廃れた教会。
牧師さんが数年前に亡くなってから、この場所は誰も寄り付かなくなってしまった。綺麗に掃除されていた空間も、今ではすっかり埃を被ってしまっている。濁ったステンドグラス。蜘蛛の巣の張った十字架。色褪せた絵画。見様によってはまるでホラー。だけど、私は、この教会が好きで、勝手に侵入を繰り返しては一人でぼーっと時間を潰している。
「帰りたく、ない、なぁ…」
腕時計を見ながらポツリと呟く。私には家がない。家以前に、家族も居ない。気が付いたらそこに独りで居たんだ。本当に、気が付いたら。
テレビの電源をつけるかのように、いきなり、途中から。ぷつり、と。私は存在した。
「…今日も、独りだもんな」
広い空間に響いた声。冷えた指先で十字架に触れる。
『シェダル、貴女は良く此処に来ますね』
『此処に来れば独りじゃないですから』

何年前の話だっただろうか。もう覚えていない。それくらい前の話。私はあの人の事を“先生”と呼んでいた。その先生はもう此処には居ない。私は本当に独りになってしまった。今だって、独りが耐えきれなくて、こうして教会を訪れている。
可笑しな話だ。最初から孤独だったはずなのに。寂しくて堪らない。
「先生、私はいつまで独りなのでしょうか」
その刹那、


「…―――シェダル。」


私を呼ぶ、澄んだ声。
振り向けば、私と全く同じ容姿をした人が立っていた。
その人は、日の光を浴びて、私に向かって両腕を広げた。


「…――やっと、見付けた。僕の“半身”。」




2013.03.28

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