見えて――…

どんっ、

誰かと、ぶつかった。
「あ、ごめんなさ――…」
顔を上げた私は、一瞬だけ呼吸を忘れた。
目の前に居たのは、
「…り、ん…?」
なぜ?え?なんで、なんで、なんで?
オーストラリアはどうしたの?
見事に成長した松岡凛――私の片想いの相手が、私を見下ろしている。
彼は、暫く「誰だコイツ」と言う顔を浮かべていたが(なんかショック)、何かに気付いたらしく、カッ!と目を見開いた。そして、さっきの私のように、一瞬息を詰まらせ、「おま…帝…なのか…?」と問うた。
「そうだよ…、てか、なんで…、ここに…っ、いつ帰国して…」
上手く呼吸が出来ない。
凛が目の前に居ることが信じられない。
ずっと、叶わないと思っていた。
「つい最近帰国した。お前、見ねぇ間に随分と女らしくなったな」
すぐに気付かなかったよ、と苦笑いを浮かべている。
そっちだって、見ない間にめちゃくちゃかっこよくなって。まるで別人のように見える。
(いや、違う…)
見た目じゃない。見た目なんかよりも、
(雰囲気が、)
変わった。
「凛…オーストラリアはどう?水泳、楽しい?」
私の問いに、彼は眉間に皺を寄せた。
「まぁな」
そして、凛は私から目を逸らした。
違和感が、する。
凛は、私の想い人は、こんな男であったか。
「ほんとに?」
思わず確認してしまった。楽しいなら、私の目を見て。はっきり言って。
(何があったの。凛。教えて)
しかし、私の願いも虚しく、凛は答えてはくれなかった。
だけど、
「向こうには、」
小さく続く言葉。
「勝利の女神が、居ないから」
「え…?」
(それは、どういう…)
「…なんてな。」
凛は再び苦笑いを浮かべると、帽子を深くかぶり直した。
「じゃあな」
そして、軽く頭をポンポンして去っていく。
私の足は動かなかった。
振り向いて彼の背中を見送ることすら出来なかった。
(どうしたの、凛…)

コンビニに寄るはずだったのに。
行く気は全くなくなってしまった。



2014.01.27



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