あの夜の海の件が原因で見事に風邪を引いた私。
残りの無人島(正確には違う)合宿は一人だけ民宿で安静に寝て過ごすという、なんとも情けない事態に陥った。
そのまま合宿は終わり、チア部の皆には傘をぶっ飛ばした事をバカにされ、水泳部の皆には必要以上に心配をされた。ほんと泣きたい。


そんな合宿から数日、
現在、私は部室でウンウンと唸っていた。風邪が治っていない訳じゃない。
「合同練習の時のメニュー考えてるの?」
ガチャリと扉が開き、あっちゃんが入って来た。
「うん、うちって部員あんまり多くないじゃん、向こうとどうやって調整しようかなぁって」
「まあ、適当でいいんじゃない。練習内容なんか」
「練習だしなぁ、そうだね。先輩に全部任せちゃお」
メールを開く。合同練習の約束をした先輩に「練習メニューは先輩に任せます」と簡潔に述べて送信ボタンを押した。
「合同練習って来週だったよね」
「うん、来週の土曜日」
「ちょうど、水泳部も休みだから、見学に来るってさ」
あっちゃんの言葉に溜め息をつく。合同練習にいきたいと渚が言っていたが、正直本当に押し掛けるとは思わなかった。
暗い顔で下を向けば、私の心情を察したのかあっちゃんが「…大丈夫?」と声をかけてくれる。
「大丈夫だよ」
ニッコリと、表向きの笑顔を貼り付けて。
「もう二年も前のことだもん」
そう、強がった刹那だった。

「…――ミカドちゃん、いるーっ?」
元気な渚の声が部室に響いた。
「あら、噂をすれば」
あっちゃんが苦笑した。
渚の後ろには遙、真琴、怜の姿も見える。
「帝、迎えにきたよ。一緒に帰ろ」
真琴の気の抜けたような声で、私の先程までの緊張は一気にとけてしまった。
そんな私達のやり取りを見たあっちゃんは、「今日は帰ったら?」と微かに笑いながら告げる。
そして、「何か今日のあんた、元気ないし」と、他の皆には聞こえないくらいの声量で付け足した。
「そうだね、あはは」と苦笑を洩らせば、「早く元気なって来なさい!」と、背中をおもいっきり叩かれた。めちゃくちゃ痛い。

「ごめんね、今、準備するから」
待っている四人に告げて、バッグを取りに行く。
ふと、目に入ったカレンダー。
赤いマジックで書かれた“合同練習”の文字。
一瞬だけ、心がざわつくが、ふるふると頭を振って気を逸らす。

――そう、もう昔の話だ。

「お待たせ、帰ろうか」




2015.04.09



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